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12年。
しおりを挟む堕ちた時、紫色に跳ねる黄泉の洞窟で背のまま向いた眼差しに脚を掴まれた。
浅い水面に突如と浮き上がった異質は、一糸纏わずの長い髪を濡らし物の怪の如く明ける月夜に雫を跳ね上げている。
「見物料なんて取りゃしないけれどさ、ソレと君は番いなのかい?」
姫ヶ淵、標高高くからを源とした下流の池溜まり。今だ残る月夜に現れた真白い背がまるで恥らう事も無く水面を分けた。
化かされた様たうたうに「すみません」と何度も繰り返す……そうだろう、喰われてしまってはたまったモノではないのだから。
「面白いモノを連れているんだね君は。それじゃぁまるで生霊だ」
範疇を越えると人の思考は停止すると言うけれど、四節はまるで想いを聞かないのだから恐らく僕は濡れ草に脚でも滑らせて黄泉へ墜ちたのだろう。
「 “ 月が綺麗ですね ” とでも言った方がいいのかな。だけれど注連縄じみたモノを逆に張ってあるから心配には及ばないよ」
ーー
「……貴方は “ あの世の案内人 ” とかの類いなのですか? ……ぼ、僕は死んだのでしょうか」
溢した言葉と共に随分と滑稽な顔でもしていたのだろう。大きな眼をキョトンとすると、彼女は笑みを三日月ように見せて『馬鹿な事を』と言った。
死んでは無いのだと指先を跳ねらせ、忘れていた息に胸を下ろしたのだけれど、三日月から続いた事は黄泉よりも深底の奈落へと僕を導いたんだ。
ーー
そうか……でも君が連れているそれはね、亡くなった妹さんがまるで守護霊の如くってモノでは無くてさ。自身の悲観が作り出した “ 君の生霊 ” だよ。
だけれどそんな上等なモノを作れるなんて存外 “ 死返し ” を持つ生魂なのかもしれないね。それでは私も委ねたくなるってモノだ。どうだろう? 私も随分と身体が冷えてしまったようだからさ、手を引いてもらえないかな。
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