雪と月

女装きつね

文字の大きさ
上 下
39 / 53

高田美奈の件。

しおりを挟む

「何を見ているのかって? そうだね……どうやらそれは病気らしいのだけれどさ、私は必要な時だけしか左脳を動かしていないようなんだよ」


ーー幼少の雪乃さんと級友である高田美奈たかだみなさんが店を訪れた翌週、連れ立って彼女の家を訪れた。

 残暑の暮れを遮らないマンションの高層階、しかし閉ざしたカーテンのせいなのか室内は随分と湿度を溜めたような冷たさだった。

 『……子供二人が自殺した家』

 躊躇は遠くなる二人の背に、用意されたスリッパを履き倦ねてしまうほど想い余した僕を余所目に、雪乃さんはスタスタと脚を運んだリビングで片隅の壁を眺め倦ねていた。

「今どき、他は時分のインテリアで揃えているのに……美奈さん、こうゆうのは旦那様の?」

 雪乃さんが指をさした先、そこにはバラバラの時を示したアンティークの振り子時計が四つ壁に掛けられ、目下には黒電話が2つ置かれている。……確かに不釣り合いだ、そこだけがまるで別世界のように。

「次男が自ら刃物を刺した直後あたりに美奈さんのパート先へ旦那様から電話があったんだよね? 確か」

 何でも亭主は美奈さんの再婚相手らしく、子供達も慣れた頃合いだからと一年程前にようやく籍を入れたばかりのようだ。
 だけれど順風満帆とはいかず、亭主が営む機械関係の輸入業は昨今の時勢で厳しさが増し、美奈さんもパートに出るようになったらしい。子息も十歳と十一歳なのだから事は無いだろうとの思惑もあったようだ。

 しかし、家屋に保護者が空白となる日中の頃に “ ソレ ” は起きてしまったのだと言う。


「水月を私の部屋に寄こすからさ、美奈さんは彼の部屋に住み移って欲しいんだ。手筈は私が引き受けるから旦那様とは離婚して便りを断たなきゃね……美奈さん、おそらく次の自害者は “ 君 ” になってしまうんだ」


ーー夜逃げのよう美奈さんの荷物を運び、すっかりに暮れ落ちた後、ようやく夏の喉にコタツの二人がビールを流した時、紫煙を覗かせる隙間から雪乃さんが言った「とびきりのホラー話だからね、漏れなく聞いた者も呪われるのだけれどね……耳を傾けてみたい?」と。

ーーどこで学んだのやらだけれど……あの振り子時計、全部違う時刻を指していたでしょ? あれね、 “ 秒刻み ” のタイミングで拍子を打っていたんだよ。

 宗教なんかではよくあるのだけれど無意識にトリップさせるんだ、催眠術みたいにね。そこに二台の黒電話が鳴り周波数、デビルトーンで暗示を加速させる……あとはまぁ電話越しに「死ね」とでも言えばいいのさ。

 ……何ひとつ “ 証拠 ” は無いけれどね、伊丹いたみさんにでも探ってもらったら出ると思うよ。二人の子息が自害する寸前の通話履歴が。

 相手は既に “ 二人 ” もあやめているんだから、それはもう “ 人 ” の思考ではないんだよ。もしも美奈さんと私が死んでしまった後、水月が思わず出会ってしまったのなら犯人に悟られずに済む事はね、恐らく無いのだもの。


ーーだからと雪乃さんは “ 霊障 ” だと美奈さんを諭したらしい……真相を知るのは僕と雪乃さんの二人だけだ。


 覚悟はある? あとは任せるよと雪乃さんは紫煙を揺らしていた……『お前もこちら側だ』とでも微笑むように。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

由紀と真一

廣瀬純一
大衆娯楽
夫婦の体が入れ替わる話

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...