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MIYABI。
しおりを挟む「霊障うんぬんではなくてさ、知らずにとは言えまるで不可逆な自殺行為なんだ。沙也加さんのそれに唯一可能性があるのなら催眠療法だろうけれど、世にまだ成功事例が無いんだよ」
「そ、それじゃあ私は……」
「沙也加さんは身体だけを残して消えてしまう事になるね。……四方、手を尽くしてはみるけれど、仕方のない事だと据えてほしい」
ーー三十歳にも満たない女性の顔に月明かりが映る。しかしその故では無い、恐らく彼女にとって “ 最期の綱 ” であったであろう雪乃さんの糸は手を伸ばした目前にぷつりと切れたのだのだから。
店に繁く通い詰めていた彼女が昨夜、突如崩れながら雪乃さんに嘆願した『このままでは自分が消えてしまう』と。
聞くと二、三日単位で記憶が飛んでしまうと言う。その忘却は日を追う毎にどんどん長くなっているらしく、これが “ 霊障 ” の類ならばと雪乃さんを頼ったのだ。
ーー雪乃さんから聞いた話だ。
“ トゥルパ ” 。現代にはタルパなんて言われているけれどさ、元はチベットの高僧だけが出来るような奇術でね、 陰陽で言うところの形代、分身を作る咒法を知らずのうち彼女はやってしまったんだよ。
彼女は毎日毎夜雅と言う亡くなった親友の写真に話しかけていただけなのだけれどね、おそらく過剰すぎた思い入れだった……それはやがて写真の雅さんが自分に話しかけてくる幻覚を生み、やがて “ イマジナリーフレンド ” になったのさ。
幼な子が作るイマジナリーフレンドなら良かったのだけれどね、現実に居た人間をイメージしたせいでソイツはあまりにも詳細に作られてしまったんだよ。
私が咒法をしたのなら形代だけの事なのだけれど、素人のこれは “ 作為的多重人格の作成 ” になってしまうんだ。
「……彼女は乗っ取られてしまうだろうね、自分が作り上げた人格の “ 雅 ” というモノに……もうそこに私の術はないんだよ」
ーー常日頃 “ 世は意識だけで構成している ” と謳う雪乃さんの言葉が目の前でまざまざと腑に落ちる。……だけれども紛れも無く、きっと今に触れる雪乃さんは僕をしかりと刻んでいた。
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