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竹取物語。
しおりを挟む行き着くまでに随分な時間を要したのは使いの洋装以外は処分しなくてはならない、ひとつモノの無い部屋にズカズカと荷物を散らかす気概に遠かった故なのだけれど、厄介なヤツが “ もうひとつ ” 。それを相手に僕は毎度奮戦を余儀なくされている。
まるでカラクリ箱のようだけれど、 “ 鍵 ” だ と言われたら確かにそうなのだろう。『少しマジナイをかけたんだよ』などと雪乃さんが猫の唇で宣うソレには鍵穴が存在していなくて、1度押し込んでから右に45度、手を離してさらにそこから90度。今度は取手を引き戻し、左に45度回転させて最後に押し込めば解錠されるという仕組みだ。
「そりゃ竹内金庫ほどではないけれどね、音や手応えを極限まで鞣したからそこらのヤツよりは上等さ」
まったく、拘る箇所が逸脱しているってモンだ。赤外線でもなきゃ攻略できない先には何ひとつ無い部屋があるだけなのだから。とは言え手合いを少し覚えたのだろう、近々は5分程度もあれば解けるようになっていた。
『……ん? 珍しいなコレは』
季節暮れる冷え込みから逃れようやく靴を揃えた時、玄関に舞う葉書に目が落ち “ どれどれコタツの上にでも置いていてあげよう ” かと触れた先に、まるで襟元で蜘蛛が這ったような違和感が走った。
それは雪乃さんが言うよう、きっと近しくなった事で触角が増えたのだろう。だけれどまるでミカドが戻るまでの時のよう、僕は目を開かずに箱舟を待つ事にしたんだ。
ーー雪乃さんから聞いた話だ。
「あぁ、京六さんからだね。判じ物でも真似たよう、彼なりの七七日の伝えなのだろうけれどさ」
ーー浅き春、桜と間違えど桃膨らます君が勝つのもしかたなしーー
「まったく11月だというのにさ、随分と遅配するものだよ。……桃というのはね、平安あたりだと不老不死の象徴、無双とか天下無敵って意味を表していてさ。それでもね、8年前まではしかりと切手が貼ってあったんだよ? 佳奈子先生の御親父は無病であればゆうに越えている年齢なはずなのだから、せざるをえないじゃないのさ。でも面白いと思わない? それからは毎度桃の葉弁がくっついているんだよ、まるで “ あちら側の切手 ” でもあるかのように」
ーー御親父まで待たせているのでは仕方がないものだと紫煙を揺らした雪乃さんの姿は、まるで木々の節穴奥底を覗くかのよう僕の瞼を漆黒に暈していった。
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