雪と月

女装きつね

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透明人間。

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 認識すれば観察が出来る。観察が出来れば干渉が出来る。干渉すると変化が起こる。

 盆を過ぎ、暮れが時折涼しくなる頃。昨今の人手不足で多忙を極める仕事に頭を抱えていた。対象の如く雪乃さんが営む酒場はどうやら暇なようだが、かような性分だ、まるで憤りを表す事もなく相変わらず呑気に自作の素麺を茹でている。

 喰えなくなったのなら、釣りでもやればイイのさ。日本は恵みに囲まれているのだからと宣う者は居るだろうけれど、言葉したのが雪乃さんならば、それはどうにも真実味が有りすぎるヤツだ。

「無視してしまえばイイんだよ。面倒なモノが居るのであればね、それは最悪なレジスタンスなのだから」

 万物、この世界に存在出来るのは認識されるか否かだけなのだからと、子供騙しのよう雪乃さんは人差し指でスプーンをぐにゃりと曲げた。この人なりの “ 励まし ” なのだろうか、しかし肩甲骨からのテコの原理なのだと微笑む様子はまるで僕を万華鏡のように惑せていった。

ーー雪乃さんから聞いた話だ。

 透明人間という本がある。1世紀もの昔にイギリスで書かれたモノだ。透明であるが故、事件の犯人が最後まで分からないと言うストーリーらしい。

「物語だからね、途中に少しだけ認識させるんだよ。だけれどもさ、もしも観察叶わなかったとしたら……それはもう盛り上がりようがないんだよ」

 人間の本能なのかもしれないね、だものかような権力者や著名だとしても必死なんだよ、“ 認識されよう ” としてさ。人類くらいじゃないのかな、そんな滑稽な行動を掻き立てられているのは。

 そう捉えたら憐れで仕方なくならない? だものね、醜悪なモノは認識しない、無視してしまって良いんだよ。潜在意識に飲み込んでしまったならそれこそ “ 深淵もまた、君をのぞきこむ ” 事になってしまうのだからさ。

「これね、行者ニンニクを練り込んでみたんだけれどさ……うん、いっそのこと素麺屋でも開こう」

 日頃から想像の範疇は面白くないじゃないと宣っているのは知っていますけれど……。だけれども雪乃さんのウルトラQは思いのほか飽きる程に僕の箸を進めた。

ーーまったくこの人は真面目とか悩むと言うモノを子宮に置いてきたのだろう。
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