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剥製。
しおりを挟む山梨県の山中、そこは初めて雪乃さんを見た場所だ。
熱気で流れる汗もすっかり落ち着いた十月の第二週、僕はそれまでとは違う冷たい雫を頬に伝わせていた。
「まさか私もそこまでじゃないよ、コレはシリコンで作ったただの模型。……だけれど私には御本尊やもしれないね。こんな場所に隠し祀っているのだから」
体育の日の連休、そろそろ見てもらいたいモノがあるからとドライブがてら旅行に誘われた。後の事だけどアレは雪乃さんなり、僕への親愛が故だったのだと思う。
二時間ほどを走り辿り着いた山梨県の山深い場所。なにか随分とくたびれた宿に車は止まった。とりあえずと荷物を置き、助手席に戻ったところで時間を余してふとミラー越しに目をやると、“ 立烏の宿 " の銘木板の下、どうやら顔見知りなのか、雪乃さんは宿の主であろう中年女性と随分と話込んでいるようだ。
「ここからは一時間もかからないからさ、ひとつ我慢してほしいんだ」
その言葉に違和感を覚えるべきだったのだろう、なにせ事後に続いた雪乃さんの言葉は、僕に粒ほどの疑念を抱かせ続けたのだから。
昼だと言うのにやけに薄暗い山中を小一時間ほど車を走らせ、姫ヶ淵と書かれていた看板の先で雪乃さんはブレーキを踏んだ。……そこはやけに古臭い感じで、神社と言うよりは " 祠 " だ。雪乃さんは至極当然にバッグから鍵と取ると観音開きに縄鎖で結ばれている戸を開け、ギギギ……と手をかけた。
声につまるとは正にこのことだろう『これは……し、……死体』僕は雪乃さんを見る事も出来ず、まるでメデゥーサのようソレに眼を突かれ放心していた。
「この人が上本佳奈子。……前に話した私の恩師、佳奈子先生だよ」
海外なんかだとね、1991年まで何の論争も起きることなく、人間の剥製が博物館に展示されていたんだよ。だけれど今の日本だと都道府県知事の許可が必要なんだ。火葬が一般的になる前の室町時代までは日本でも稀に人体剥製は作られていたらしいけどさ。
「宿の主人の瞳さんも当時の山梨県知事も……まぁ古い友人ではあるんだけれど、さも私もまでの突飛にはなれなかったよ」
ーー……拭いきれるモノじゃない、雪乃さんは確かに言ったんだ “ この人が ” と。
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