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夏風邪。
しおりを挟む紫外線の世界を生きている蝶みたいなモノでさ、眼球を取り替えでもしない限り見えるワケはないと思うでしょ?
ーー雪乃さんから聞いた話だ。
連日の素麺で体力でも落ちたのか、どうやら僕はコタツの中で夏風邪になったらしい。とは言え、多少の熱っぽさと年季の入ったアル中のような声がもどかしい程度なのだけれど。
『仕方がない、今夜は店休だね』って……読みかけの文庫をいそいそと重ねている様子はまるで事を口実にしてませんかぁ? ……横目にハァとため息まじり首を捻ると " 思い出す限りでいいからさ、子供の頃の食事を教えてほしいのだけれど ” と雪乃さんはボールペンをくるりと廻した。
「養生食を考えるのにさ、必要な事なんだよ。ブレザリアンやもしれないのだし」
さて、それは宇宙からの侵略者か? と間抜けな顔をしたのだろう、だけれど続いた言葉は生物論……いや、それらしい雰囲気で言いくるめられた僕は何やら天井格子が万華鏡のようだ。
ちなみに私はスズメバチの抗体を持っているのだけれどね、アメリカにはブレザリアンって言って光合成で不自由無く生きている人間も居るんだ。……ユーカリの葉が猛毒だったり、毒蛇に何度も噛ませて身体を慣らしたりとかね、生物ってのは環境で対応できるんだよ。だからね、体調が悪い時なんかは幼少の頃に食べ慣れたモノが一番いいんだ。
後は " 吽 ” の左手平で私が毒気をもらってあげればきっと良くなるってモンだよ。
ーーまったく……いつまでも慣れない分なのだろうけど、今日は一層めんどくさくて暖かいなこの人は。
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