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定年。
しおりを挟む「うん……引き止めはしないけれどね。40歳定年説ってのがあるんだよ」
どうせ『君は相変わらず元気がイイねぇ』とか『……血糖値でも気になるの?』なんて裏表に下着を履かされるような気分になるだろうと思ってたけれど……雪乃さんから出た言葉は、まるで卸したてのカミソリのように僕の前髪をぱらりと落とした。
「初めて “ 自分がどれだけ大した事がない人間か ” と叩きつけられるんだよ。でもそれも大切な一興さ、いいと思うよ。私も近くで見ていたいしね」
来年で35歳、コンピュータを扱う仕事をかれこれ12年ほど務め上げている、のだけれど先々がおぼろ見え始めたのもあって、僕はフリーランスで仕事をしてみようかと考えてた。“ そうなれば2人の時間も増えるのだし ” なんて想いを違和感なく問いかけたつもりが嘸かし頰を緩ませていたのだろう、雪乃さんは素麺を飲み込む前に噎せた唇を朱い箸で隠し覆った。
「……君の先輩。そうだねぇ、仕事を教わったような人だとしようか。仮に彼が40歳以上だとするでしょ? その頃には君も会社員として少しの立場もきっとあると思うんだ。そこでね、さて君が仕事を外注するとして……同じクオリティで仕事ができる25歳のフリーランスと、何か頭の上がりきらない先輩の40歳……ね? 唯一無二が無ければフリーランスってのはそこで定年なんだよ」
でも……ありがとう。大丈夫だよ唯一無二は私が請け負うから。
ーー……まったく、本当にめんどくさい人だ。
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