雪と月

女装きつね

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千円。

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『待ち合わせや約束にやたら早く行く子だから出勤前の持て余した時間にいつも寄るパチンコ屋さんがあったんだよ』

ーー雪乃さんから聞いた話だ。

 東洋一の歓楽街、当時は若いオカマってのが随分とレアだったようで、そこで飲んでいる時に居合わせた男性に声をかれられ、週末のみをショーダンサーとして勤務していたらしい。

「雪乃ちゃぁん、もう少しで出そうなんだよ」

「あ、タエおばあちゃん。おはよー♪ ん? 千円でいいの?」

 そんなのが毎度毎度だったけれども、雪乃さんはなにやら自分の祖母のように思っていたから、と返してもらおうとは考えていなかったらしい。

 それが半年くらい続いた頃。

「雪乃ちゃん、ご飯。ごちそうするよ、いつも助けてもらっているから。ね、いいだろぉ?」

『ありがとうと待ち合わせた日曜日、居合わすなり大丈夫だからとタクシーに押し込められたんだけれど、当時は近場だと降ろされたり乗車拒否が当たり前だったから心配でね。
 ご馳走するって言っていたのだからタクシー代も出すつもりなのだろうけど、彼女が遠距離のお金やチップなんて持っていると思えなかったからさ』

 そしたらね、行き先も告げていないのに車がスーッって。『あれ……こんなタクシー乗った事ないぞ、なんか広くない? この車』

「せっかくだから、私の家でご馳走しようと思って。ごめんね、レストランとかの方が良かった?」

 好きだったんだろうなぁ、私。この人とご飯ならなんでもイイやぁってハシャいでいたら『キキィー』って車が止まって運転手さんが周ってドアを開けてくれた……んだけれどさ、

『え……ハイ? 何このバケモノみたいな門……』

「伺っていましたよ、雪乃さんですよね。初めまして、母にいつも優しくしてくださっているようで」

 そこからはね、大変だったんだよ。まぁ婿養子にされかけたり、分かりもしない能を見せられたり、不釣り合いなプレゼントくれようとしたりとか。

「タエおばあちゃん……18歳にクロコのバッグが似合うと思う? あ、でも相撲見物はまた行きたいな」

 大手ゼネコンなんかにも紹介してもらえてね、いや……何かその重役さん? スーツの下にブラジャーしていたオジサンだったけれど。

 けれど変態ブラジャーさんのおかげで最新建築に触れる機会が増えて、随分とスキルアップができたんだ。頭のイイ人に囲まれて死ぬかと思ったけど、それがなかったら高卒の私には遠い世界だったと思う。

 当時ね、◯○の母みたいな感じの手相占いさんにね、三人連続で言われたんだよ。

『あなたっ、運だけで生きていけるわっ!』

 その時はホメられている気が全っ然しなかったけれど、なんか最近はね『あ……そうかも』って。

ーーでもそれっていわゆる『バカ』って言われていませんか? 雪乃さん。
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