朱の緊縛

女装きつね

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舞い込んだ羽根

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――一階に扉を構えたカフェバー――

 お客の要望で、最近は夜のフードメニューも増えている。調理の熱気と珈琲の湯気も相まってなのか、二月の窓辺は薄っすらと白化粧をしていた。

 カフェバーの店内には、カウンターが十席、四人掛けのテーブル席が三卓置かれている。店員はカウンターの中に一人だけだ。そのカウンター席に一人。窓際のテーブルには対となった二人が座っていた。

「しかしよくそんな世界を作ったもんだな」

「作ったんじゃないよ、そういう概念を持った者達が集まっているだけさ。でも私は身体がある時はその概念を理解しきれなかった、当時は君達のような仲間も居なかったしさ。私が争いや憎しみのない世界に入る為にはね、死と老い、飢餓からの解放。いわゆる身体を捨てるしかなかったんだよ」

「けど、まさかシャイターンが女の子だったとはねぇ」

「昔ちょっとエジプトで暮らしていただけなんだけどね。不細工な彫刻作ったりしやがって、ほんとにさぁ、いろいろと勝手に噂にしてくれたもんだよ」

「まったくだな」

「でも解放されてもさ、それだけじゃ楽しくないんだ。だから知る喜びと喜ばれる快楽だけは残っている」

「その為に現れたり助けたりするって事か、」

「それって……」

「あぁ、イニシエから言われるアレだよ、私みたいにね。あぁそれこそ君達もか」 

「あいつも呼んで来ないとな、せっかくあいつの姉さんが居るのだし」

「待って、姉さん。あの子はこれから色んな事があるよ、ここでさ……時間は関係ない、いつでも私達は逢いに来れるんだし。それにあの子にも既に私達が見えているはずだ。今無理やり理解させる必要はないよ」

「おにいちゃ~ん、あそびにいこーよぉ」

「あぁ、たくさん遊ぼうな」

「指輪見つけてくれてありがとうね」

「うんっ。よろこんでいたよ、あのおじさん」


「あ、いらっしゃいませぇ」

「今日は随分と風が強いなあ」

「うぅ~さぶっん~っと、トンカツラーメン」

「ちょっとっ、またですの、」

「はいっ、かしこまりましたぁ」

「おぉ~、随分お腹大きくなったなぁ。もうすぐか」

「はい、再来月の予定ですわ」

「結婚式もあるし、メデタイ尽くしだっ」

「ありがとうございます。二杯目もウイスキーのロックでいいですか?」

「おうっ、今日も飲むぞーっ」


「ね、あの子はこれからだよ。姉さん」

「うん、そうだな。あいつの結婚式も控えているし……ん? となるとお前がパパとしてスピーチするのか?」

「な、なんですかっその眼はぁ、大丈夫ですって、ちゃ、ちゃんとやれますってっ」

「そ、その見た目でパパって……」

「ぷっ、あははっ」


「あの時のヤツか、いい写真だな」

「わたくし……すごく近くに居るような気がしますわ」

「はいっ、そう思います。私も」


「さぁて、宴会すっかぁ」

「エレベータ六階まで行くのかなあ」

 開いた扉から風が入り込む。冬の風に懐き、ひらひらと店内に舞い込んだ落ち葉が一葉。そそぐ陽射しにきらりと光って映り、それはまるで一枚の羽根のように見えた。
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