28 / 47
舞い込んだ羽根
しおりを挟む――一階に扉を構えたカフェバー――
お客の要望で、最近は夜のフードメニューも増えている。調理の熱気と珈琲の湯気も相まってなのか、二月の窓辺は薄っすらと白化粧をしていた。
カフェバーの店内には、カウンターが十席、四人掛けのテーブル席が三卓置かれている。店員はカウンターの中に一人だけだ。そのカウンター席に一人。窓際のテーブルには対となった二人が座っていた。
「しかしよくそんな世界を作ったもんだな」
「作ったんじゃないよ、そういう概念を持った者達が集まっているだけさ。でも私は身体がある時はその概念を理解しきれなかった、当時は君達のような仲間も居なかったしさ。私が争いや憎しみのない世界に入る為にはね、死と老い、飢餓からの解放。いわゆる身体を捨てるしかなかったんだよ」
「けど、まさかシャイターンが女の子だったとはねぇ」
「昔ちょっとエジプトで暮らしていただけなんだけどね。不細工な彫刻作ったりしやがって、ほんとにさぁ、いろいろと勝手に噂にしてくれたもんだよ」
「まったくだな」
「でも解放されてもさ、それだけじゃ楽しくないんだ。だから知る喜びと喜ばれる快楽だけは残っている」
「その為に現れたり助けたりするって事か、」
「それって……」
「あぁ、イニシエから言われるアレだよ、私みたいにね。あぁそれこそ君達もか」
「あいつも呼んで来ないとな、せっかくあいつの姉さんが居るのだし」
「待って、姉さん。あの子はこれから色んな事があるよ、ここでさ……時間は関係ない、いつでも私達は逢いに来れるんだし。それにあの子にも既に私達が見えているはずだ。今無理やり理解させる必要はないよ」
「おにいちゃ~ん、あそびにいこーよぉ」
「あぁ、たくさん遊ぼうな」
「指輪見つけてくれてありがとうね」
「うんっ。よろこんでいたよ、あのおじさん」
「あ、いらっしゃいませぇ」
「今日は随分と風が強いなあ」
「うぅ~さぶっん~っと、トンカツラーメン」
「ちょっとっ、またですの、」
「はいっ、かしこまりましたぁ」
「おぉ~、随分お腹大きくなったなぁ。もうすぐか」
「はい、再来月の予定ですわ」
「結婚式もあるし、メデタイ尽くしだっ」
「ありがとうございます。二杯目もウイスキーのロックでいいですか?」
「おうっ、今日も飲むぞーっ」
「ね、あの子はこれからだよ。姉さん」
「うん、そうだな。あいつの結婚式も控えているし……ん? となるとお前がパパとしてスピーチするのか?」
「な、なんですかっその眼はぁ、大丈夫ですって、ちゃ、ちゃんとやれますってっ」
「そ、その見た目でパパって……」
「ぷっ、あははっ」
「あの時のヤツか、いい写真だな」
「わたくし……すごく近くに居るような気がしますわ」
「はいっ、そう思います。私も」
「さぁて、宴会すっかぁ」
「エレベータ六階まで行くのかなあ」
開いた扉から風が入り込む。冬の風に懐き、ひらひらと店内に舞い込んだ落ち葉が一葉。そそぐ陽射しにきらりと光って映り、それはまるで一枚の羽根のように見えた。
0
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる