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バンドをやろうっ!
しおりを挟む翌日、4限目の教材をたたんでさぁお昼ご飯だと唇を猫のようにワクワクさせた時、何やら教室の入り口付近からざわめきが湧いた。
「牧村沙也加さんをお願いしたいのだけど」と顔を覗かせていたのはみやび先輩と愛さんだ。
クラスメイトが浮き脚だつのも仕方ない。愛さんはあまりに目立つ才色兼備から早くも1部の1年生から “ 松浦様 ” と言われていたし、
脇から気の抜けた笑顔を覗かせているみやび先輩も、さも3枚目のような雰囲気を醸してはいるけれど、細身で低めの身長に位置の高い腰、色白な身肌に薄茶の無造作オカッパボブが似合うという顔立ちは、すぎる程に整っていて、
並んだ2人は同性の私から眺めても何かのグラビアなのかと思う程なのだから。
「わざわざ迎えにいらしていただかなくても、放課後になったらちゃんと逃げないで伺いますって」
「いやぁ、沙也加ちゃんのオッパ……じゃなくて少しでも何か決めないとなぁーって」
……お、思いっきり口走っていますけど? みやび先輩っ。何ですか、その指先のウニウニした動きはっ!
「牧村さんはお昼はお弁当? 購買?」
「あ、今日は購買でパンでも買うつもりでした」
それなら良かったと微笑む愛さん。ホント美人さんっていうのは笑顔ひとつ取っても完璧だ。身長差もだけどスラリと伸びている脚を後ろから見ていると、この人は本当に私と同じホモサピエスなのだろうか? と思わせる。
「ほーい、お待たせー。オッパイの到着ですよぉ」
「あ、冷める前でよかったです。さぁ、沙也加さん遠慮なくどうぞっ」
待て待て、いま全力でハッキリ言いましたよっ! と、私の目の前にはそんな言葉を即座に飲み込ませてしまうような光景が広がっていた。
同好会から昇格した部室の中には繋げられた6卓の机にギュウギュウと料理とデザートが並べられていたのだ。
「さぁて、打ち合わせを兼ねてランチといたしましょ。ムサシ、牧村さんの分まで食べないでよねっ」
そもそも同好会を立ち上げた理由はコレだったようだ。
何でもトモ先輩の実家は長門ブランドと言われるほどの老舗レストランで、代替わりと時代の流れに向けて色々と商品を思考中らしく、高校生の感性への期待もあって長門家次男のトモ先輩にモニターを依頼しているらしい。
要するに名店の料理をタダで食べる為に作ったサークル? 確かにそれじゃあ何も決まっていなくて当然だ。って何だよ、オッパイの到着って!
「今夜は祭りに向けて太鼓の練習があるからな、悪いがたらふく食べさせてもらうぜ、松浦」
「あとでアンケートだけは書いておいてよぉ、京介君。でも沙也加さんのおかげで昇格できたのはいいけど、結局どうしよう、学園祭」
部長の愛さんに向けたトモ先輩の言葉にあれよあれよとみやび先輩がとっぴな事ばかりを提案していた。
ムサシさんとトモ先輩が主役のBL寸劇だとか、私と愛さんにバニーガールで踊れだとか……何かとピンクな発想ばかりに業を煮やした愛さんがようやく舵を取った。いや……なんか愛さん眉間にシワを刻んでいるようですけど。
「まったく、……何か人より得意な事とかないの? みんな」
「んぁあ? 俺は腕力だな」
「じゃぁじゃあサーカスでもやろうよ! バニーガールで愛ちゃんの美脚と沙也加ちゃんのオッパイがあればそりゃもう優勝だよ。あ、トモちゃんの女の子バージョンもぷらすしてさぁ」
即座に却下と言った愛さんの鋭い視線が正面に座ってデザートに舌鼓をうっていた私に向けられた。
ひえぇえ、今ここ私のせいじゃないですよね、
「えっ……ええとぉギターとヴァイオリンなら少し……ギターだけでしたら物心ついた頃から両親に」
有名店、1級品のデザートの味が消えるほど萎縮した私がボソボソと言ったひとことに、ただでさえ大きな愛さんの眼がなおさら見開いた。
「えっ、それホント? それなら私ピアノが出来る。みやびはカラオケで高得点を出しまくるし……ムサシも太鼓は長いんだよね?」
「ぼ、僕は兄からもらったベースギターを遊び半分になら中学生から」
「楽器を揃えるのはムサシローンに委託するとして……よし、決めたよ牧村さん、みんなっ! 5人でバンドをやろうっ!」
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