邦画を見てたらどうしても気に入らない最後があったから個人的に好きなラストを作ってみた

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死に別れ

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僕は彼女を愛している。この世の中で一番彼女が好きだ。大好きだ。彼女のためにならこの命すら捧げられる。

彼女も僕と同じ想いに違いない。

だって、彼女は今泣いているのだから…。






少し前。

どうやらこの世界は滅んでしまうらしい。そしてこの世界を救うには僕と彼女のどちらかが死ななければならないと具現化した神に言われた。

「この世界は間もなく滅ぶ。この世界を救う為にはそなた等のどちらかが死ななければならない。暫し時をやろう。どちらが死ぬかを選べ。」と……。


僕は言った。
「なぜ僕達なのか…?」

神は答える。
「そなた達だからだ。」

このやり取りを納得出来るわけなんて無い。理不尽だ。怒りが込み上げる。溢れ出る怒りが虚無感の溝に沿って流れていく。

僕が思い悩んでいると、ずっと僕の隣にいてくれていた彼女が清々しさすら感じる声で、
「じゃあ、私が死のうか?」
と言った。

「それだけは辞めてくれ…。君のいない世界で生きていく自信が僕には無いんだ。生きている意味が無いんだ…ッ!」

ふふって自身の言葉に自嘲気味に笑う。だってそうだろう…。今言った全てが建前で本音では最愛の彼女が目の前で死ぬのがただ怖いだけなんだ!ってこんな場面言えるだろうか?時巻は強がるな!なんて言えるだろうが僕に言われても困る。

やっぱり、好きな人の前ではカッコつけたいんだから。

彼女は僕から目を逸らして俯く。手で目を拭いた。

「泣いているのか?」

「泣いてない…ッ」

「泣いているんだろ…?」

「泣いて…ない…の…ッ」

「泣いてくれているんだろ?」




「…………う…ん……」




そこには僕の最愛の人がいた。洋画ではよく私の天使だなんて言うが、この場面で僕はそんなことを全く思わなかった。ただ可愛くて、それでもって綺麗で、優しくて、いつも支えてくれて、たまにドジで……そして

今一緒に笑って…

今一緒に泣けている…

そんな彼女は天使なんぞの俗物ではなく僕の…


花嫁だ…。

黙って彼女の手に指輪を嵌めた。



「時間だ。」



「どちらが死ぬかを決まったか?死ぬ者よ手を挙げよ。」

スッと僕が手を挙げる。

「では、その崖へと飛び降り、その身を捧げよ。」



僕は崖の縁に立った。不思議と恐怖は無いし後悔もない。あるのはこの今の理不尽さと不条理を呪うだけだ。

足元からヒュオォと風が吹き上がって来て、髪の毛を上へと持ち上げる。

崖の底は見ない。決意が揺らぐと嫌だからだ。

ふぅーと深く息を吐く。

後ろから、風が吹く。まるで僕の心を引き返させまいと言うかのように。また、僕の心を押すかのように…。

重心を前に傾ける。跳ぶよりはこけるかのように落ちようと思った。



ドン!!

…えっ!?


僕の足はもう地面に触れていない。

…………。
胴体に違和感を感じる。
何か後ろから抱き着かれる様な違和感。


自分の胴体に目をやると、人の手があった。


突き落とされた驚きと自分の胴体に人がいる驚きで何も言えずにいると、後ろから声がした。

「ねぇ、一緒に死の?」

その声で誰かはスグに分かった。

「嫌って言ったら…?」

「んー…もう手遅れかな。」

二人の体は重力にしたがって落ちていく。風切り音が聞こえないのは、せめてもの神からの贈り物か…。

「何で…何で…うぅ…。」

「どうしたの…?泣かないでよ。そんなに死ぬのが嫌だった?言ってくれたら、私が一人で死んだのに。」

「そうじゃない…ッ」

「じゃあどうして?」

「君と一緒に死ねるのが嬉しかった…から…。」

「私も君と一緒に死ねて嬉しいよ…。はぁー、もう少しこっち側で一緒にいたかったね。」

「だね…。けど向こう側でも一緒にいようね。」

そう言って手を繋ぐ。

「もちろん。向こう側ではちゃんと幸せにしてよ…?」

「任せてよ…」




二人は次を祈り、願いながら消えていった…。


そして世界は救われた。単語ルビ
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