ループ五回目の伯爵令嬢は『ざまぁ』される前に追放されたい

星井ゆの花(星里有乃)

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時を超える手紙

06

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 レオナルド公爵から贈られたプラチナリングは、光にかざすと太陽のようだ。

「綺麗……」

 修道院暮らしでは私物は殆ど持たないのが通常だが、本当に大切なものは持ち続けて良いことになっている。ヒメリアは朝起きると、小箱にしまったプラチナリングを取り出して、何気なくカーテン越しの光にかざすのが日課となっていた。

(このリングを嵌める日が来たら、私はここから出ていかなくてはいけない。せっかく、ペリメライドから追放されて得た安息の地を、自分から離れる。本当にそれで良いのかしら?)

 コンコンコン!

 ドアをノックする音がして、同僚のシスターがヒメリアの自室に入室する。

「おはようシスターマリア。今日は次のお話し会のミーティングをするから、礼拝の後はペリメライド島での出来事をまとめたレポートをお願い。これ、集めた資料よ」
「わざわざ悪いわね、おはようシスターカタリナ。けど、すっかり私がヒメリア・ルーインだって子供達にバレちゃったわ」
「あら、あら。けど、これは公然の秘密ということで、子供達も外では内緒にしてくれるはずよ。今のあなたはシスターマリア、ヒメリア・ルーインは御伽噺の主人公。そういう設定でいきましょう。大人は皆、元王妃候補様という肩書きで見てしまうけど子供達は違うでしょう? ほとぼりが冷めるまでそれがいいわ」

 王太子との婚約破棄という形で体裁上の追放をされたヒメリアだが、島から脱出するのは一筋縄ではいかなかった。ヒメリアがタイムリープ事件の当事者であることは、しばらくの間は秘密だったはずだが。やがて、呪われた島について記録に残そうという企画が教会本部で持ち上がり、次第にヒメリアの素性は周囲にバレていった。

「いろいろと配慮してくれて、ありがとう。私自身、まだ気持ちが整理整頓されていないの。本当に、あのまま島を逃げてよかったのかって」

 タイムリープが繰り返される島でヒメリアはある時は断罪され、ようやく逃れて……命を輪廻のように取り戻した末の脱出劇だ。

「ヒメリア・ルーインはただ単に、自分だけが助かるために島を離脱したわけじゃないわ。魔女に囚われたフィオちゃんの魂を助けに戻ったじゃない。子供達が次に聞きたがっているのはその部分よね」
「あれは、私一人のチカラではなくて、いろいろな偶然も重なって。それで救出できたのだけど……ううん、偶然も神様の思召しだって神父様が励ましてくれたんだったわ」
「そうよ、最後まで信仰を胸に諦めないことが肝心よ。さっ元気のもとは朝食から!」

 先輩シスターカタリナに励まされて、まずはお勤めの前に朝食を摂ることに。カタリナは既に将来を修道院で一生過ごすと決めており、彼女の修道服は正式なシスターのみが着ることが出来る黒色だ。
 一方、ヒメリアの修道服はまだ完全な修道院入りが決まっていない者が着るグレーカラー。

 些細なやりとりでさえ信仰の違いを見た気がして、自分にとって相応しい場所はやはり修道院ではない気がしてしまう。

「私、こんな自分に自信を持てない性格で、修道女としてやっていけるかしら」

「世の中には、無神論者であっても道を間違えない人もいるけれど。殆どの人は原罪を体現してしまうから、やっぱり信仰が最後の砦になるわね。貴女は砦を守りきっているのよ」
「最後の砦……確かに何度も繰り返すタイムリープの中で、信仰を失いかけたけど。最後はここに辿り着けたわ。ここでは衣食住が保証されているし、心配事は何もない」
「そうね、ここの生活が安定しているのは修道女が持参金を持ち寄っているせいもあるけど。農園などの周囲の人々の協力も得られているわ」

 修道院の衣食住の保証を象徴するのは、安定した食料の供給だ。
 今日の朝食はオートミール入りトマトスープと目玉焼き、教会の敷地で採れるリンゴ、近所の牧場から分けてもらったベーコン。トマトは商品として出荷するには形が悪いものを分けてもらい、ベーコンはサイズがバラバラの端っこのものである。けれど、とても美味しいし不満は何もなかった。

「美味しい食事を頂いて神様のために奉仕して、貧しい国では食事に困っている人も少なからずいるのに。良い暮らしをさせてもらえていることが、贅沢に感じる。信仰に迷いのある私なんかが……いいのかなって」
「いいのよ、人は皆迷える子羊。けれどこれからもその優しい気持ちを忘れないで……例え、近い将来レオナルド公爵様に嫁いだとしてもね!」
「えぇっ? ちょっとシスターカタリナ! からかわないでよ」

 いきなり公爵様の名前を出せれて、思わず食事が喉に詰まってしまう。とはいえ、王妃教育を受けていたおかげで品よく食事をする習慣がある、少し咽せた程度で済んだ。

「だって、明日には早速レオナルド公爵様がこの修道院に視察に来られるし。貴女を案内役にご指名で……って、もしかして聞いていなかった?」
「レオナルド公爵様が、明日ここに……どうしよう手紙には何も書いてなかったのに」

 突然の知らせに、ヒメリアは動揺しながらも思わず顔が赤くなる。今朝もプラチナリングを手にして、心ときめいていたのだ。

『やはりヒメリアはシスターとして生きるよりも、外の世界で暮らす方が良い』

 そうシスターカタリナは心の中で呟いたが、その声を聴いたのはこの世界のどこかにいるであろう神様だけでなのあった。
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