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波乱のループ二周目
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しおりを挟むレイチェルはすっかり悪魔に取り憑かれてしまったカシスを見送ることすらせずに、彼女が出てしばらくしてから部屋を退室することに。
カシスとレイチェルの口論の声は、廊下の方まで聞こえていたらしく、博物館職員達が心配そうな目で見つめていた。ヒソヒソと相談したのちに、職員の一人が今日の話し合いについて聞いてきた。
「レイチェルさん、随分と大変だったみたいですが大丈夫でしたか。最近のカシス嬢は横柄が行き過ぎてて目に余りますね。酷いようなら、博物館から出入り禁止にした方がよろしいかと」
「それが宝石管理連盟の偉い人達はみんなカシスを気に入っているらしくて。偉い人達の中でカシスへの熱が醒めるまであんまり関わりたくないわ。といっても、近いうちに幻のダイヤモンドを回収するつもりみたいだけど」
「えぇっ? 特別展示の予定は、まだまだ先までありますよ。いくらなんでもあんまりだ。このままではバルティーヤ家に島ごと支配されてしまう」
せっかく好評だった幻のダイヤモンド特別展示会も、バルティーヤ家の介入により途中で中止になることになりそうである。職員はガッカリした様子で、すぐに他の職員に愚痴を言い始めていた。
(結局、宝石管理連盟はバルティーヤ家の御令嬢の言いなりだったのね。なら、どうして我が博物館に一時的な管理を任せたのよ。かえって険悪になっちゃったじゃない!)
博物館の閉館時間が過ぎて、レイチェルは日課となっている特別展示室の掃除を行う。幻のダイヤモンドは相変わらず美しく輝いていたが、いずれカシスのものになるかと思うと、以前のような愛着は湧かなくなっていた。
「そういえば、最近は南国蚕の道具の様子を見に行ってないわね。職員に任せっきりじゃ良くないし、たまには私が掃除と確認をしようかしら」
気持ちを切り替えるために、この博物館のもう一つのメインである南国蚕の歴史コーナーへと移動する。
すると、既に関係者以外は人がいなくなっているはずの館内に、赤毛の美しい女性の姿があった。赤毛の女性は緩やかな巻髪が色っぽく、顔立ちは少女がそのまま大人になったように愛らしい。黒のワンピースはスリット入りのミニスカートだが、不思議といやらしさはなくスタイルの良さが際立っていた。シルバーのハイヒールもそつなく履きこなして、洗練された大人の女性といった雰囲気だ。
(すごく綺麗な人……あんな綺麗な人がいたら目立ってしょうがないのに、初めて見かけるけど。観光客かしら、何処かの国の有名人とか? 今日のカシスと割合近しいファッションなのに、品が滲み出ててカシスとの格の違いや差を感じるわ)
「あの、お客様。閉館時間が過ぎておりますので、申し訳ございませんがそろそろ……」
「あら、もうそんな時間なの。南国蚕の糸車が懐かしくてつい見入ってしまったの。ごめんなさいね……昔、この糸車で絹糸を作った時のことを思い出してつい」
彼女の言うこの糸車というのが、果たして糸車の機種を指すのか、それとも文字通り展示されている糸車を使っていたと言う意味なのか。曖昧で、レイチェルは正解をはかり兼ねた。普通の感覚で考えれば、昔から展示されている糸車を使っていた人が生きているはずはないのだが。
「いえ、私が糸車などの確認作業をしますので。その間は見学していていいですよ、思い出の品のようですから」
「まぁ! ありがとう。じゃあ、後でお礼をしなきゃいけないわね。貴女の未来を占うなんて言うのはどうかしら? もちろん、お礼だから無料よ」
「えぇっ? 占いですか。なら、お言葉に甘えてお願いしようかな」
まさかお礼に占いをするなんて言われるとは夢にも思っていなかったレイチェルだが、今日のカシスとのトラブルを振り返ると、占いのひとつやふたつ頼んだ方がいいだろう。
* * *
いろいろあったが片付けや掃除は滞りなく終わり、レイチェルは赤毛の美女と共に博物館を出る。
「占いっていうと、カフェとかレストランとかを借りて?」
「知り合いが喫茶店で占いコーナーを開いていて、そこの応援で一時的にこの島にやって来たの。私の営業は明日からなんだけど、今日はプレ占いね」
「ふふっ何だかラッキーです。私はレイチェルって言いますけど、占い師さんのお名前は……」
「本名をもじって占い師ネームはリーナよ、赤毛の魔女リーナって呼んでね」
ニコッと微笑まれてその美しさにレイチェルは息を呑むが、赤毛の魔女という愛称は少しばかり気になるものだった。
(赤毛の魔女、か。まるで、御伽噺に出てくる赤毛の魔女みたい。けど、この島はそういう伝説があるから、宣伝のためにこの人をわざわざゲストに呼んだんだろうな)
自分で自分を納得させて、レイチェルはリーナに未来を占ってもらうことになった。予期せぬ結果が待ち受けてるとも知らずに。
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