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正編
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「ん……ふっ」
突然降り注いできた口付けに、ヒメリアは困惑せざるを得なかった。今は愛を囁く王太子だが、タイムリープの都合上、四回も自分を裏切った男だからだ。
(多分、優しかった頃のクルスペーラ王太子がタイムリープの果てに、戻って来たのね。けれど、過去のループを思うと怖いのも確か。どうしたらいいの?)
「大好きだよヒメリア、本当はキミのことを一生離したくない。けれど、僕は悪魔に操られていたとはいえ、タイムリープの中で何度もキミを裏切っていたんだと思う。国の裁量で、無実にしてもらっても僕の気持ちは晴れない。だからキミへの贖罪のためなら、どんな十字架でも喜んで背負う覚悟だ」
目に涙を浮かべながら、伝えられる計画はヒメリアの想像を覆すものだった。
「贖罪……まさか自ら、これまでのタイムリープの罪を引き受けるつもりなの?」
その絶対的な地位から見ても洗脳状態から解放された王太子ならば、異端審問は免除になるはず。しかし彼は自分の意思で、免除は受けない方針だと言う。
「ああ……キミに味合わせた心の痛みも肉体的な痛みも……全て全て償う。そして異端審問の果てに、僕が明るい空の下へ帰る日が来たら、もう一度キミにプロポーズしたい」
「……でも私、これから大陸の修道院へ行くのよ」
「ふふっ。真の聖女様であるキミを大陸が、ただのシスターで終わらせるはずがないよ。それに大陸には、キミを妻にしたいと願う素敵な公爵様がいる。その時は、三角関係になっちゃうだろうけどね」
――おそらく遠い未来の再会は、クルスペーラ王太子の夢物語でしかない。
何故なら異端審問の苦しみは、その命が尽きるまで続くとされているのだ。今日の別れをもって、異端審問後に彼がヒメリアと会うことは、永遠にないだろう。
「クルスペーラ王太子、貴方の改心の行動はきっと神様も見ているわ。私、大陸の修道院で見習いシスターをしながら、貴方の贖罪が神様に届くよう祈ってる。けれど、それで本当に終わるの? 出口の見えない悪夢のタイムリープが」
「あぁ、終わらせないといけないんだ。僕の異端審問、そして聖女フィオナの魔女裁判を行い、すべての罪人が神の裁きを受けることで。この島の因果を全て浄化するためにも」
* * *
呪われた島国の因果全てに決着をつけるため、大陸より司祭を招き神の裁きを御神託してもらうことになった。悪魔に魂を売った闇の聖女フィオナの魔女裁判、彼女に従い悪行を重ねた人々の罪の是非、そしてクルスペーラ王太子の異端審問。
場所はこの島が、大陸領土の植民地であった頃に作られたコロシアム。今は亡き古代帝国皇帝の銅像と島中の民が見守る中、神に背いた者達に審判が下されるのだ。
「聖女フィオナ、愚かな彼女のしもべ達、そして王太子クルスペーラ……前へ! これより、禁呪とされたタイムリープ魔法の常習犯であり、この国を滅ぼそうとした罪を問うため……魔女裁判と異端審問を開始する!」
「「「うぉおおおおおおおっ」」」
美しいドレスに身を纏っていた聖女姿とは打って変わって、布のワンピース一枚だけを着た聖女フィオナ。手入れされていたはずの赤い髪はストレスなのか、グジャグジャにかき乱されて、ノーメイクの目の下にはくっきりと大きなクマが出来ている。
「いやぁあああああっ! 離して、早く解放してよっ。聖女である私に逆らうなんてアンタ達、命が惜しくないのッッ! 殺すコロス殺すッ。大陸に逃げたヒメリアも馬鹿でヘボな王太子も、島の鈍臭い連中もみんなみんな、キィイイイイッ!」
発狂気味に抵抗するフィオナだが、魔力の切れた彼女はチカラを持たないただの罪人だ。今ではその変わり果てた容姿だけが、御伽噺に出てくる呪われた魔女のようであった。
『あれが、聖女フィオナ様? 噂よりも随分と酷い外見じゃないか。麗しい美女だったとの評判だったが、悪魔に魂を売るとあんな風になってしまうんだね。恐ろしい』
『王太子様も……悪魔に取り憑かれてから、随分とお変わりになられて』
一方、王太子クルスペーラは生まれながらの王族である。が、異端審問を受けるための布の服一枚の姿は痩せて青白く、別人のような印象だった。
「僕は……洗脳されていたとはいえ、自分の罪を償うつもりです」
その瞳にはタイムリープの影響で、幾度もヒメリアを裏切った罪に対する覚悟が宿っている。
さらに、聖女フィオナのお付きとして暗躍していた闇部隊や雇われメイドなども同時に、罰を受けることになるようだ。フィオナの命令でヒメリア暗殺の毒薬を調合した行商人の一人が、何とか異端審問から逃れようとその場で暴れる。
「嫌だ、嫌だ、嫌ダァ。うわぁああっ。助けてくれぇえええっ」
「えぇいっ見苦しいっ。大人しく神に身を委ねろっ」
フッッ…………!
すると罪人を逃さないと言わんばかりに、コロシアムの地面に巨大な魔法陣が浮かび上がる。
『贖罪魔法発動までカウントダウン……五、四、三……』
失われしタイムリープ四回分の罰、そのすべてが罪人に降りかかるカウントダウンが始まった。
突然降り注いできた口付けに、ヒメリアは困惑せざるを得なかった。今は愛を囁く王太子だが、タイムリープの都合上、四回も自分を裏切った男だからだ。
(多分、優しかった頃のクルスペーラ王太子がタイムリープの果てに、戻って来たのね。けれど、過去のループを思うと怖いのも確か。どうしたらいいの?)
「大好きだよヒメリア、本当はキミのことを一生離したくない。けれど、僕は悪魔に操られていたとはいえ、タイムリープの中で何度もキミを裏切っていたんだと思う。国の裁量で、無実にしてもらっても僕の気持ちは晴れない。だからキミへの贖罪のためなら、どんな十字架でも喜んで背負う覚悟だ」
目に涙を浮かべながら、伝えられる計画はヒメリアの想像を覆すものだった。
「贖罪……まさか自ら、これまでのタイムリープの罪を引き受けるつもりなの?」
その絶対的な地位から見ても洗脳状態から解放された王太子ならば、異端審問は免除になるはず。しかし彼は自分の意思で、免除は受けない方針だと言う。
「ああ……キミに味合わせた心の痛みも肉体的な痛みも……全て全て償う。そして異端審問の果てに、僕が明るい空の下へ帰る日が来たら、もう一度キミにプロポーズしたい」
「……でも私、これから大陸の修道院へ行くのよ」
「ふふっ。真の聖女様であるキミを大陸が、ただのシスターで終わらせるはずがないよ。それに大陸には、キミを妻にしたいと願う素敵な公爵様がいる。その時は、三角関係になっちゃうだろうけどね」
――おそらく遠い未来の再会は、クルスペーラ王太子の夢物語でしかない。
何故なら異端審問の苦しみは、その命が尽きるまで続くとされているのだ。今日の別れをもって、異端審問後に彼がヒメリアと会うことは、永遠にないだろう。
「クルスペーラ王太子、貴方の改心の行動はきっと神様も見ているわ。私、大陸の修道院で見習いシスターをしながら、貴方の贖罪が神様に届くよう祈ってる。けれど、それで本当に終わるの? 出口の見えない悪夢のタイムリープが」
「あぁ、終わらせないといけないんだ。僕の異端審問、そして聖女フィオナの魔女裁判を行い、すべての罪人が神の裁きを受けることで。この島の因果を全て浄化するためにも」
* * *
呪われた島国の因果全てに決着をつけるため、大陸より司祭を招き神の裁きを御神託してもらうことになった。悪魔に魂を売った闇の聖女フィオナの魔女裁判、彼女に従い悪行を重ねた人々の罪の是非、そしてクルスペーラ王太子の異端審問。
場所はこの島が、大陸領土の植民地であった頃に作られたコロシアム。今は亡き古代帝国皇帝の銅像と島中の民が見守る中、神に背いた者達に審判が下されるのだ。
「聖女フィオナ、愚かな彼女のしもべ達、そして王太子クルスペーラ……前へ! これより、禁呪とされたタイムリープ魔法の常習犯であり、この国を滅ぼそうとした罪を問うため……魔女裁判と異端審問を開始する!」
「「「うぉおおおおおおおっ」」」
美しいドレスに身を纏っていた聖女姿とは打って変わって、布のワンピース一枚だけを着た聖女フィオナ。手入れされていたはずの赤い髪はストレスなのか、グジャグジャにかき乱されて、ノーメイクの目の下にはくっきりと大きなクマが出来ている。
「いやぁあああああっ! 離して、早く解放してよっ。聖女である私に逆らうなんてアンタ達、命が惜しくないのッッ! 殺すコロス殺すッ。大陸に逃げたヒメリアも馬鹿でヘボな王太子も、島の鈍臭い連中もみんなみんな、キィイイイイッ!」
発狂気味に抵抗するフィオナだが、魔力の切れた彼女はチカラを持たないただの罪人だ。今ではその変わり果てた容姿だけが、御伽噺に出てくる呪われた魔女のようであった。
『あれが、聖女フィオナ様? 噂よりも随分と酷い外見じゃないか。麗しい美女だったとの評判だったが、悪魔に魂を売るとあんな風になってしまうんだね。恐ろしい』
『王太子様も……悪魔に取り憑かれてから、随分とお変わりになられて』
一方、王太子クルスペーラは生まれながらの王族である。が、異端審問を受けるための布の服一枚の姿は痩せて青白く、別人のような印象だった。
「僕は……洗脳されていたとはいえ、自分の罪を償うつもりです」
その瞳にはタイムリープの影響で、幾度もヒメリアを裏切った罪に対する覚悟が宿っている。
さらに、聖女フィオナのお付きとして暗躍していた闇部隊や雇われメイドなども同時に、罰を受けることになるようだ。フィオナの命令でヒメリア暗殺の毒薬を調合した行商人の一人が、何とか異端審問から逃れようとその場で暴れる。
「嫌だ、嫌だ、嫌ダァ。うわぁああっ。助けてくれぇえええっ」
「えぇいっ見苦しいっ。大人しく神に身を委ねろっ」
フッッ…………!
すると罪人を逃さないと言わんばかりに、コロシアムの地面に巨大な魔法陣が浮かび上がる。
『贖罪魔法発動までカウントダウン……五、四、三……』
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