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正編
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「ヒメリア、キミはそこで身を守っていろ。もうすぐ、増援が来るから回復魔法をかけてもらえ。それまでは僕が時間を稼ぐ……!」
「クルスペーラ王太子!」
想定外の王太子介入に、暗殺者集団も驚きを隠せない様子。彼らの計算では、とっくに聖女フィオナの傀儡と化しているはずの王太子。だが現実はヒメリア暗殺計画を阻み、あろうことか断罪されるヒメリアを助けようとしているのだ。
(こんな風に王太子に助けられる展開なんて、これまでのタイムリープではあり得なかったわ。やはり今回の時間軸は、四回目までの悲劇的なものとは違う気がする)
タイムリープを暗殺者集団が認識出来ているかは定かではない。が、五回目のループは、これまでヒメリアが体験しているどのルートとも異なる展開であることは明白だった。
計算が狂ったメイドは、苦無を片手にクルスペーラ王太子と対峙しつつ、リーダー格の暗殺者に指示を仰ぐ。
「いかが致しましょう? まさか、王太子クルスペーラが我々に歯向かうとは。何故、フィオナ様の洗脳が効いていないのか」
「えぇいっ。この島国は、王宮の手から独立した、遅かれ早かれフィオナ様の支配下に下るのだっ。王太子だからと言って遠慮することはないっ。ヒメリアと一緒にあの世に送り込むのだっ!」
「承知しました。では……遠慮なく。はぁああああっ!」
キィイイイインッ!
毒入りの苦無がクルスペーラ王太子の喉元を狙うが、氷の魔法で間一髪避けて、大事には至らない。さらにクルスペーラを援護すべく、王宮の魔法使い達も一緒に応戦に入る。
「クルスペーラ様、お怪我はありませんか?」
「あぁ大丈夫だ。それにしても暗殺者部隊とやら、王宮内の闇として隠されていたが、まさか王太子である僕に逆らうとは。覚悟は出来ているだろうな? それに聖女フィオナ、遠隔呪術で操っているのは分かっている。とはいっても……意外と秘密のコテージは近くにあるようだが。貴様にもそれ相応の罰を受けてもらう」
王太子は正気を保っているうちに、聖女フィオナと決裂したいのか、彼女の遠隔呪術について指摘し、宣戦布告をする。
『ちぃっ王太子め。今回は今までと違って、随分と逆らうのね。きぃいいっ作戦変更よ、王太子も王宮の魔法使いも、みんなまとめて皆殺しにしてっ。殺して殺して、殺しきるのよぉっ!』
それは、聖女フィオナの化けの皮が剥がれて、自らクルスペーラ王太子と結婚するルートを蹴った瞬間でもあった。
* * *
クルスペーラ王太子の指摘通り、聖女フィオナが潜むコテージは、ヒメリアが襲撃された現場の至近距離で発見された。
「お前の魔力の源である悪魔像は、我ら王宮直属部隊が破壊したぞっ。それに悪魔への生贄として捧げられた亡骸も秘密部屋で発見した。これは動かぬ証拠となるだろう。魔女裁判の準備をするがいいっ! もちろん、タイムリープ魔法の禁呪を使っていた証拠も押さえてある」
「何ですって。どうしてそんなことが……結界が破られたの?」
絶大な魔力の源である悪魔像をも破壊されて、聖女フィオナはどこにでもいる初級レベルまで魔力は落ちぶれてしまう。
「我々とて、いつまでも操られっぱなしではないのだ」
「ちくしょう、ちくしょうちくしょうっ! 放せ離せ、私を誰だと思っているのっ。悪魔が選びし聖女フィオナ様なのよぉっ。どうして五回目のループである今回だけ、上手くいかないのっ?」
最初の人生で何度も幽閉された聖女フィオナは、一度の生涯で四回に渡り悪魔に魂を売っていた。そのため悪魔契約のストックで、四回目までのタイムリープまでは、フィオナの自由に出来ていた。
「観念しろ、フィオナ。五回目のループとなる今回だけは、僕、ヒメリア、フィオナの三者に与えられた因果は対等だ。四回断罪されてもなお希望を捨てず、神の意思に従ったヒメリアに、そのご加護が訪れたのだろう。神に懺悔をするチャンスをモノにできなかったのは、キミ自身の責任だっ! 衛兵、連れて行けっ」
「いやぁあああああっ!」
ガチャン!
暴れるフィオナを王宮魔法使いと衛兵達が押さえつけて、ようやく護送馬車に乗せる。その格子が閉まると、次第に甲高い叫び声は聞こえなくなった。
思わず腰が抜けてしまい、立てなくなっているヒメリアをクルスペーラ王太子は優しく抱きとめて、何とか歩くことが出来た。
「大丈夫かい、ヒメリア。キミに何かあったらと思ったら、僕は気が気じゃなかった」
「クルスペーラ王太子、私……私……! うぅっひっく」
二度と、こんな風に至近距離で触れ合うことなどないと思っていたクルスペーラ王太子の心臓の鼓動が、ヒメリアの近くに感じられて胸が痛んだ。溢れてくる涙は止まらず、タイムリープ五回分の哀しみが込められているようだった。
「もう泣かなくていい。キミを危険な目には遭わせないから」
「クルス……あ、んっ……」
ヒメリアが憂いに満ちた王太子の瞳の色を確認する前に、柔らかな口づけがその唇に落とされていった。
「クルスペーラ王太子!」
想定外の王太子介入に、暗殺者集団も驚きを隠せない様子。彼らの計算では、とっくに聖女フィオナの傀儡と化しているはずの王太子。だが現実はヒメリア暗殺計画を阻み、あろうことか断罪されるヒメリアを助けようとしているのだ。
(こんな風に王太子に助けられる展開なんて、これまでのタイムリープではあり得なかったわ。やはり今回の時間軸は、四回目までの悲劇的なものとは違う気がする)
タイムリープを暗殺者集団が認識出来ているかは定かではない。が、五回目のループは、これまでヒメリアが体験しているどのルートとも異なる展開であることは明白だった。
計算が狂ったメイドは、苦無を片手にクルスペーラ王太子と対峙しつつ、リーダー格の暗殺者に指示を仰ぐ。
「いかが致しましょう? まさか、王太子クルスペーラが我々に歯向かうとは。何故、フィオナ様の洗脳が効いていないのか」
「えぇいっ。この島国は、王宮の手から独立した、遅かれ早かれフィオナ様の支配下に下るのだっ。王太子だからと言って遠慮することはないっ。ヒメリアと一緒にあの世に送り込むのだっ!」
「承知しました。では……遠慮なく。はぁああああっ!」
キィイイイインッ!
毒入りの苦無がクルスペーラ王太子の喉元を狙うが、氷の魔法で間一髪避けて、大事には至らない。さらにクルスペーラを援護すべく、王宮の魔法使い達も一緒に応戦に入る。
「クルスペーラ様、お怪我はありませんか?」
「あぁ大丈夫だ。それにしても暗殺者部隊とやら、王宮内の闇として隠されていたが、まさか王太子である僕に逆らうとは。覚悟は出来ているだろうな? それに聖女フィオナ、遠隔呪術で操っているのは分かっている。とはいっても……意外と秘密のコテージは近くにあるようだが。貴様にもそれ相応の罰を受けてもらう」
王太子は正気を保っているうちに、聖女フィオナと決裂したいのか、彼女の遠隔呪術について指摘し、宣戦布告をする。
『ちぃっ王太子め。今回は今までと違って、随分と逆らうのね。きぃいいっ作戦変更よ、王太子も王宮の魔法使いも、みんなまとめて皆殺しにしてっ。殺して殺して、殺しきるのよぉっ!』
それは、聖女フィオナの化けの皮が剥がれて、自らクルスペーラ王太子と結婚するルートを蹴った瞬間でもあった。
* * *
クルスペーラ王太子の指摘通り、聖女フィオナが潜むコテージは、ヒメリアが襲撃された現場の至近距離で発見された。
「お前の魔力の源である悪魔像は、我ら王宮直属部隊が破壊したぞっ。それに悪魔への生贄として捧げられた亡骸も秘密部屋で発見した。これは動かぬ証拠となるだろう。魔女裁判の準備をするがいいっ! もちろん、タイムリープ魔法の禁呪を使っていた証拠も押さえてある」
「何ですって。どうしてそんなことが……結界が破られたの?」
絶大な魔力の源である悪魔像をも破壊されて、聖女フィオナはどこにでもいる初級レベルまで魔力は落ちぶれてしまう。
「我々とて、いつまでも操られっぱなしではないのだ」
「ちくしょう、ちくしょうちくしょうっ! 放せ離せ、私を誰だと思っているのっ。悪魔が選びし聖女フィオナ様なのよぉっ。どうして五回目のループである今回だけ、上手くいかないのっ?」
最初の人生で何度も幽閉された聖女フィオナは、一度の生涯で四回に渡り悪魔に魂を売っていた。そのため悪魔契約のストックで、四回目までのタイムリープまでは、フィオナの自由に出来ていた。
「観念しろ、フィオナ。五回目のループとなる今回だけは、僕、ヒメリア、フィオナの三者に与えられた因果は対等だ。四回断罪されてもなお希望を捨てず、神の意思に従ったヒメリアに、そのご加護が訪れたのだろう。神に懺悔をするチャンスをモノにできなかったのは、キミ自身の責任だっ! 衛兵、連れて行けっ」
「いやぁあああああっ!」
ガチャン!
暴れるフィオナを王宮魔法使いと衛兵達が押さえつけて、ようやく護送馬車に乗せる。その格子が閉まると、次第に甲高い叫び声は聞こえなくなった。
思わず腰が抜けてしまい、立てなくなっているヒメリアをクルスペーラ王太子は優しく抱きとめて、何とか歩くことが出来た。
「大丈夫かい、ヒメリア。キミに何かあったらと思ったら、僕は気が気じゃなかった」
「クルスペーラ王太子、私……私……! うぅっひっく」
二度と、こんな風に至近距離で触れ合うことなどないと思っていたクルスペーラ王太子の心臓の鼓動が、ヒメリアの近くに感じられて胸が痛んだ。溢れてくる涙は止まらず、タイムリープ五回分の哀しみが込められているようだった。
「もう泣かなくていい。キミを危険な目には遭わせないから」
「クルス……あ、んっ……」
ヒメリアが憂いに満ちた王太子の瞳の色を確認する前に、柔らかな口づけがその唇に落とされていった。
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