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第4章
第10話 幻惑に踊る剣の舞
しおりを挟む「さあ、今度はこちらから攻めていくわよ。覚悟はいい、紗奈子さん?」
「えぇ! 受けて立ちますっ」
特殊スキル先制斬りの効果で殆どこちらの攻撃が一方的に通っていた第1ターンとは違い、第2ターンはレディーナさんチームが先制攻撃。上位ランクというステータスから見ても、従来の素早さはレディーナさんの方が速いはずだから、当然と言えば当然か。
「ふふっいい子ね。ちょうど良い機会だから、女性剣士のスキルアップに必要な魅せる試合の方法をたっぷりと教えてアゲル!」
シュッ!
ニッと色っぽく口角を上げて微笑むレディーナさんが腰の鞘から愛刀を一本抜き出した……と思ったら、驚いたことにもう一本、鞘の反対側からも剣が現れた。つまり二本の剣で、攻撃を仕掛けてくるということになる。
「えっ……まさか、二刀流? じゃあ攻撃力も単純に考えて……二倍?」
「ご名答、でもね紗奈子さん。剣を二本使って闘うから攻撃回数や威力が増えるなんて、そんな単純な戦法ではないのよ」
シャキッ!
二刀の剣を両手にカルメンのようなポーズで、交戦体制を整えるレディーナさん。まるでこれから舞でも披露するかのような雰囲気だ。
「おっおい。紗奈子、気をつけろよ。あれは、多分普通の二刀流じゃない。エルフやゴブリンなんかの妖精族が操るとされている剣の舞だ」
「剣の舞? 闘技場で魅せる剣って、舞を踊りながら攻撃技を繰り出すということ」
私が先制攻撃で繰り出した技は、一気に畳み掛けて攻撃回数を重ねるという点で、闘技場でのパフォーマンス向きかもしれない。が、【魅せ方】においては流石に【剣の舞】ほどではない。レディーナさんの言う魅せ方のお手本というのは、いわゆる剣技そのものが舞になっているものを指すのだろうか。
「あら、アルサルさんって博識なのね。けど、ちょっとだけ訂正……これからお見せするのはエルフの剣技とはひと味違うの。黒い妖精ゴブリン族に伝わる【幻惑に踊る剣の舞】よ、いざっ」
ザッ! シュッシュッ。キィイインッ!
こちらが身構えるよりもひと呼吸分速く、レディーナさんの剣が宙を舞う。その動きは私に対する直接攻撃だけでなく、周囲の空間を詰めていき逃げ場を奪っていくものだった。
「「「うぉおぉおおおおっ」」」
「「「レディーナぁああアアッ」」」
「「「紗奈子ちゃん、ファイトぉおおっ」」」
華麗に舞うレディーナさんの剣技にギャラリーは大盛り上がり、けれど場の空気は完全に相手チームが有利なものになってしまった。結果として、防戦一方の私はどんどん後ろへ後ろへと追いやられていく。
(どうしよう。二刀流で攻撃範囲が広い、これじゃあどんどん後ろに逃げるしか防ぎようがないじゃないっ)
「……! 紗奈子お嬢様っ。危ないっ。ガード呪文、発動っ」
ジュワッ!
クルルが咄嗟に放ったガード魔法は一時的なものだが、オレンジ色の光の壁紙が私の前方に展開されて、それ以上攻撃が通らないように凌ぐ効果が。
キィイインッ!
「なんてこと、私の攻撃が通らないっ。この魔法障壁は?」
「エクソシストの秘技、防御の障壁です。貴女からの物理攻撃は、少なくとも第2ターンの間は無効化します」
「ありがとうクルル。けど、切り札を早めに使っちゃったし、このあとは気合いで頑張らないと」
ひとまずはこの第2ターンだけでも切り抜けて、何とか体勢を立て直したいところ。流石のレディーナさんも、絶対的な効果を持つ秘技スキルの前には諦めたのか、二刀の剣のうち一つを鞘に収める。舞を踊る攻撃はこれでストップするはず……と思いきや、その態度は余裕に満ちていた。
「ふっ……お見事、と言いたいところだけど残念ね。幻惑の舞、魔法陣完成……発動っ」
舞を踊っていた空間に、青い魔法陣がくっきりと浮き上がってくる。レディーナさんの幻惑の舞は、ただの剣技ではなく、おそらく魔法剣と呼ばれる魔術と剣技の融合技だ。
「えっ……魔法陣? まさかさっきの剣の舞は、直接攻撃が目的じゃなくて魔法陣を描くためのものだったというの」
「今更、気づいてももう遅いわよっ! 幻惑に飲まれなさいっ」
「きゃああああああっ!」
ゴォオオオオオッ!
――闇の瘴気が闘技場全体を包む。
いつしか私の意識は、遠い遠いタイムリープ以前の記憶に飲み込まれていった。
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