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第4章

第06話 古代の紋章が示すその先へ

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 深い森の奥に潜む洞窟は、かつてブラックゴブリン族がヒューマン族と対立していた頃の攻防拠点だという。

「ついに来たわね、ブラックゴブリンの洞窟。入り口付近に魔除けの印があるし、ルーン文字の石碑がある。クエスト資料の情報と一致してるわ」
「なんせ、数百年前には人間と抗争があったいわくのある洞窟だ。ヒューマン族の希望代表の乙女剣士認定試験が、この洞窟で行われるのには、それなりの意図があるんだろう」

 今でこそ和平が成立し、妖精系の種族とヒューマン族は交流を深められるようになったが。歴史的な遺産からは、その名残がチラホラと見受けられる。アルサルの見解通り、種族間で争いがあったことをこの目でしっかりと確かめることも、認定試験の意図なのだ。

「そういえば、視界の暗さといい、迷宮のように入り組んだ道といい、ヒューマン族には不利な条件ばかりでしたね」

 クルルが地図を片手に、キャンプ場から洞窟までの道順を改めて確認する。ここに辿り着くまでの道のりは、天然の迷路と呼んでもいいほど複雑だった。まだ昼時にも関わらず鬱蒼とした森特有の薄暗さで、視界に不安を感じる。が、ブラックゴブリン族は夜も目がかなり利くため、拠点洞窟をここに選んだのも納得出来る。
 太陽がまだ昇っている時刻でこの暗さでは、夜間はヒューマン族の視力では圧倒的に不利だろう。
 他にも危険なところがないか、入り口付近を調べていると、アルサルが石碑に刻まれたルーン文字を見て首をかしげた。

「ルーン文字の術式から察するに、魔法罠が仕掛けられてそうだな。デイヴィッド先生から貰った呪いの石碑の本に、こういうものがあった気がする」
「えっ……何か対処法は……」

 さらに洞窟内部には、いくつかトラップがあるらしく、目的のスペースまで辿り着けるか不安だ。

「魔法罠に引っかかって、怪我でもしたらバトルどころじゃないな。よし、錬金魔法でトラップ防止魔道具を作るから、ちょっと待ってろよ」
「アルサル、本当? 助かるわ」

 素早くアルサルが慣れた手つきで、魔法鉱石と皮のブレスを四角い小型の錬金ボックスに入れて、シャカシャカと振る。すると、ブレスレット型のトラップ防止魔道具が、すぐに完成した。

「魔法罠があるところで、自動的に警告する光が灯るから、洞窟内部ではこれさえ装備していれば大丈夫だと思う。まだ試作品だけど、今回のクエストはこれで充分だろう」
「へぇ! アルサルさんの錬金って、こんな装備アイテムも作れたんだ。ブランローズ庭園のお土産コーナーに、冒険者向けのアイテムとして並べても良さそうです」
「ふふっ。ブランローズ邸に戻ったら、お父様に商品追加の提案をしても良さそうだわ。まずは、クエストを進めないと」

 水晶によく似た魔法石付きの皮ブレスレットを装備し、不思議な魔力に満ちた洞窟内部を進む。


 * * *


 外よりも肌寒さを感じさせる洞窟は、所々に壁画が描かれていて、神秘的な雰囲気だ。時折現れる虫型モンスターや蝙蝠モンスターを倒し、魔法トラップの反応を避けて順調に開けた場所に着くと、何やら足元でポヨンポヨンという音が……。

「プルプル~! 侵入者発見、排除だよっ」
「プルルン。ここより先は、僕達とゴブリン族の女剣士ディーナ様の秘密基地なんだぞ」

 厄介なモンスターが現れた。
 ボールサイズの水まんじゅうタイプモンスター【プル族】は可愛らしい外見だが、油断していると顔に張り付かれて最悪窒息させられることもある。

「ちょっとまってよ。私達は、この洞窟内で行われる試験の申し込みをしてきたの。侵入者じゃないわ」
「問答無用プル~」

 交戦体制のプル達に事情を説明するが、聞く耳持たず。五匹ほどのプルモンスターの相手をすることに。

「えぇい……先制切り!」
「プル~!」

 仕方なくショートソードで軽く薙いで追っ払うと、降参したのかぴょんぴょん跳ねて奥の部屋へと戻っていった。

「何だろう? モンスターはほとんどが人には懐かないけど、ここはゴブリンの洞窟だし……。さっきのプル達は、そのディーナってゴブリンのペットとか」

 アルサルがさっきのプル達の様子を見て、疑問点を呟く。一応プル達はモンスターのカテゴリーに該当しているし、ペットというより部下とかの部類なんだろうけど。ゴブリンの中でプルモンスターたちは、愛玩動物の部類の可能性もなくは無い。けれどそういう発想を自然と持つこと自体、アルサルも結構人間離れしている。
 いや……よく考えてみたら、アルサルはステータスオープンで判明した通り、ヒューマン族じゃないのだ。流石はこのメンバーの中で、一人だけ【種族不明】なことはある。けれど本番の試験前に、余計なことは言わないで話を合わせておく。

「……ペット。そういえば、女ゴブリン剣士が、認定試験の試験官だって話だし。あのプルモンスター達は、本当にペットか何かかもね。多分、プル達の入った部屋が、認定試験官のいる部屋だわ」
「ということは、ついにバトル試験。入り口から通しで雑魚モンスターと戦いましたし、さっきのプルが体当たりしてきた時にも、HPが削られているはず。体力回復魔法をかけておきましょう。癒しの精霊よ、チカラを貸したまえっ!」

 クルルの杖から癒しの光が発し、三人のHPが満タンまで回復した。今回のパーティーメンバーは攻撃魔法スキルが無いものの、サポートや回復の面では安定感があることを実感。
 攻撃準備が整ったところで、プルモンスターの走り去った後を辿り……ついにブラックゴブリン族の紋章が刻まれたドアの前に到着。

「この紋章が鍵代わりになっているってわけか」
「お嬢様、さっそく鍵の解除を……」
「ええ、分かってるわ。ゴブリンさん……新たな歴史を作るために協力して」

 部外者を寄せ付けないための術がかけられている紋章だが、祈るように認定試験申込者の証明書を紋章の前にかざすとロックが解除された。

 ――扉がゆっくりと開く、古代の紋章が示す……その先へ。
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