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第1章

第22話 断罪の魔物コカトリス

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 私達がそろそろ儀式を始めようとしたのを見計らったように現れたのは、剣と魔法のファンタジーRPGではお馴染みの魔物『コカトリス』だった。上空から私たちのことを見張っていて、グルグルと時計回りに回りながら接触のチャンスをうかがっている。

 クェエエエエエッ!
 クェエエエエエッ!

 空を飛ぶ魔物の中でもコカトリスは特に厄介なヤツだ。攻撃力はそれほどではないが、特殊な攻撃技として『石化現象』がある。大体のRPGでは、石化解除アイテムが導入されているため、解除することも可能であるが、アイテムなどを所持していないとゲームオーバーする割合も高い。
 しかも、私の早乙女紗奈子時代の記憶が確かなら、あの『赤と黒カラー』の2色使いの羽根が印象的なコカトリスは、様々な石化系モンスターの中でもタチの悪い『ボスキャラ』という部類だ。

「ねぇ、あの化け物も乙女ゲームのキャラクターかな?」
「そんなはずないじゃないっ。まさか、あれは……別のゲームシリーズのボスキャラッッ?」

 ヒストリア王子にコカトリスが乙女ゲームに存在するか問われて、即座に否定する。少なくとも『ガーネット・ブランローズ嬢が登場する乙女ゲームのキャラ以外』の魔物である。ということは……この大陸には、石化を解除するアイテム自体存在しない可能性が高い。

「おっおい。この国がその乙女ゲームのシナリオ基準だとして、どうしてシナリオに存在しない魔物がいきなり登場するんだよ! 何か、気づいていないだけで、あの『赤と黒カラーのコカトリス』も、一言くらい描写として登場しているだろう? あのモンスターは多分ゲストキャラだから、気づきにくいだけで……。ガーネット、いや紗奈子、よく思い出して!」

 いきなり、鋭い指摘をし始めるアルサル。先程から疑問に思っていたが、アルサルは随分と私の前世である地球のゲーム事情の飲み込みが早い。特に『赤と黒カラーのコカトリス』なんて表現方法、某ゲームのプレイヤーじゃないとしない表現なんだけど。しかも、ゲストキャラとかって言い方も、クロスオーバー系のスマホゲームか何かをプレイしている人特有の感性の持ち主のようで……。

 ――まさかとは思うが、自覚がないだけで『アルサルも転生者か何か』なのだろうか。それはともかくとして、今はコカトリスが乙女ゲームのどのルートで登場する魔物なのか、思い出すのが先決だ。

「うぅ……ええと、モンスターが登場するルート。あっっ! もしかして、ガーネット嬢が断罪されるシナリオの中に『隣国からやってきた断罪の魔物に石化された』ってものが、あった気がするわ。百年後に無実が証明されたガーネット嬢の石像が、女神像として祀られて終わるエンディングなんだけど」

 俗に言う、『ガーネット嬢の石化女神エンド』と呼ばれているエンディングだ。無実が判明するのが遅すぎて、女神像として祀られるガーネット嬢を知るのは、プレイヤーの子孫達という設定。そのため、そこまでカタルシス感もなく、オマケのエンディング扱いである。

「つまり、ここで石化させられると、百年後まで放置されるってことか。取り敢えず、『赤と黒カラーのコカトリス』のモンスターデータを冒険者スマホで調べてみよう」
「えぇっ? まさか、あのコカトリスとやりあう気?」
「今の手持ちの武器やスキルでいけそうか調べて、バトルの対策を練るんだよ。今時の入れ替わりの激しいゲーム市場でリリースされるものを、情報なしでバトルしようなんて無謀にもほどがあるぞ。予習は、勉強もゲームも基本なんだっ」

 だからどうして、異世界人のアルサルが今時のゲーム市場について語るのか。この異世界は現代の地球と文明がリンクしているため、スマホなどは存在している。けれど、日常生活に剣と魔法があるせいか、いわゆる娯楽ゲームはカードゲームやリアルテイスト双六などのアナログ的なものが主流。この異世界と世界観設定が被るRPGやバトルゲームは、それほど流行していない。
 そのため、競争相手が少なく独占市場に近いこの異世界のゲーム市場をまるで、競争社会のように言われると違和感があるのだけど。

 予習を促すその姿は……まるで、先輩ゲームプレイヤーか、塾の先生か何かのようで。異様に地球ナイズされてるアルサルに違和感を覚えつつ、言われた通りに『冒険者スマホ』でコカトリスのデータを取得。


 * * *


 断罪の魔物コカトリス
 別称:赤と黒のコカトリス
 分類:ゲストモンスター(ファンタジー系スマホRPGシリーズより)
 種族:鳥系・飛行
 難易度:イベントボスランク・A
 HP:23000
 MP:800(ただし自動回復あり)
 スキル:石化睨み

 備考:人気RPGシリーズからのゲストモンスターである『赤と黒のコカトリス』は、神話でも名を馳せている伝説の鳥であり、ご存知の方も多いだろう。なんと言っても、石化系美女メデューサに勝るとも劣らない石化攻撃が有名だ。特にこの『赤と黒のコカトリス』の石化スキルは強力で、一度完全に石化させられると特別な錬金アイテム『守護天使のキッス』と呼ばれる治療薬でしか回復出来ない。
 石化後30分以内であれば、石像のような抜け殻を残して自力で解除も可能。だが、石化の自力離脱は非常に難しく、大賢者レベルの魔力の持ち主しか出来ない芸当である。

 余談だが、この『石化の抜け殻』に羽根を取り付けて『天使像』として販売してしまう業者もあり、注意が必要だ。また、夜になると石化した本人の残留思念が、『ドッペルゲンガー』として現れることも。

 ――もしかすると、あなたの庭の天使像も誰かが石化した後の『抜け殻』かも知れない。


 * * *


(石化の自力離脱は、大賢者レベルじゃないと無理で……。抜け殻は、羽根を取り付けて天使像として販売されているんだ……。あれっそういえば、ヒストリア王子似の天使像が中庭の噴水コーナーに、たくさんあったような。まさか、あの天使像は……ヒストリア王子に似ているんじゃなくて、本物の抜け殻なんじゃ……)

 モンスターデータに冗談めいて書かれている『最後の一文』に、思わず背筋がゾクっとしてしまう。

 てっきりヒストリア王子が天使像の陰で謎の吹き替えをして、天使のお告げを演じていたと思っていたが。このデータが本当なら……天使像は石化されたヒストリア王子の抜け殻で、私にお告げを与えに来た王子似の誰かやお告げの声のうち、いずれかひとつくらいは『ドッペルゲンガー』が混ざっていた可能性も。


「データの取得は、終わったようだね。石化したとしても30分以内であれば、大賢者クラスなら自力解除が可能……となると。このバトルは、僕が適任だろう」
「えっヒストリア。まさか、1人で戦うつもりなのか?」
 さすがにバトル思考のアルサルも、ヒストリア王子が1人で戦うと言い始めるとは思わなかったのか、焦り気味だ。けれど、杖を手に魔力の補充に入るヒストリア王子はすでに戦う賢者の顔つき。

「ふっ……この僕を誰だと思っているんだい? それに、少しずつタイムリープのカラクリも読めてきたし……ね」
「……さっきの情報だけで、タイムリープのカラクリが読めたっていうの?」

 やや好戦的な瞳で微笑むヒストリア王子は自信ありげで、すでにこの先の展開を読み始めているかのようだ。あの天使像達がヒストリア王子の抜け殻だと仮定すると、過去のタイムリープ軸で何戦かしている計算になる。
 いや……ほぼ確実に、あの断罪の度に現れる『断罪の魔物』こと『赤と黒のコカトリス』はヒストリア王子の宿命の相手なのだ。
 ――愛する婚約者ガーネット嬢を『石化』させる憎い相手として……。

「乙女ゲームとやらのトロフィー的王子だからって、舐めてもらっては困る。なんと言っても僕のもうひとつの顔は、『闇の賢者の異名を持つギルドマスターのヒストリア」だよ。紗奈子とアルサルは、先に洞窟で乙女剣士に仮契約儀式を済ませてくれ……。『今回のバトルこそは』このコカトリスに勝ってみせるから」
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