チワワに転生したオレがラブリーチートで異世界を救い始めている件。

星里有乃

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第2章

31話 透明に変わる未来

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 これから生まれてくる予定の子犬達の行方は後で考えるとして、ブーケ姫達の今日から明日の計画がなんだったのか……それも重要だろう。犯人が何を阻みたかったのか? 子犬を魔王軍から奪いたいだけで、ここまでするようには思えない。

 記憶の糸を手繰り寄せて、再びブーケ姫達の会話辿ってゆく。


 * * *


「ところで、突然ハチを連れて押しかけちゃったけど、犬のご飯とかいろいろ足りてるかしら? 悪いけど、今日はここに泊まることになりそうだから。まさか、あんなにカラクリ兵達がひしめいているとは思わなかったのよ」
「滅相も無いです、姫様。元々は、ここは姫様達魔王一族が鷹狩りなどの拠点として使用するロッジです。私は、庭師兼管理人として住み込みで働かせて頂いている身。それに常時食料などの調達は行っておりますので、ご安心を。保存食のようなものがメインになってしまうのが、申し訳ないくらいです」

 普段は、魔王城周辺の森を担当する庭師の女性がこのロッジを担当しているらしく、鍵の戸締りから食料の調達、掃除まですべてを引き受けているそうだ。愛犬家のブーケ姫に合わせて、犬用のアイテムや食料も常に揃っており、突然の来訪にも対応出来るだろう。
 まぁ、基本的には魔王城の裏庭的な存在であり、敷地内と言っても過言ではない距離なのだが。周辺環境に大戦の名残のカラクリ兵が多過ぎて、ちょっとの散歩も一苦労だ。

 まさか、魔王城別棟から徒歩で15分の場所にある小屋なのに、今夜はここで泊まることになるとは。この会話までは……散歩の圏内のはずのこの場所で旅行か何かのようなノリになっていくはずだった。

「この森が『漆黒の闇が溢れる森』なんて名称になったのは、闇魔法の実験をこの森で繰り返し行ったせいですものね。カラクリ兵が潜伏しやすくなったのだって、半分は魔王軍の自業自得だわ」
「姫様、一応我々庭師も極力努力致しましたが、土壌の入れ替えには長い時間がかかりそうです。万が一のことを考えて、そのうち魔王城を移築してこの森から距離をはかった方が現実的かも知れませんね」

 そういえば、未来の魔王城はこの場所から結構離れた場所にあるんだっけ。結局、庭師の提案通り『漆黒の闇が溢れる森』と距離を置く方向性で城を移築したのだろう。

「魔族の住民だけではなく、森の動物達や精霊にも迷惑をかけて申し訳ないわ。ここが、花々に溢れる美しい森だったらどれだけ良かったか。みんなで努力して庭造りしたから、多少はマシになったけど土壌はなかなか良くならないものね」
「我々魔族でさえ、闇魔法で穢れた森を浄化するのはひと苦労です。闇魔法に強く生命体ですらないカラクリ兵らにとっては、カッコウの潜伏場所なのでしょうが」

 穢れた土壌が原因で、この辺りは危険なオーラで満ちていたのか。どうりで身体が震えると思っていたら、土地そのものが闇魔法に汚染されていたとは。だが、未来では森は無くなったものの美しい庭園が広がる綺麗な場所に変化していたな。
 伝説によると、ブーケ姫が可哀想なカラクリ兵達を救い出して、造園の仕事を与えたんだっけ。それってただ単に、カラクリ兵を自分達のものにして造園作業を行うように命令しただけなのでは?

「まるで、カラクリ兵達のための森を作るための実験みたいよね。過去の魔導師達は一体何を考えていたのかしら」
「もしかすると、さらに魔法を研究してゴーレムなどをこの森に住まわせるつもりだったのかも知れないですね。ゴーレムもカラクリ兵と同じく闇属性で無機物ですから」

 そこでふと、ブーケ姫が何かを思いついたように考え込むポーズを取り始めた。ゴーレムとカラクリ兵の意外な共通点に、ヒントを得たのだろうか。

 先程の戦いで、カラクリ兵達は乾電池で動くことが判明したばかりだし。二百五十年前に乾電池があることそのものが、不審なのだけど。

「そうだわっ! カラクリ兵よっ。実はねアイツらの動力は、取り外し可能な謎の小さなカケラがだってことが判明したの! それを外してゴーレム用の契約魔法をかけ直せばいいんだわっ」
「えっ……まさか、あのカラクリ兵をご自分のものに? す、素晴らしい発想ですっっ。森も美しくなりカラクリ兵達も有効活用できて、一石二鳥かと。是非、是非……やりましょう!」

 盛り上がる会話をよそに、チワワのオレはMP回復も兼ねてぐっすりと眠る。近日中に始まるであろうカラクリ兵狩りに向けて、英気を養うために。


 * * *


 オレが思い出せた情報はここまでだった。

(そうか! 本来は、次の日にカラクリ兵を仲間にして闇に包まれた森を復興させていくんだった)

 けれど、今この場にブーケ姫達はいないし、庭師のお姉さんは殺されてしまった。順調にいくはずの森の復興は、あの男の手によって阻まれてしまった。それが、ほんの数日のズレだとしても妨害が繰り返されれば次第に歴史の流れは変わるだろう。

 ということはやはり……未来を変えるために、何者かが動いている? いや、今のところはパピリンの子犬達を人間サイドに魔法で転送しただけ。詳しい行方が分からないだけで、無事であることが推測される。
 本来の歴史と異なる展開になりそうな部分といえば、カラクリ兵を使って森を復興させられるか否かということだ。そして、その先にある未来の分岐点には何が待ち受けているのだろうか。

 ブルーベルや魔王様、じいやさんといった未来の魔王城のメンバー達は今頃どうしているだろう? 番犬役のケルベロスはふわふわした遊び盛りの子犬でまだ頼りない。いや……過去の歴史を変更されてしまっては番犬の有無なんか、僅かな問題に過ぎないだろう。

(最悪の場合、本来の未来が消えて……まったく違う未来が描かれる可能性も)

 オレは自分が過去に飛ばされた意味が何なのか……まだこの時点では気づいていなかった。

 その頃……過去と未来をつなぐ伝記の置かれたブルーベル姫の部屋が、微かに存在自体が半透明に透け始めていた。平行して時間が進んでいるはずの未来……起こる予定だった未来が、大きく変わり始める。
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