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第2章
27話 その頃、未来の飼い主は
しおりを挟むカラクリ兵から飛び出してきた小さなカケラ。メイドのリオがオレにも見せてくれたが、オレの記憶があっていれば『単4乾電池』というものじゃないだろうか。
長っぽそくて小さいが、片側に突起がありもう片方はすっきりしている。しかも、東方の文字というのがいわゆる漢字だとすると、この異世界にもアジア圏に近しい文化の国があるということだ。
残念ながらチワワのオレには、詳しく調べる手立てがないし、何より言葉が通じない。ただ一つ言えることは、現代の魔王城周辺で乾電池が転がるならともかく、何故二百五十年前のこの場所で文明の利器である乾電池が存在しているんだ?
「ど、動力の源がっ! か、返せっ! ご主人様から頂いた、我らが魂の魔法動力をっ」
「きゃん、きゃんっ」
考える間も無く、カラクリ兵達に向けて呪文を吠えなくてはいけない。
「チッ! しつこい犬だっ。今日のところはここまでにしてやるが、次はないと思えよっ」
カラクリ兵達も動力の源を奪われて危機を感じたのか、捨て台詞を残して撤収していった。
「やったわね、ハチ! 初勝利よっ。全てのカラクリ兵を撃退することは出来なかったけど、あいつらの動力源まで手に入れてお手柄だわっ」
「本当に、凄いです! カラクリ兵は無限に動けると思われていましたが、実は動力を埋め込んで戦っていたんですね。特に『カラクリ兵・改』にはこの見慣れぬ動力が重要な様子。仕組みさえ分かれば、我々でも対処出来るようになるでしょう」
「きゃんっ」
「そうだわ、せっかくのお手柄ですもの。ご褒美をあげないとね、ちょっと待ってて。えぇと、この使い魔用の袋に……あった! はい、あなたでも食べられる小さなジャーキーよっ」
お手柄、ということで特別なオヤツをブーケ姫がくれるらしい。しかも、オレくらいの子犬でも食べられるミニジャーキーだ。
これまでのオレの食生活では未知の味であるジャーキーを、ブーケ姫の手から直接ぱくりと食べる。
ジュワッとした肉が口の中いっぱいに広がり、なんだか癖になりそうな味わいだ。サイコロ型で、チワワのオレにも食べやすいサイズ。無意識のうちに尻尾をフリフリと振ってしまう。
「うふふ、そんなに尻尾を振っちゃって。気に入ってくれたみたいね、良かったわ。これからも、バトルやクエストが成功した際にはオヤツをあげるから、頑張ってね」
「きゃうんっ(頑張るよっ)」
犬と仲良くなりたければ餌付けすれば良いとはよく言ったもので、美味しいミニジャーキーの虜になってしまうオレ。まさか自分でも、ここまで単純な思考回路だとは思わなかった。が、生後7ヶ月半にして初めて食べたジャーキーが、美味しいのだから仕方がない。
(もっと魔法が使えるようになれば、美味しいジャーキーがたくさん食べられるかも。未来に帰れるようになるまでは、ジャーキーを励みに頑張ろう)
自分以外にも未来から来訪者がいるという違和感に気づいたものの、目の前のジャーキーに気を取られて次第に恐怖は薄れていった。ブーケ達の話からそのうち未来に帰れるという安心感があったため、元の飼い主であるブルーベルがオレを探し回っているとは夢にも思わなかったのだ。
* * *
チワワのハチが二百五十年前の過去に遡り、伝説の姫君ブーケの元で使い魔の修行を開始した頃。並行して時間が経過している未来では、突如としてハチが消えたことで騒ぎになっていた。
本来の飼い主であるブルーベル姫が目を覚ますと、姫の部屋の続き間にある子犬を守るためのケージが開いていた。それだけならまだしも、ブルーベルが愛してやまないチワワのハチの姿が見えないのだ。チワワという小さな犬、尚且つまだ生後7ヶ月半のハチが自力で開けたとは思えない。
驚いたブルーベルは、朝食を食べるのも忘れ寝間着のままで、ただひたすらハチを探して城内を駆け回った。
「ハチ、何処にいっちゃったの? 怖くないから出てきて! ハチ、ハチッ」
せっかくハチと仲良くなれてきたのに、嫌われてしまったのだろうか。使い魔の訓練が嫌だったのなら、もう魔法の訓練なんか辞めるから早く帰ってきて欲しいと、ブルーベルは心の奥底から後悔した。
ママを亡くして寂しい想いをしていたブルーベルにとって、ハチは11歳の誕生日のお祝いにパパに買ってもらったかけがいのないチワワ。なんせハチはこれまでのプレゼントである洋服やアクセサリーとは違い、生きている子犬なのだ。感情がありブルーベルと同じく生命を小さな身体に宿す大切なペット、大事な家族……それがチワワのハチだ。
「姫様、落ち着いて下さいませ。普通に考えてチワワの足ではそう遠くには行けませんわ。もし、城の中にいるのであれば、ひょっこりと出てくるかも知れません」
「ハチがいつ戻ってきても遊べるように、まずは身支度をされてお食事を……。姫様が健康でないと、ハチだって困りますよ」
お世話役のメイド達がブルーベルの身を案じて、懸命に慰める。このままでは、ハチが見つかる前にブルーベルの方が参ってしまうだろう。現にいつも綺麗なサラサラの銀髪は、走り回ったせいで乱れているし、食事を食べていないせいかフラフラと足がしっかりしていない。
だが、マイナス思考になってしまっているブルーベルにとっては、どんな言葉を投げかけられてもハチのことが心配になるだけだった。
「うぅ……じゃあ、誰かに連れていかれちゃったのかも。ハチッて珍しいSSランクの使い魔だし、悪い人がハチを攫って……どうしよう。ハチ……今頃怖い思いをしていたら。ひっくひっく、ごめんね私がぐっすり寝ていたせいで……ハチ、ハチ」
「さあ、ブルーベル姫。お部屋に戻って身支度をしましょう。それからお食事も……ハチならきっと大丈夫です」
この時までは、ブルーベルもメイド達も、遣り手のギルドマスターである執事さんでさえ……ハチが過去の世界へと召喚されたことの気づいていなかった。
ブルーベルの部屋では過去の伝記のページがパラパラと音を立てて捲れ、ハチの行方を報せようとしていた。
――君のチワワは、この伝記の中にいるよ……と。
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