チワワに転生したオレがラブリーチートで異世界を救い始めている件。

星里有乃

文字の大きさ
上 下
24 / 37
第2章

24話 初クエストは『漆黒の闇が溢れる森』へ

しおりを挟む
「今日は、使い魔ハチの私とコンビを組んだ記念すべき初クエストね。まずは、森を通ってパピリンがいるロッジまで無事にたどり着くことよ」
「きゃんきゅうーん(ロッジを目指して森を行けばいいの)」

 一般的なRPGでも、初めてのクエストは比較的簡単なものが選ばれる。特にオレなんかは、潜在能力が高いというだけで、実用的に使えそうな魔法は何もない。Sランク認定の時に使った魔法に至っては、オレ自身の身が危険になるため問題外だろう。
 だから、ほぼ魔法が使えないオレの使い魔デビュークエストは、目一杯ハードルを下げてほしいものだ 。パピリンという犬を先に飼っているブーケ姫なら、使い魔の育成のノウハウくらい分かっているのだろうけれど。

「うちのお城の裏手には大きな森が広がっていて、その入り口に大きなロッジがあるの。森を管理するためだったり、鷹狩りの拠点や侵入者の観察とか、いろいろな役目があるわ。まぁ、ここからなら15分でロッジに着くからお散歩コースくらいのレベルよね。本来は……」
「きゃん(本来って何?)」

 何か含みのある言い方に、嫌な予感がする。確か、昨夜は狼が出ると大変だから、夜の外出を控えたと言っていた。逆説的に考えれば、昼間はあまり狼が出没せずに安全な道のりであるかのように感じたのだが。

 ちょっぴりビビっている様子が伝わったのか、メイドさんがオレを怖がらせないようにしつつ、森の現状を説明し始めた。

「ええとね、ハチ。今では武力を使わない冷戦状態で、本格的な戦争は行っていないのだけど。我々の国は数年前まで、いわゆる大戦の真っ只中で森にはその名残があるの。カラクリ兵って分かるかな? それが、まだ徘徊していて武器を持っていないとお散歩も危険っていうか」
 実際にイメージしやすいようにと、本棚からカラクリ兵の資料を取り出してオレに見せてくれた。

 お伽話に出てくるブリキの兵士という感じだが、武器は大きな木製の斧で、なかなか強そうである。さらに追い討ちをかけるように、ブーケ姫がカラクリ兵のすべてという本を取り出してステータスオープン数値を見せてくれる。

「そして、これがカラクリ兵のステータス数値よ。必殺技とかもいくつか発見されているから、直撃には気をつけて」


 カラクリ兵レベル65のステータスは、以下の通り。

 カラクリ兵レベル65
 種族:カラクリ兵士
 HP:650
 MP:120
 属性:物質系
 弱点:光属性
 耐性:闇属性
 スキル:カラクリスラッシュ
 必殺スキル:木こりの秘技・斬撃波
 備考:大戦の名残とされているカラクリ兵は、闇魔法使い達がカラクリ人形の兵士タイプに魂を吹き込んだもの。サイズは小さめで大体、子犬くらいである。木製の武器は直接的な殺傷能力は無いものの、犬や猫などの使い魔にとっては非常に危険であるため注意が必要だ。


 ご丁寧に読み上げ魔法付きの本から、聞きたくもないのに音声付きでカラクリ兵のステータスがオレの耳にも伝わってくる。特にか弱いオレにとっては思わず大きなチワワ耳をふさいで、細かい内容は聞きたく無いような恐怖情報である。

(おいおい、無茶苦茶危険そうだし、どの辺りがお散歩コースなんだ。二百五十年前のカラクリ技術が、どれくらいのレベルかは謎でしかないけれど。か弱いチワワのオレなんか、そんな謎のカラクリ兵に出会ったら一発で天国逝きだよ)

「こう言う感じよ。犬や猫には危険って注意書きがあるけど、大体の場合は光魔法ですぐに撃退できるし、直撃さえ喰らわなければハチでも倒せるでしょう。弱点属性には異様に反応するから、初級の光魔法を覚えるのには、良い相手よね」

 オレをビビらせないようにするためか、のほほんとした態度でカラクリ兵討伐をノルマのように語るブーケ姫。まるで、バトル周回がウォーミングアップのゲーム廃人に、捕まってしまった気分だ。

 気がつくと、オレの細いチワワ脚が恐怖でふるふると震えている。チワワは常時震えているイメージがあるが、あれは血糖値が下がっているからで恐怖で震えている訳では無い。
 けれど、今回のふるふるとした震えは、誰がどう見てもカラクリ兵への恐怖心による震えだった。常識のある現代人だったら、すぐにオレの恐怖に勘付いて今日のお散歩を取りやめてくれるはずだ。

 だが、残念ながらここは現代では無い。つい最近まで大戦中で、今も危険に満ちている『二百五十年前の魔王城』なのだ。

「姫様。この子ちょっぴり震えていますね、もしかして血糖値が下がっているのでしょうか?」
「ええ、そうかも。心配だわ……でも、獣医さんに会うには森を行きロッジまで辿りつかなくては駄目なのよね。ほら、パピリンの出産のために獣医さんがロッジに泊まり込んでいるから」

「きゃ、きゃうんっ?」

(しまった! 可愛く震えて同情をひき、外出を取りやめる展開を望んでいたが逆効果だった。むしろますます、カラクリ兵が徘徊する森に行かなきゃいけない方向性だ)

「いいこと、ハチ。この時代は、弱肉強食なの。私も今までは、大人しく悪いものが過ぎ去るのを無難にジッと耐え凌ぐタイプだったわ。でもね、それではますます悪い奴らはつけ込むの」
「きゃ、きゃーん(いや、カラクリ兵って別に徘徊しているだけで、感情とかあるの)」

 妙な説得をし始めたブーケ姫に、それとなく犬語で半論する。何となくだがブーケ姫は、犬語がほどほど理解出来ているように感じるけど気のせいか? 気づいていて尚且つ、自分の望み展開に会話を改編している気がするのだけれど。

「だからね、徹底的にチカラを見せつけて喧嘩を売ってきたことを後悔させるくらい、ガツンガツン攻めなくては駄目。守りとか逃げとかどうでもいいから、攻撃は最大の防御なのよ! ほら、ハチも自分より強いやつらが外にいるかと思うと、不思議とワクワクしてきたでしょう?」
「きゅ、きゅーん、きゃーん(いや全然。オレか弱いチワワだし。こえーよ、ブーケ姫は何かのバトルマニアかよ)」

 ブーケ姫は、新たな使い魔との最初のバトルに夢があるのか……自分が影響を受けたお伽話について語り始めた。

「使い魔との絆って、いい言葉よね。私……昔から伝わるお伽話の召喚士に憧れていたの。召喚士と絆を交わした使い魔は、いついかなる時でもご主人様のピンチに駆けつけるのよ。小さな使い魔だと猫や犬が大半だけど、大きな使い魔はドラゴンや虎なんかの場合もあるわ」
「私、そのお伽話好きで何度も読みました! 偶然見つけたドラゴンの里で、小さなドラゴンの赤ちゃんと仲良くなって……。お互いが大人になった時に再会して、冒険の旅に出るんですよね」
「そうそう! 悪い魔法使いたちがドラゴンと主人公の仲を裂こうとするんだけど、固い絆で結ばれたパートナーの仲を裂くことは出来ないのっ。そして、長い修行の末に編み出した必殺技で、悪の野望を打ち砕いて……」

 その後も延々と続くブーケ姫とメイドさんのドラゴン伝説談義……もはやチワワのオレとは別次元のバトルを取り上げているが。あくまでもドラゴン並みのバトルを展開する小型犬を目指したいようだ。

「でも、姫様……。ハチはドラゴンとは違い、身体はこんなにちっちゃいですよ。本当に……本当に大丈夫でしょうか?」
「信じるのよ……ステータスオープンの情報を! なんと言ってもドラゴン並みの戦闘能力、まさかの88万8000越えの潜在能力を……」
「……姫様! あぁ私、姫様のメイドになれて本当に良かった。もしかすると、歴史的な瞬間に立ち会っているのかも」

 大げさに盛り上がり、思わず感極まって涙をハンカチで拭うメイドさん。いつもこの人達はこんな感じなのだろうか。なんだか、イメージと違いすぎて不安なんだけど。

 清楚で可憐な美しい外見とは異なり、戦いたくて仕方のないバトル廃人のブーケ姫。
 以前聞いた伝説では、心優しいブーケ姫が可哀想なカラクリ兵を解放して造園の仕事を与えたんじゃなかったっけ? なにもかもテイストが違うし、ここからどの展開で綺麗な庭園を造るところに話が繋がるんだ。

「うふふっ。さあ行きましょう。私達のバトルフィールド、『漆黒の闇が溢れる森』へっ」
「きゃうーーーんっ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no
ファンタジー
 神様のミスで森に住む猫に転生させられた元人間。猫として第二の人生を歩むがこの世界は何かがおかしい。引っ掛かりはあるものの、猫家族と楽しく過ごしていた主人公は、ミスに気付いた神様に詫びの品を受け取る。  その品とは、全世界で使われた魔法が載っている魔法書。元人間の性からか、魔法書で変身魔法を探した主人公は、立って歩く猫へと変身する。  世界でただ一匹の歩く猫は、人間の住む街に行けば騒動勃発。  そして何故かハンターになって、王様に即位!?  この物語りは、歩く猫となった主人公がやらかしながら異世界を自由気ままに生きるドタバタコメディである。 注:イラストはイメージであって、登場猫物と異なります。   R指定は念の為です。   登場人物紹介は「11、15、19章」の手前にあります。   「小説家になろう」「カクヨム」にて、同時掲載しております。   一番最後にも登場人物紹介がありますので、途中でキャラを忘れている方はそちらをお読みください。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。

みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい! だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

処理中です...