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第2章
24話 初クエストは『漆黒の闇が溢れる森』へ
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「今日は、使い魔ハチの私とコンビを組んだ記念すべき初クエストね。まずは、森を通ってパピリンがいるロッジまで無事にたどり着くことよ」
「きゃんきゅうーん(ロッジを目指して森を行けばいいの)」
一般的なRPGでも、初めてのクエストは比較的簡単なものが選ばれる。特にオレなんかは、潜在能力が高いというだけで、実用的に使えそうな魔法は何もない。Sランク認定の時に使った魔法に至っては、オレ自身の身が危険になるため問題外だろう。
だから、ほぼ魔法が使えないオレの使い魔デビュークエストは、目一杯ハードルを下げてほしいものだ 。パピリンという犬を先に飼っているブーケ姫なら、使い魔の育成のノウハウくらい分かっているのだろうけれど。
「うちのお城の裏手には大きな森が広がっていて、その入り口に大きなロッジがあるの。森を管理するためだったり、鷹狩りの拠点や侵入者の観察とか、いろいろな役目があるわ。まぁ、ここからなら15分でロッジに着くからお散歩コースくらいのレベルよね。本来は……」
「きゃん(本来って何?)」
何か含みのある言い方に、嫌な予感がする。確か、昨夜は狼が出ると大変だから、夜の外出を控えたと言っていた。逆説的に考えれば、昼間はあまり狼が出没せずに安全な道のりであるかのように感じたのだが。
ちょっぴりビビっている様子が伝わったのか、メイドさんがオレを怖がらせないようにしつつ、森の現状を説明し始めた。
「ええとね、ハチ。今では武力を使わない冷戦状態で、本格的な戦争は行っていないのだけど。我々の国は数年前まで、いわゆる大戦の真っ只中で森にはその名残があるの。カラクリ兵って分かるかな? それが、まだ徘徊していて武器を持っていないとお散歩も危険っていうか」
実際にイメージしやすいようにと、本棚からカラクリ兵の資料を取り出してオレに見せてくれた。
お伽話に出てくるブリキの兵士という感じだが、武器は大きな木製の斧で、なかなか強そうである。さらに追い討ちをかけるように、ブーケ姫がカラクリ兵のすべてという本を取り出してステータスオープン数値を見せてくれる。
「そして、これがカラクリ兵のステータス数値よ。必殺技とかもいくつか発見されているから、直撃には気をつけて」
カラクリ兵レベル65のステータスは、以下の通り。
カラクリ兵レベル65
種族:カラクリ兵士
HP:650
MP:120
属性:物質系
弱点:光属性
耐性:闇属性
スキル:カラクリスラッシュ
必殺スキル:木こりの秘技・斬撃波
備考:大戦の名残とされているカラクリ兵は、闇魔法使い達がカラクリ人形の兵士タイプに魂を吹き込んだもの。サイズは小さめで大体、子犬くらいである。木製の武器は直接的な殺傷能力は無いものの、犬や猫などの使い魔にとっては非常に危険であるため注意が必要だ。
ご丁寧に読み上げ魔法付きの本から、聞きたくもないのに音声付きでカラクリ兵のステータスがオレの耳にも伝わってくる。特にか弱いオレにとっては思わず大きなチワワ耳をふさいで、細かい内容は聞きたく無いような恐怖情報である。
(おいおい、無茶苦茶危険そうだし、どの辺りがお散歩コースなんだ。二百五十年前のカラクリ技術が、どれくらいのレベルかは謎でしかないけれど。か弱いチワワのオレなんか、そんな謎のカラクリ兵に出会ったら一発で天国逝きだよ)
「こう言う感じよ。犬や猫には危険って注意書きがあるけど、大体の場合は光魔法ですぐに撃退できるし、直撃さえ喰らわなければハチでも倒せるでしょう。弱点属性には異様に反応するから、初級の光魔法を覚えるのには、良い相手よね」
オレをビビらせないようにするためか、のほほんとした態度でカラクリ兵討伐をノルマのように語るブーケ姫。まるで、バトル周回がウォーミングアップのゲーム廃人に、捕まってしまった気分だ。
気がつくと、オレの細いチワワ脚が恐怖でふるふると震えている。チワワは常時震えているイメージがあるが、あれは血糖値が下がっているからで恐怖で震えている訳では無い。
けれど、今回のふるふるとした震えは、誰がどう見てもカラクリ兵への恐怖心による震えだった。常識のある現代人だったら、すぐにオレの恐怖に勘付いて今日のお散歩を取りやめてくれるはずだ。
だが、残念ながらここは現代では無い。つい最近まで大戦中で、今も危険に満ちている『二百五十年前の魔王城』なのだ。
「姫様。この子ちょっぴり震えていますね、もしかして血糖値が下がっているのでしょうか?」
「ええ、そうかも。心配だわ……でも、獣医さんに会うには森を行きロッジまで辿りつかなくては駄目なのよね。ほら、パピリンの出産のために獣医さんがロッジに泊まり込んでいるから」
「きゃ、きゃうんっ?」
(しまった! 可愛く震えて同情をひき、外出を取りやめる展開を望んでいたが逆効果だった。むしろますます、カラクリ兵が徘徊する森に行かなきゃいけない方向性だ)
「いいこと、ハチ。この時代は、弱肉強食なの。私も今までは、大人しく悪いものが過ぎ去るのを無難にジッと耐え凌ぐタイプだったわ。でもね、それではますます悪い奴らはつけ込むの」
「きゃ、きゃーん(いや、カラクリ兵って別に徘徊しているだけで、感情とかあるの)」
妙な説得をし始めたブーケ姫に、それとなく犬語で半論する。何となくだがブーケ姫は、犬語がほどほど理解出来ているように感じるけど気のせいか? 気づいていて尚且つ、自分の望み展開に会話を改編している気がするのだけれど。
「だからね、徹底的にチカラを見せつけて喧嘩を売ってきたことを後悔させるくらい、ガツンガツン攻めなくては駄目。守りとか逃げとかどうでもいいから、攻撃は最大の防御なのよ! ほら、ハチも自分より強いやつらが外にいるかと思うと、不思議とワクワクしてきたでしょう?」
「きゅ、きゅーん、きゃーん(いや全然。オレか弱いチワワだし。こえーよ、ブーケ姫は何かのバトルマニアかよ)」
ブーケ姫は、新たな使い魔との最初のバトルに夢があるのか……自分が影響を受けたお伽話について語り始めた。
「使い魔との絆って、いい言葉よね。私……昔から伝わるお伽話の召喚士に憧れていたの。召喚士と絆を交わした使い魔は、いついかなる時でもご主人様のピンチに駆けつけるのよ。小さな使い魔だと猫や犬が大半だけど、大きな使い魔はドラゴンや虎なんかの場合もあるわ」
「私、そのお伽話好きで何度も読みました! 偶然見つけたドラゴンの里で、小さなドラゴンの赤ちゃんと仲良くなって……。お互いが大人になった時に再会して、冒険の旅に出るんですよね」
「そうそう! 悪い魔法使いたちがドラゴンと主人公の仲を裂こうとするんだけど、固い絆で結ばれたパートナーの仲を裂くことは出来ないのっ。そして、長い修行の末に編み出した必殺技で、悪の野望を打ち砕いて……」
その後も延々と続くブーケ姫とメイドさんのドラゴン伝説談義……もはやチワワのオレとは別次元のバトルを取り上げているが。あくまでもドラゴン並みのバトルを展開する小型犬を目指したいようだ。
「でも、姫様……。ハチはドラゴンとは違い、身体はこんなにちっちゃいですよ。本当に……本当に大丈夫でしょうか?」
「信じるのよ……ステータスオープンの情報を! なんと言ってもドラゴン並みの戦闘能力、まさかの88万8000越えの潜在能力を……」
「……姫様! あぁ私、姫様のメイドになれて本当に良かった。もしかすると、歴史的な瞬間に立ち会っているのかも」
大げさに盛り上がり、思わず感極まって涙をハンカチで拭うメイドさん。いつもこの人達はこんな感じなのだろうか。なんだか、イメージと違いすぎて不安なんだけど。
清楚で可憐な美しい外見とは異なり、戦いたくて仕方のないバトル廃人のブーケ姫。
以前聞いた伝説では、心優しいブーケ姫が可哀想なカラクリ兵を解放して造園の仕事を与えたんじゃなかったっけ? なにもかもテイストが違うし、ここからどの展開で綺麗な庭園を造るところに話が繋がるんだ。
「うふふっ。さあ行きましょう。私達のバトルフィールド、『漆黒の闇が溢れる森』へっ」
「きゃうーーーんっ」
「きゃんきゅうーん(ロッジを目指して森を行けばいいの)」
一般的なRPGでも、初めてのクエストは比較的簡単なものが選ばれる。特にオレなんかは、潜在能力が高いというだけで、実用的に使えそうな魔法は何もない。Sランク認定の時に使った魔法に至っては、オレ自身の身が危険になるため問題外だろう。
だから、ほぼ魔法が使えないオレの使い魔デビュークエストは、目一杯ハードルを下げてほしいものだ 。パピリンという犬を先に飼っているブーケ姫なら、使い魔の育成のノウハウくらい分かっているのだろうけれど。
「うちのお城の裏手には大きな森が広がっていて、その入り口に大きなロッジがあるの。森を管理するためだったり、鷹狩りの拠点や侵入者の観察とか、いろいろな役目があるわ。まぁ、ここからなら15分でロッジに着くからお散歩コースくらいのレベルよね。本来は……」
「きゃん(本来って何?)」
何か含みのある言い方に、嫌な予感がする。確か、昨夜は狼が出ると大変だから、夜の外出を控えたと言っていた。逆説的に考えれば、昼間はあまり狼が出没せずに安全な道のりであるかのように感じたのだが。
ちょっぴりビビっている様子が伝わったのか、メイドさんがオレを怖がらせないようにしつつ、森の現状を説明し始めた。
「ええとね、ハチ。今では武力を使わない冷戦状態で、本格的な戦争は行っていないのだけど。我々の国は数年前まで、いわゆる大戦の真っ只中で森にはその名残があるの。カラクリ兵って分かるかな? それが、まだ徘徊していて武器を持っていないとお散歩も危険っていうか」
実際にイメージしやすいようにと、本棚からカラクリ兵の資料を取り出してオレに見せてくれた。
お伽話に出てくるブリキの兵士という感じだが、武器は大きな木製の斧で、なかなか強そうである。さらに追い討ちをかけるように、ブーケ姫がカラクリ兵のすべてという本を取り出してステータスオープン数値を見せてくれる。
「そして、これがカラクリ兵のステータス数値よ。必殺技とかもいくつか発見されているから、直撃には気をつけて」
カラクリ兵レベル65のステータスは、以下の通り。
カラクリ兵レベル65
種族:カラクリ兵士
HP:650
MP:120
属性:物質系
弱点:光属性
耐性:闇属性
スキル:カラクリスラッシュ
必殺スキル:木こりの秘技・斬撃波
備考:大戦の名残とされているカラクリ兵は、闇魔法使い達がカラクリ人形の兵士タイプに魂を吹き込んだもの。サイズは小さめで大体、子犬くらいである。木製の武器は直接的な殺傷能力は無いものの、犬や猫などの使い魔にとっては非常に危険であるため注意が必要だ。
ご丁寧に読み上げ魔法付きの本から、聞きたくもないのに音声付きでカラクリ兵のステータスがオレの耳にも伝わってくる。特にか弱いオレにとっては思わず大きなチワワ耳をふさいで、細かい内容は聞きたく無いような恐怖情報である。
(おいおい、無茶苦茶危険そうだし、どの辺りがお散歩コースなんだ。二百五十年前のカラクリ技術が、どれくらいのレベルかは謎でしかないけれど。か弱いチワワのオレなんか、そんな謎のカラクリ兵に出会ったら一発で天国逝きだよ)
「こう言う感じよ。犬や猫には危険って注意書きがあるけど、大体の場合は光魔法ですぐに撃退できるし、直撃さえ喰らわなければハチでも倒せるでしょう。弱点属性には異様に反応するから、初級の光魔法を覚えるのには、良い相手よね」
オレをビビらせないようにするためか、のほほんとした態度でカラクリ兵討伐をノルマのように語るブーケ姫。まるで、バトル周回がウォーミングアップのゲーム廃人に、捕まってしまった気分だ。
気がつくと、オレの細いチワワ脚が恐怖でふるふると震えている。チワワは常時震えているイメージがあるが、あれは血糖値が下がっているからで恐怖で震えている訳では無い。
けれど、今回のふるふるとした震えは、誰がどう見てもカラクリ兵への恐怖心による震えだった。常識のある現代人だったら、すぐにオレの恐怖に勘付いて今日のお散歩を取りやめてくれるはずだ。
だが、残念ながらここは現代では無い。つい最近まで大戦中で、今も危険に満ちている『二百五十年前の魔王城』なのだ。
「姫様。この子ちょっぴり震えていますね、もしかして血糖値が下がっているのでしょうか?」
「ええ、そうかも。心配だわ……でも、獣医さんに会うには森を行きロッジまで辿りつかなくては駄目なのよね。ほら、パピリンの出産のために獣医さんがロッジに泊まり込んでいるから」
「きゃ、きゃうんっ?」
(しまった! 可愛く震えて同情をひき、外出を取りやめる展開を望んでいたが逆効果だった。むしろますます、カラクリ兵が徘徊する森に行かなきゃいけない方向性だ)
「いいこと、ハチ。この時代は、弱肉強食なの。私も今までは、大人しく悪いものが過ぎ去るのを無難にジッと耐え凌ぐタイプだったわ。でもね、それではますます悪い奴らはつけ込むの」
「きゃ、きゃーん(いや、カラクリ兵って別に徘徊しているだけで、感情とかあるの)」
妙な説得をし始めたブーケ姫に、それとなく犬語で半論する。何となくだがブーケ姫は、犬語がほどほど理解出来ているように感じるけど気のせいか? 気づいていて尚且つ、自分の望み展開に会話を改編している気がするのだけれど。
「だからね、徹底的にチカラを見せつけて喧嘩を売ってきたことを後悔させるくらい、ガツンガツン攻めなくては駄目。守りとか逃げとかどうでもいいから、攻撃は最大の防御なのよ! ほら、ハチも自分より強いやつらが外にいるかと思うと、不思議とワクワクしてきたでしょう?」
「きゅ、きゅーん、きゃーん(いや全然。オレか弱いチワワだし。こえーよ、ブーケ姫は何かのバトルマニアかよ)」
ブーケ姫は、新たな使い魔との最初のバトルに夢があるのか……自分が影響を受けたお伽話について語り始めた。
「使い魔との絆って、いい言葉よね。私……昔から伝わるお伽話の召喚士に憧れていたの。召喚士と絆を交わした使い魔は、いついかなる時でもご主人様のピンチに駆けつけるのよ。小さな使い魔だと猫や犬が大半だけど、大きな使い魔はドラゴンや虎なんかの場合もあるわ」
「私、そのお伽話好きで何度も読みました! 偶然見つけたドラゴンの里で、小さなドラゴンの赤ちゃんと仲良くなって……。お互いが大人になった時に再会して、冒険の旅に出るんですよね」
「そうそう! 悪い魔法使いたちがドラゴンと主人公の仲を裂こうとするんだけど、固い絆で結ばれたパートナーの仲を裂くことは出来ないのっ。そして、長い修行の末に編み出した必殺技で、悪の野望を打ち砕いて……」
その後も延々と続くブーケ姫とメイドさんのドラゴン伝説談義……もはやチワワのオレとは別次元のバトルを取り上げているが。あくまでもドラゴン並みのバトルを展開する小型犬を目指したいようだ。
「でも、姫様……。ハチはドラゴンとは違い、身体はこんなにちっちゃいですよ。本当に……本当に大丈夫でしょうか?」
「信じるのよ……ステータスオープンの情報を! なんと言ってもドラゴン並みの戦闘能力、まさかの88万8000越えの潜在能力を……」
「……姫様! あぁ私、姫様のメイドになれて本当に良かった。もしかすると、歴史的な瞬間に立ち会っているのかも」
大げさに盛り上がり、思わず感極まって涙をハンカチで拭うメイドさん。いつもこの人達はこんな感じなのだろうか。なんだか、イメージと違いすぎて不安なんだけど。
清楚で可憐な美しい外見とは異なり、戦いたくて仕方のないバトル廃人のブーケ姫。
以前聞いた伝説では、心優しいブーケ姫が可哀想なカラクリ兵を解放して造園の仕事を与えたんじゃなかったっけ? なにもかもテイストが違うし、ここからどの展開で綺麗な庭園を造るところに話が繋がるんだ。
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「きゃうーーーんっ」
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