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第1章

02話 姫様のペットとして

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「さぁハチ君、キミの生活エリアは姫様のお部屋のお隣よ。いつでも、姫様と遊べるように続き間になっているけど、チワワとしてマナーを覚えなきゃねっ」
「きゃうーん、きゃんきゃん(しつけ係さん。大丈夫、任せて)」

 魔王城についた当日から、しつけの専門家による礼儀正しいチワワになりための教育が施された。自分の住まいのポジションを覚えさせられたり、興奮して周囲の人々を噛まないようにという配慮からである。

 意外だった点は、餌の準備だけは飼い主であるブルーベル自らしてくれることだ。てっきり、餌やりはメイドさんやしつけ専門家が行うと思っていたのだが。

「ねえ、しつけ係さん。ハチの餌やりは私が自分の手でしてあげたいんだけど。美味しいドッグフードの作り方を教えてくれる?」
「えっブルーベル様自ら餌やりを行うんですか。使用人ではなくて? あの老師様、本当によろしいのでしょうか」

 意外そうに目をパチクリとさせて、じいやさんに確認を取る犬のしつけ係。
「うむ、ブルーベル姫様はハチとの絆をたしっかりとしたものにしたいと考えております。私も、姫様が望むなら餌やりをご自分の勤めとすることに賛成ですぞ」
「ほら、じいやだって賛成しているわ。なんといっても、私がハチの飼い主なんだよ。それに、魔法学校に進学したら、他の子達と一緒に使い魔の世話をするんだって」

 ケージの向こうで行われているブルーベルとしつけ係の会話内容から察すると、ブルーベルは将来魔法学校に進学する予定らしい。しかも、オレを使い魔として一緒に連れて行くつもりだ。以前、側近の人達が魔王様に話していた中立国にある魔法学校というヤツだろうか?

「それは、良い心がけですね。しかし、本当にチワワのハチを使い魔として育てる気だったとは……。確かに、このチワワからはとても大きな魔力を感じ取れます。立派な使い魔になれるように、食事の成分にも工夫をしてみましょう!」
「ありがとう! ねぇハチ、一緒に魔法少女とその使い魔として可愛いくて最強になろうねっ」

 その後も魔力テストや、身体テストなどを受けさせられて、あっという間に時間が過ぎていく。そして、チワワに転生したオレが、魔王の娘ブルーベルのペットとして城で暮らすようになってから、1ヶ月が経った。

 オレが把握している飼い主ブルーベルと周囲の環境は、以下の通りだ。

 チワワのハチ――言わずと知れたロングコートチワワのオレ。魔王の娘ブルーベルの一足早い誕生日祝いとして、飼われることになった。ラブリーチートと呼ばれるチートスキルがあるが、まだ使い魔としてのチカラは未知数である。
 元々は、地球のどこにでもいる大学生だったが事故に遭いそうになっていたチワワを助けた際に転生した。おそらくブルーベルは、オレが転生犬であることを知らない。

 ブルーベル姫――魔王の娘で、ハチの飼い主。人間でいうと、小学五年生くらいの銀髪ロング美少女。将来は魔法使いになる予定で、寄宿舎制の魔法学校に進学するつもりのようだ。
 世間知らずのお姫様かと思いきや、意外と外の世界の動きに敏感で、年齢の割にしっかり者でもある。本人曰く末っ子だから、王位継承とほぼ無縁で気楽な立場らしい。

 魔王様――ブルーベルの父親であり、このお城の城主であるお方様だ。戦争を取りやめたものの、番犬として飼ったケルベロスを現在育成中。
 そして、娘の目を盗んではオレにこっそり会いに来て、ちょっとした魔力補強のオヤツをくれるのも魔王様だ。もしかしたら犬を自分好みに育成するのが、趣味なのかも知れない。
 末っ子のブルーベルを溺愛しており、娘の存在が彼の弱点とも言えるだろう。

 ケルベロス――ファンタジー異世界に頻繁に登場する魔犬だが、まだ子犬であるためチワワ同様に可愛がられる存在。
 まだ迫力がなくポメラニアンのような風貌だが頭は3頭あり、名前は真ん中がケル、左右がベロとスーである。もちろん、命名は飼い主の魔王様だ。

 ブルーベルの兄や姉達――いくつか歳の離れた兄や姉は皆、魔法学校に進学済みで長期休暇以外は魔王城には帰ってこない。だが、お城でチワワやケルベロスを飼い始めたことはすでに知っているらしく、犬のおもちゃなどを贈ってくれた。

 じいや――ファンタジーのお姫様やお嬢様には、当然のようについている教育係のじいやさん。他の使用人からは、老師様と呼ばれている。ブルーベルのお世話をする以前は、高等魔法使いとして魔王軍で君臨していたらしい。

 犬のしつけ係――オレとブルーベルの間に入り、アレコレと世話をしてくれるお姉さん。使い魔協会という機関から派遣されており、現在はお城で長期滞在中。

 メイドさん達――ブルーベルを立派なレディにするために、日々奮闘する3人組のメイドだ。本来は、ブルーベルの洋服のお世話やヘアセットは、すべてメイドさんが行うハズらしい。
 だが、ブルーベルの魔法学校進学に向けて、ヘアスタイルから下着の洗い方などを細かく教える係となっている。

 家庭教師達――お城暮らしのブルーベルのために、通いで勉強を担当する教師達。国語や歴史などのオーソドックスな授業のほか、魔法や占いなどを教える教師もおり様々な顔ぶれだ。

 お茶仲間の令嬢達――お城で開かれるブルーベルのお茶会に、参加する貴族の少女達だ。ブルーベルは今のところ学校に通わず、お城で個人授業のみのため、お茶仲間の彼女達が主な友人関係と言えるだろう。
 魔族財閥令嬢ローゼリアを筆頭に、チワワ好きが多いのが特徴。そのため、彼女達がやってくると、オレは大いにモフられる。

 この人間関係把握リストに、ブルーベルのママの情報はない。だが、会える日が楽しみということをしょっちゅう言っており、どこか離れた場所にいるということしか分からなかった。

「さあ、もうすぐ私のお誕生日! パパが長期休暇になるお休みの日には、ハチのこともママに紹介してあげるからねっ」
「わんっ」

 満面の笑みでママについてブルーベルが語るから、きっと事情があって離れ離れなだけなんだろう。そんな風に、解釈するしかなかったのである。
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