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第八部 学園卒業試験-迷宮攻略編-
第八部 第18話 猫の日を迎えるまでに
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卒業試験に無事合格したものの、クエストを続行した好奇心旺盛なオレの双子の姉萌子。オレの攻略していた迷宮よりも1ランク低めのAランク迷宮だが、本来はかなり難しい迷宮のはずだ。
たかをくくった事が悪かったのだろうか……? 地下迷宮に設置されたトラップにかかったのだという。
「うう……猫耳、猫しっぽ……私、このままケモ耳として一生やっていくのかなぁ。私、にゃあにゃにゃーん!」
「もっ萌子ちゃん? 大丈夫かっ。爪とぎしたいなら、これ使いなよ。犬耳族用のアイテムだけどさ」
自らも狼男となっているマルスが、さっと木製の板を萌子の前に差し出す。
「ありがとにゃん……にゃにゃにゃーん!」
ばりばりばりばり……!
いらいらするのか、マルスから提供された木製の板に爪をばりばりとたてて、やるせない気持ちをぶつける。その姿は、すでに猫そのものだ。元々猫耳族のミーコよりも、なんだかケモノっぽいような……。
「お、おい。落ち着けよ萌子! どうしよう、ミーコみたいに猫耳族になるだけなら問題ないと思っていたんだけど……。なんか、雰囲気がミーコと違うし、激しくないか?」
「にゃあ、あれはケモ耳族という別の種族かもしれませんにゃ。ケモ耳族は、私たち猫耳族やココアの犬耳族と違って、バトル向きでちょっぴりハードな性格ですにゃ」
猫耳メイドのミーコ曰く、ケモ耳族は猫耳族や犬耳族とも異なる個別の種族らしい。
すると、話を黙って聞いていた犬耳を生やしたマルスが、しっぽをふりながら語り始めた。
「なぁ、もしかしてオレの狼姿もケモ耳族だったり? 萌子ちゃんと、同じ種族……やっぱり運命で結ばれているのはオレと萌子ちゃんだったんだ!」
「ええ……たぶん、マルスさんもケモ耳族かと……。地下迷宮にはケモ耳になる魔法があると伝えられているそうですわ」
地下迷宮について、調べていたという神官エリスの見立てでも、萌子とマルスはケモ耳の魔法がかかっているようだ。
「エリスの呪いを解く魔法でなんとかならないのか? このままじゃ、萌子が……」
「やってみますわね……。精霊よ、聖なるチカラを授けてこの者にかけられた呪いを解きたまえ……!」
ふわっ!
まばゆい光が萌子の身体を包み込み……一瞬だけケモ耳が消えたように見えたが……。
ぴょこん!
再び、萌子の頭部から現れる可愛らしいオレンジがかったケモ耳。もちろんしっぽも健在だ。
「うう、すでにケモ耳化が進んでいて……専門家に診てもらわないと無理ですわね。ごめんなさい……」
「そ、そんにゃー」
結局、その日はケモ耳の呪いを解くことが出来なかった。せっかく学園に帰ってきたのに、まさか姉のケモ耳で頭を悩ますとは……。次の日からは、医者や呪い解きの専門家のところを1人ずつ訪ねることに。
諦めかけた頃に訪れた魔法使いの獣医の元で、ようやく手がかりを手に入れる。
「萌子さんの症状は、間違いなくケモ耳症候群ですね。人間族のアバター体がごくまれに発症する症状で、一定期間を過ぎるとケモ耳が定着します」
ケモ耳症候群……そんな病気あったのか。たぶん異世界特有の病気なんだろうな。萌子の猫耳が、心なしかしゅんと沈んでいる……。
「……じゃあ、やっぱり萌子はこのままだとケモ耳に? 何か、薬か何かないんですか」
焦る様子のオレを、冷静な態度でなだめる獣医さん。
「まぁまぁ、ケモ耳になりたくて、わざわざケモ化の魔法を浴びにいく冒険者もいるくらいですからねぇ。そんなに、悲観的になられなくても……」
「にゃあ! でも、私は猫や犬になりたいわけじゃないのにゃん! きちんと、人間の萌子としていきていきたいのにゃん!」
結構な割合でケモ耳化がすすみ、最近では魚料理ばかり食べるようになっていた萌子だが、まだ人間に戻りたい気持ちがあるようだ。
「……そうですか。せっかく、手に入れたケモ耳ですが……本人がそうおっしゃるなら仕方がないですね。萌子さんのケモ耳は、猫族のケモ耳のようです……。なので、ケモ化の儀式が決行されるのはおそらく猫の日かと。猫耳化するか否かは、猫神さまのお気持ちひとつで、決められるのです」
ため息をつき、ケモ耳の解き方を語り始める獣医。さらに獣医の助手が、猫神様についての情報を提供してくれる。
「このあたりの猫神様は、地下迷宮の古都地域Aランク周辺にいらっしゃいます。お話から察すると、ちょうど萌子さんが卒業試験で、ケモ化の魔法を浴びた近辺ですね」
猫の日まであと数日しかないが……やるしかないだろう。問題は贈り物をどうやって見つけるかだ。
「つまり、今年の二月二十二日の猫の日の夜までに、猫神様に捧げる贈り物を用意すれば萌子は普通の人間に戻れるんだな。でも、猫神様への贈り物って……?」
「猫神様の大好物といえば、魔法のマタタビ! しかも、魔力がきわめて高まるという特殊なマタタビが必要になります。原材料となる普通のマタタビはこちらで用意できますが、きわめて強力な魔法力を注がなくてはいけません。確か、この棚に詳しい本が……」
医学書や魔法書の中から、ケモ耳系の呪いを解く方法が記載されたものをチョイスする獣医さん。ぱらぱらとページをめくり、めぼしい箇所に印を付けていく。
「何か、魔法を集める方法があるんですか? オレに出来ることなら何でも……!」
「まぁ、焦らずに……。強力なマタタビの作り方……素材となるマタタビに、魔力の元となるエレメントを錬金術で融合させる……と、あります。今のところ、エレメントを採取できそうなポイントは合戦場でしょうか? 戦神が復活したことで話題の……」
未だに交戦状態が続く、合戦場。古代の霊魂達がうじゃうじゃいるらしく、膠着状態が続いている。現在では、学園ギルドからもマルチクエスト扱いで参加可能だ。
「合戦場? 最近復活した戦神の拠点か。オレたちも合戦に加われば、エレメントが採取できるって事ですよね……。大変そうだけど、萌子の為だ。やろう!」
「こちらでは、マタタビの用意を進めておきますから……。ケモ耳化を抑えるお薬は1日2回朝晩飲んで下さいね。お大事に」
さっそく、合戦場のマルチクエストに仮エントリーを済ませて病院を後にする。一応、ケモ耳化を抑える飲み薬をもらったし、あとは戦うだけだ。エントリーのメールを送ると、状況を確認したいのか小妖精のシュシュが姿を現した。
病院内では姿を見られたくなかったのか、ペンダントとして加工されている虹色鉱石の中に戻っていたシュシュだが話はばっちり聞いていたようだ。
「イクトス、合戦場に参加することにしたんだね。歴代のイクトスも合戦の経験者は多いよ。こうして、どんどん本格的な勇者として目覚めていくのかな?」
「勇者としての目覚めがどれくらいかは分からないけれど、程々ランクも上がっているし、そろそろマルチプレイに慣れるようにしたいとは思っているよ」
マルチプレイへの参加は、転生する以前に何度か経験がある。だが、合戦場という大型のイベントへの参加は初めてだ。
卒業前に大規模なクエストを行うことになるとは……これも運命というものだろう。
「イクト……ありがとうにゃん……。私も、頑張って人間の姿に戻るにゃん!」
「萌子……一緒に頑張ろうな!」
病院の敷地を出て空を仰ぐと、合戦がどこかで行われているとは思えないほどの透き通った青空だ。爽やかな風は二月にしては暖かく、春の訪れを予感させる。
本来は、卒業式に向けて忙しい時期だが、それどころではなくなってしまった。なんとか無事に双子で卒業したいものだ。
学園ギルドへの帰路の途中、スマホから確認のメールが届く。
『合戦場マルチプレイへのエントリー確認完了! 合戦に参加することが可能です。協力者を自由に選ぶ事が出来ます。強者達の参加、お待ちしております!』
画面を確認し終え、愛用の精霊の棍を握りしめて、合戦への気合いを入れ直す。
戦闘開始を告げる合戦場の銅鑼の音が、遠くで聞こえた気がした。
たかをくくった事が悪かったのだろうか……? 地下迷宮に設置されたトラップにかかったのだという。
「うう……猫耳、猫しっぽ……私、このままケモ耳として一生やっていくのかなぁ。私、にゃあにゃにゃーん!」
「もっ萌子ちゃん? 大丈夫かっ。爪とぎしたいなら、これ使いなよ。犬耳族用のアイテムだけどさ」
自らも狼男となっているマルスが、さっと木製の板を萌子の前に差し出す。
「ありがとにゃん……にゃにゃにゃーん!」
ばりばりばりばり……!
いらいらするのか、マルスから提供された木製の板に爪をばりばりとたてて、やるせない気持ちをぶつける。その姿は、すでに猫そのものだ。元々猫耳族のミーコよりも、なんだかケモノっぽいような……。
「お、おい。落ち着けよ萌子! どうしよう、ミーコみたいに猫耳族になるだけなら問題ないと思っていたんだけど……。なんか、雰囲気がミーコと違うし、激しくないか?」
「にゃあ、あれはケモ耳族という別の種族かもしれませんにゃ。ケモ耳族は、私たち猫耳族やココアの犬耳族と違って、バトル向きでちょっぴりハードな性格ですにゃ」
猫耳メイドのミーコ曰く、ケモ耳族は猫耳族や犬耳族とも異なる個別の種族らしい。
すると、話を黙って聞いていた犬耳を生やしたマルスが、しっぽをふりながら語り始めた。
「なぁ、もしかしてオレの狼姿もケモ耳族だったり? 萌子ちゃんと、同じ種族……やっぱり運命で結ばれているのはオレと萌子ちゃんだったんだ!」
「ええ……たぶん、マルスさんもケモ耳族かと……。地下迷宮にはケモ耳になる魔法があると伝えられているそうですわ」
地下迷宮について、調べていたという神官エリスの見立てでも、萌子とマルスはケモ耳の魔法がかかっているようだ。
「エリスの呪いを解く魔法でなんとかならないのか? このままじゃ、萌子が……」
「やってみますわね……。精霊よ、聖なるチカラを授けてこの者にかけられた呪いを解きたまえ……!」
ふわっ!
まばゆい光が萌子の身体を包み込み……一瞬だけケモ耳が消えたように見えたが……。
ぴょこん!
再び、萌子の頭部から現れる可愛らしいオレンジがかったケモ耳。もちろんしっぽも健在だ。
「うう、すでにケモ耳化が進んでいて……専門家に診てもらわないと無理ですわね。ごめんなさい……」
「そ、そんにゃー」
結局、その日はケモ耳の呪いを解くことが出来なかった。せっかく学園に帰ってきたのに、まさか姉のケモ耳で頭を悩ますとは……。次の日からは、医者や呪い解きの専門家のところを1人ずつ訪ねることに。
諦めかけた頃に訪れた魔法使いの獣医の元で、ようやく手がかりを手に入れる。
「萌子さんの症状は、間違いなくケモ耳症候群ですね。人間族のアバター体がごくまれに発症する症状で、一定期間を過ぎるとケモ耳が定着します」
ケモ耳症候群……そんな病気あったのか。たぶん異世界特有の病気なんだろうな。萌子の猫耳が、心なしかしゅんと沈んでいる……。
「……じゃあ、やっぱり萌子はこのままだとケモ耳に? 何か、薬か何かないんですか」
焦る様子のオレを、冷静な態度でなだめる獣医さん。
「まぁまぁ、ケモ耳になりたくて、わざわざケモ化の魔法を浴びにいく冒険者もいるくらいですからねぇ。そんなに、悲観的になられなくても……」
「にゃあ! でも、私は猫や犬になりたいわけじゃないのにゃん! きちんと、人間の萌子としていきていきたいのにゃん!」
結構な割合でケモ耳化がすすみ、最近では魚料理ばかり食べるようになっていた萌子だが、まだ人間に戻りたい気持ちがあるようだ。
「……そうですか。せっかく、手に入れたケモ耳ですが……本人がそうおっしゃるなら仕方がないですね。萌子さんのケモ耳は、猫族のケモ耳のようです……。なので、ケモ化の儀式が決行されるのはおそらく猫の日かと。猫耳化するか否かは、猫神さまのお気持ちひとつで、決められるのです」
ため息をつき、ケモ耳の解き方を語り始める獣医。さらに獣医の助手が、猫神様についての情報を提供してくれる。
「このあたりの猫神様は、地下迷宮の古都地域Aランク周辺にいらっしゃいます。お話から察すると、ちょうど萌子さんが卒業試験で、ケモ化の魔法を浴びた近辺ですね」
猫の日まであと数日しかないが……やるしかないだろう。問題は贈り物をどうやって見つけるかだ。
「つまり、今年の二月二十二日の猫の日の夜までに、猫神様に捧げる贈り物を用意すれば萌子は普通の人間に戻れるんだな。でも、猫神様への贈り物って……?」
「猫神様の大好物といえば、魔法のマタタビ! しかも、魔力がきわめて高まるという特殊なマタタビが必要になります。原材料となる普通のマタタビはこちらで用意できますが、きわめて強力な魔法力を注がなくてはいけません。確か、この棚に詳しい本が……」
医学書や魔法書の中から、ケモ耳系の呪いを解く方法が記載されたものをチョイスする獣医さん。ぱらぱらとページをめくり、めぼしい箇所に印を付けていく。
「何か、魔法を集める方法があるんですか? オレに出来ることなら何でも……!」
「まぁ、焦らずに……。強力なマタタビの作り方……素材となるマタタビに、魔力の元となるエレメントを錬金術で融合させる……と、あります。今のところ、エレメントを採取できそうなポイントは合戦場でしょうか? 戦神が復活したことで話題の……」
未だに交戦状態が続く、合戦場。古代の霊魂達がうじゃうじゃいるらしく、膠着状態が続いている。現在では、学園ギルドからもマルチクエスト扱いで参加可能だ。
「合戦場? 最近復活した戦神の拠点か。オレたちも合戦に加われば、エレメントが採取できるって事ですよね……。大変そうだけど、萌子の為だ。やろう!」
「こちらでは、マタタビの用意を進めておきますから……。ケモ耳化を抑えるお薬は1日2回朝晩飲んで下さいね。お大事に」
さっそく、合戦場のマルチクエストに仮エントリーを済ませて病院を後にする。一応、ケモ耳化を抑える飲み薬をもらったし、あとは戦うだけだ。エントリーのメールを送ると、状況を確認したいのか小妖精のシュシュが姿を現した。
病院内では姿を見られたくなかったのか、ペンダントとして加工されている虹色鉱石の中に戻っていたシュシュだが話はばっちり聞いていたようだ。
「イクトス、合戦場に参加することにしたんだね。歴代のイクトスも合戦の経験者は多いよ。こうして、どんどん本格的な勇者として目覚めていくのかな?」
「勇者としての目覚めがどれくらいかは分からないけれど、程々ランクも上がっているし、そろそろマルチプレイに慣れるようにしたいとは思っているよ」
マルチプレイへの参加は、転生する以前に何度か経験がある。だが、合戦場という大型のイベントへの参加は初めてだ。
卒業前に大規模なクエストを行うことになるとは……これも運命というものだろう。
「イクト……ありがとうにゃん……。私も、頑張って人間の姿に戻るにゃん!」
「萌子……一緒に頑張ろうな!」
病院の敷地を出て空を仰ぐと、合戦がどこかで行われているとは思えないほどの透き通った青空だ。爽やかな風は二月にしては暖かく、春の訪れを予感させる。
本来は、卒業式に向けて忙しい時期だが、それどころではなくなってしまった。なんとか無事に双子で卒業したいものだ。
学園ギルドへの帰路の途中、スマホから確認のメールが届く。
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