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第七部 ハーレム勇者認定試験-後期編-

第七部 第28話 約束のクエスト

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 駅前のカフェで一瞬、異世界に転移したかのような気持ちになったものの、年頃の若者に良くあるゲーム没頭しすぎたせい……と解釈した萌子たち。カフェの魚介類パスタは海の幸が新鮮で、久々の外食を満喫できた。
 寄宿舎へ帰宅中、揺れるバスの中で、ルーン会長が例のスマホRPGについてぽつりぽつりと語り始める。

「カフェでダウンロードした【蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-】。せっかく、女勇者の権利をガチャでゲットしたのに、肝心の権利獲得クエストがまだ終わっていないな。良かったのか? 萌子さん」

 一応、超お嬢様寄宿舎学校の生徒会役員である自分たちが、カフェで長居しながらゲームに興じるのも抵抗があったため、今回はダウンロードとキャラクターの職業設定のみとなってしまった。
 だが、職業ガチャでゲットした萌子の女勇者という主役級の職業権利は、特定のクエストをクリアしないとゲット出来ない代物だ。中断したせいでクエストは保留扱い……。

「ゲームのダウンロードはきちんと出来たし、学校に帰って今日のレポートを作らなきゃいけないし、あとは帰ってからのお楽しみで……」
 萌子は、友人へたちのお土産である洋菓子の袋を大事そうに抱えて、にっこりと微笑んだ。
「じゃあ、サクッと提出課題を書いて、今日の夜さっそくクエストの続きをやりましょう!」


 学校に戻るとすでに午後16時、いわゆる夕方になっていた。
「晩ご飯まで、まだ時間があるし、もうリポートを片づけてしまおう! そのあとは、お待ちかねのクエストだ!」
「おぉー!」

 生徒会長ルーンの部屋で、さくさくと課題を進める3人。ルーンの部屋の机の上には、ルーンと似た顔立ちの青年の写真。ツーショットで並んでいるところを見ると、兄妹だろうか?

「この人は……私の兄でね。私たちは両親を亡くしていて、教会の孤児院で育ったんだ。遺産はあったものの、やはり大変な生活で……兄が私を立派な淑女にするために、この寄宿舎学校を進めてくれたんだ」
「ルーン会長……それで誰よりも勉強を頑張って……」
「大丈夫、私は兄さんのお陰で今は幸せだ。よしっじゃあ報告書に取りかかろう!」

 ルーン会長の身の上にしんみりするが、今は課題優先……その時である。

『ピピピッ! ピピピッ!』

 3人のスマホから通知音が鳴り響く。3人同時に鳴っているということは、もしかしたらさっきダウンロードしたゲームの通知だろうか?
『ピピピッ! ピピピッ!』
 連続して新たな通知音が鳴る。何かゲーム内で変化があったのかもしれないが……。
「うっゲームの通知音が気になるけど、課題やらなきゃいけないし……」
「ふむ、集中して早く終わらそう……」

 どんなにゲームに夢中になっていても、やはり徹底したお嬢様教育が根付いているのか、勉強中はスマホを覗くことはしない3人。かりかりとペンを走らせる音が、静かな部屋に響くのみとなった。

「ふう、終わったな……じゃあ先生のところに提出してくるよ……」
「会長、よろしくお願いします! じゃあ、その間にゲームの準備をしておいて……あれっ何これっ?」
「どうしました? 萌子先輩……んっこれはっ」

【通知内容】
 クエストの保留時間が3時間を越えたため、女勇者職業権利獲得クエストは、緊急要請扱いになりました。他の冒険者にクエストを依頼しています。
【通知内容・2】
 さすらいの剣士レインさんが、女勇者職業権利クエストの緊急要請を受理しました。現在、クエスト進行中です。

「嘘でしょう? ガチャを当てたのは私なのに……レインさんって人が、クエスト受けちゃってるよ!」
 萌子のスマホを握る手が心なしか、震えている。時刻はすでに17時を過ぎている……あれから1時間……どんなに難解なクエストでも、そろそろクリアしてしまうかもしれない。
「萌子先輩、落ち着いてください……ううっどうしよう」

 2人が動揺と混乱で慌てふためいていると、タイミングが良いのか、悪いのかルーン会長が部屋に戻ってきた。
「提出してきたぞっ。さて、さっきのクエストの続きを……どうした2人とも……」
 すでに泣きそうな表情の2人の異変にルーンも珍しく動揺するが、追い打ちをかけるように通知音が鳴る。

『ピピピッ! ピピピッ!』

【通知内容・3】
 さすらいの剣士レインさんが、クエストをクリアしました。女勇者権利をゲットしたため、レインさんの職業が女勇者になりました。

「これはっ? いや、まだ手があるはずだ……同じクエストを我々が受理しなおせば、萌子さんに権利が発生するはずだっ。すぐにプレイするぞっ」

【ダウンロード確認画面・注意事項】
 このゲームは、アバターにあなたの魂を入れることで、異世界転移ではなく、異世界転生扱いになります。

「なんでしょう? 異世界転生扱いって……」
「急がなくては、萌子さんの女勇者の権利が危ない。萌子さん、泣かないでっ」
「ううっせっかく、女勇者になれたと思っていたのに……」
「諦めるなっ! 絶対、私たちがクエストクリアして、萌子さんを立派な女勇者にしてみせるっ。さあログインだっっ!」

 その後は、注意事項通りルーンとキオは異世界転生してしまい、職業アバターを正式にゲット出来なかった萌子の魂は待機室行きとなった。
 偶然、双子の弟であるイクトのアバターがカラになりかけた瞬間に、萌子の魂がインして……そのまま現在に至る。


 気が付くと、図書館の番人とのバトルクエスト中。どうやら番人の課した萌子たちのトラウマは、萌子を立派な女勇者に出来なかったことらしい。

「ふふっお帰りなさい。どうだった、記憶の旅は……今回はきちんとトラウマを克服できそうね」
 3人の記憶が記されている本をパタンと閉じて、バトルスタンバイする番人こと図書司書さん。聖女ミンティアはまだ、トラウマの記憶の戦っている様子だが、不利なのは番人も同じで、ミンティアの記憶の書を操る魔法はまだ解除できない。

「ああ、私たち3人……もともと、同じ学校の生徒だったとは……通りで、連係プレイが上手く行くわけだ。このクエスト絶対にクリアしなくては……それに、兄さんとの約束もまだ果たしていないしな」
「あのときの約束、忘れていません……必ず、勝ちましょう!」
「2人とも……ありがとう……今度は実力で女勇者の権利を獲得して見せるっ行くわよっ」
 呪文を唱え始めるルーンと、魔法剣の発動準備に取りかかるキオ。そして、勇者にしか使えない必殺技の構えをする萌子。


 その後のことは、ランタンに身を宿したオレの記憶が曖昧になってしまい、覚えていない。
 目が覚めると、部屋のベッドの中。
「イクト君、起きて! はやく授業に出ないと……」
「もうすぐ、アオイさんが交換留学生でこの学校に来ますからね。アオイさんとのデート試験に向けて、かっこよさを磨いておいてくださいっ」
 リス型精霊ククリや守護天使エステルに起こされて普通に学校へ、教室に入ると……オレによく似た、制服姿の美少女の姿があって……。

「萌子!」
「イクトっお早う! 今日から双子で一緒に授業を受けられるねっ。イベント実行委員として来週の学園祭も頑張るから……これからもよろしくっ」

 はつらつとした萌子は、相変わらず可愛いいが、さすがに双子の姉相手だと女アレルギーは起きなくてホッとする。やっぱり彼女は、地球時代からの安心できる双子の姉。

 来週は、待ちに待った学園祭。秋のイベントはまだまだ続く……どうやら、これからは男女双子の勇者としての生活が始まるようだ。
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