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第七部 ハーレム勇者認定試験-後期編-
第七部 第4話 期間限定の女主人公
しおりを挟む虹レアドリンクの効果によって、女アレルギーへの対応がなされた結果、異世界でのアバターが女主人公アバターに変更されてしまった。
夢の中でオレは、寄宿舎の自室そっくりの……インテリアやベッドカバーだけちょっぴり女の子テイストにしたような部屋にいた。
スマホゲーム『蒼穹のエターナルブレイク-side イクトス-』のプレイ中、ステータス画面に変更が起こり、女主人公にアバターが切り替わる。
ふと、全身が映るタイプの鏡をみると、可愛らしい少女が栗色のセミロングの髪をさらりとなびかせて、手を振っている。少女の制服は、ダーツ魔法学園の女子生徒用のブレザーとチェックのスカート、白ニーソ着用で、スラリとした美脚……。スリムだが、それなりに胸もあるようでスタイルが良い。
目は大きくグリーンがかった色が印象的、肌は色白でつやつやすべすべ……かなり可愛い部類に入るだろう。
そして、可愛らしいからといって、押しつけがましいような感じの存在でもなく、凡用性の高いキャラクターデザインで……いわゆる、女主人公の雰囲気がある。
「ふふっ」
茶目っ気のあるしぐさも可愛い……声は、爽やかでナチュラルな感じだ。オレって、女の子になるとこんな感じなのか。
「キミは……オレの女版アバター?」
鏡の中の美少女に対して、思い切って話しかけると、彼女はオレの問いを肯定するようにこくりと頷いた。この子は、やっぱりオレの女版のようだ。
「そう、私はあなたのもう一つの可能性。ほら、スマホゲームでも男主人公と女主人公を選べる場合があるでしょう? ゲームによっては途中で性別変更も可能、今回はイクトがその虹レアアイテムで、私にバトンタッチする権利をゲットしたってわけ。期間限定だけどね」
確かに、スマホゲームの中には、主人公の性別を選べるものや途中で変更可能なものもある。それに、今現在のオレの身体は疑似ネフィリム体と呼ばれる仮の肉体だ。完全に魂がこの異世界に定着していない証拠のひとつが、性別変更可能なアバターなのかもしれない。
「期間限定……ってどれくらい? オレは、これから先どれくらいの間、女の子として過ごすことになりそうなんだ」
「女アレルギーを緩和する魔法力をパートナー聖女が取り戻した頃? ……聖女の結界が故障しているらしいから……今年の学園祭は、私が引き受けることになると思うよ! 楽しみだなぁ」
「学園祭か……」
少女は、学園祭が本当に楽しみのようで、頬を紅潮させて目を輝かせている。
「しばらくの間、この女の子の身体でクエストこなすことになるけど、私とイクトは感覚共有しているから、イクトがこのアバターを動かすんだよ……ちゃんと、年頃の女の子らしく身だしなみはしっかりと……それから……えっもう仲間たちが来ちゃった! じゃあ、またあとでね」
鏡の中の少女がオレの手を取り、今度はオレの男主人公の肉体が鏡の中へ……。夢の中の世界が揺れて、ぐにゃりと映像が切り替わっていき……次第に意識を目覚めさせて行くのだった。
* * *
ゆっくりと、目を開ける。
白いカーテンに消毒液のにおい……どうやら、倒れた時のお約束で医務室に運ばれていたようだ。ベッドがぎしりと鳴る……しばらく眠っていたらしい。
むくりと起きあがると、ぷるん! とそれなりに育っている胸が揺れる。違和感に思わず確認を兼ねて柔らかい胸を揉むと……揉んだ感覚が跳ね返ってきて、自分の胸だと確信する。
弾力のある胸は成長中のようだが、手のひらには全部収まりきらないくらいには育っている……。
そして……当たり前だが、胸以外の細かい箇所も女の子のものだ。
「……イクト君! 目が覚めた? 大丈夫、一応ギルドメンバーを呼んだよ……あとさっき帰っちゃったけど、女医さんにも看てもらったからね」
「エステル、ククリ……」
守護天使エステルが起きあがったオレの身体を支える。
ふわりとお互いの身体がふれるが、さっきと違い女アレルギーは発症しない。そりゃそうか、だって今のオレ女の子の身体だもんな。
リス型精霊のククリがちょこんとオレの肩にのり、オレの顔をのぞき込んで改めてオレの性別を確認する。
「何はともあれ、ご無事で良かったです……まさか、イクトさんが女の子になるなんて……虹レアドリンクの効果なのかもしれませんが……このククリ、さっそくハーレム勇者認定協会に報告をしておきました。ハーレム勇者自身が、女性の身体でしばらく過ごすのも、ハーレム勇者としての試験扱いにするそうです」
「つまり、認定試験は続行するんだね……私、これからどうしよう。このまま授業とかクエストとか、こなしても大丈夫そう?」
自分でも不思議だが、既に話し方がオレとかではなく女性特有の口調に変更されている。心の声は男のオレがキープされているが、表向きは口調や仕草まで女の子だ。
間仕切りの役割を果たしている白いカーテンを開けて、妹のアイラが涙ぐみながら、抱きついてきた。
「おにい……お姉ちゃん! ずいぶん可愛くなっちゃって、お姉ちゃんのこの可愛さなら、ふたりでアイドルとして覇権出来るって嬉し……あっいや、心配したんだよ。もし、ずっとこのまま女の子の身体になっちゃったら、姉妹でアイドルデビューしようねっ」
アイドルデビュー?
そういえば、アイラは前世では魔法少女アイドルだったな。
相棒のなむらちゃんが地球に還っちゃったから、もうやらないと思っていたんだが……。
「はは……アイラにも心配かけちゃったね」
心配を通り越して、既にアイドルとして再起をかけるためにアイラの目がぎらついている気がしたが、この女の子の身体は期間限定だし気づかない振りをしよう。
「イクト君……ごめんね。無事で良かった」
「大丈夫だよ、ミンティア」
続いて、レインも責任を感じているようでしんみりと語る。
「同じ女勇者として、わからないことがあったら手伝うから……」
メロンを片手に見舞いに来てくれたアズサとマリアが、場を和ませようとしているのか明るく振る舞う。
「女医さんが言うには、命に別状はないってさ! 良かったなイクト……って、イクトじゃ男の名前か……えっと、どう呼べばいいんだろうな」
「女版の名前……そもそもイクトさんって名前の由来は、どんな意味なんでしょう?」
「にゃあ、イクトって名前は、救世主のイクトスとかイクトゥスから来ているらしいですにゃ」
猫耳メイドのミーコがスマホで名前由来サイトを検索して、名前の情報をキャッチしていた。
神官エリスが水晶片手に祈りを捧げて、名前を神に問う。
「神よ、この者にふさわしい名前を……」
【命名の神の元へ、ゆかれよ……】
「はっ神のご神託がっ! 命名の神……その方にお会いすればイクトさんの女性名が決まるかも。その萌え萌えした容姿にふさわしい名前を必ずやっ」
謎の使命感に目覚める仲間たち。
女主人公でいられる期間って限定だし、命名の神に会う前に男に戻っちゃいそうだけど……。
「それまで、萌えキャラって意味でモエの付く名前を付けておきましょう」
「じゃあ、今は仮名で萌子
もえこ
で……」
「よろしくなっ、萌子!」
「仲良くしてね、萌子ちゃん」
「萌子お姉ちゃん、よろしくね!」
萌子……か、自然と馴染む名前だ。まるで元々その名前で生まれてきたかのような気さえしてきた。
ピピピッ! 冒険者スマホから電子音。
気がつくとスマホのステータス画面では、新たに女勇者萌子のステータス画面が……。
【ステータス】
勇者萌子 職業:学園勇者(ランク星5)
レベル:28
HP:1550
MP:127
攻撃武器種:棍・剣・槍
装備武器:ロングソード・改
装備防具:部屋着(防具を選んでください)
装飾品:なし
呪文:回復魔法小、攻撃魔法
どうやら、イクトのステータスをそのまま継承しているようだ。けど、ちょっぴり体力が下がっている気もする……女だから?
そして名前登録終了、認証確認完了の文字。
結局、命名の神に会いに行く前に萌子(もえこ)という名前が定着してしまい、そのまま私の名前が結崎萌子(ゆうざきもえこ)に決定しちゃったのは、ここだけの秘密だよっ!
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