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第四部 運命の聖女編
第四部 第9話 長い髪をショートボブに
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「ソウルメイトでパートナーか。偶然とはいえ、学園転入してすぐに一緒に冒険者として組む相手と話が出来て良かったよ。これからよろしく、ミンティア」
小学校4年生同士の会話とは思えないほどミンティアはしっかりしているが、彼女も前世の記憶を持っているのなら納得がいく。今の自分の身体が小さな子どもであることを一瞬忘れて、高校生の自分に戻ったと錯覚するくらい自然な状態で会話が進む。
「ええ、勇者様の足手まといにならないように……」
まだオレに対して遠慮があるのか、若干他人行儀なミンティアに対して安心させるように優しく様付けをやめるように促す。
「長い付き合いになるんだし、パートナーってくらいなんだから様付けしなくていいよ。なんていうか、もっと友達っぽく……くだけた感じで……」
「ふふっ……じゃあ、改めてイクト君……これからの学園生活、一緒に頑張ろう!」
ミンティアに『イクト君』と呼ばれると胸がくすぐったいような、懐かしいような……そんな感覚が胸の内にほんのりと滲んできて何故か涙が出てきそうになった。その理由に気がつくのは、ずっとずっと後になるのだが……。
見知らぬ土地での新生活に不安を覚えていたオレの心を埋めるように訪れたミンティアとの出会い。だからといって、共依存関係にはならないようにとなるべく男としての体裁を保ちつつ……オレはすぐに、聖女のミンティアと仲良くなった。
「イクト君は、ネオトーキョーの出身なんでしょう。どう? 西の生活に慣れそう? 私は地元が近いから、そんなにここの寄宿舎生活に違和感はないけど」
地元が近いという言い回しに、一瞬だけミンティアも地球からの転生者で生まれが関西圏であるかのような錯覚を覚えた。この異世界は、地図も世界観も殆ど地球と似通っている。だからきっと、既視感としてそのような勘違いが心の中に生まれるのだろう。
「まだよく分からないけど、方言が違うんじゃないかって思って、エステルなんか新幹線の中でずっとネオ関西弁の勉強していたし……」
「うっ……頑張って馴染もうと思って……あっこのブドウジュース、果実がほんのり感じられて大人っぽくて本格的!」
いきなり、覚えたてのネオ関西弁でリリカに話しかけ……お嬢様言葉で返答されたのがよっぽどショックだったのか……。エステルは誤魔化すようにブドウジュースの方に話題を変更したがっている。確かにこのブドウジュースはコクがあって美味しい……未成年のオレにはよく分からないが、いわゆる高級赤ワインのようなテイストを感じさせるのだろう……多分。
「ところで、ミンティアもリリカもネオ関西弁は使わないんだな。てっきり、西の人は普段は方言を使うものだと思っていたけど」
「ダーツ魔法学園に転向してくる以前は、お嬢様教育の専門スクールに通っていたから、方言よりも御機嫌ようとか、そういう言葉を優先して使っていて……。でも、家族みんなで会話するときは、たまにネオ関西弁も使うけどね」
「へぇ……まぁすべての関西人の人が年中関西弁を使っているって訳でもなさそうだもんな」
どうやら、ミンティアも転校組のようだ。よく考えて見ると、どの冒険者職が適正化か判明してくるのはだいたい小学低学年ごろからだ。将来の職業が決まったら、ダーツ魔法学園で本格的に勉強をするのが一般的なのだろう。
「守護天使にもお嬢様教育天使としての講座があって、そこでお勉強していたのです」
「そうか、それでリリカもお嬢様言葉守護天使なんだ」
方言の話になって、儲かりまっかやボチボチでんながネオ関西の標準語だと思い込んでいたエステルが「もう、その話はよそうよー」と、恥ずかしそうにたたんでいた羽根を震わせた。
「あはは、ごめんエステル。別に意地悪で方言について話していたわけじゃないから!」
「そうですわよ。それに、エステルさんが一生懸命この地域に馴染もうと努力していたのは肌で感じましたわ。同じ守護天使として、エステルさんのそういうところ好ましく思いますもの!」
「え、そうかなぁ? けど、もう方言の話はここで終わりね!」
その後も和やかな雰囲気で食事会は続き、食後のティータイムを終える頃、ミンティアの方から外出の誘いが……。
「ねえ、イクト君。パートナー同士の交流も兼ねて、明日は一緒に港町を散策しよう。私、この学園から電車で30分くらいのネオ神戸出身なの。今は寄宿舎生活だし、両親やお兄ちゃんもそれぞれ別の場所で暮らしているけど……でも、綺麗な場所を案内できるよ」
もしかしてデート……と思わず言いかけそうになるが、そこはまだ浮かれ過ぎないように平静を装う。知らない土地に移動してきたばかりのオレを親切に案内してくれようとしているのだ。せっかくのご好意……喜んで受けるのがベストな選択と言える。
「へぇ……憧れの港町ネオ神戸出身なんだ。どちらかというと、山に近い地域で育ったから、港は新鮮だな。案内、楽しみにしてるよ」
「じゃあ、明日……学園エントランスで……」
後ろ髪引かれる思いで、ミンティアと別れそのまま寄宿舎付属の大浴場へ。先に頭と身体を洗い、身を清めたところでザブンっと湯に浸かる。ポカポカと身体の芯から温まり……いわゆる体力回復効果を感じ取った。特に内湯は贅沢に天然温泉だとかで、新幹線の移動で疲れた身体がほぐれていく。
「おっ見慣れない顔だな……新入り君かな? 1人前の冒険者に慣れるように頑張れよ!」
「あっはい、頑張ります!」
脱衣所で身体を拭いている間も、数人の先輩達から何気なく声をかけられ寄宿舎という集団生活が始まったことを実感せざるを得ない。
寄宿舎の自室へと戻ると、すでに21時。
「あっイクト君、お帰りなさーい。私もさっき部屋に戻ったんだよ。ここの温泉凄いね、魔法力回復効果があるんだって!」
「へぇ……どうりで全身の血の巡りが良くなると思ったよ。まさか魔法力が回復していたとは……」
一緒に生活を共にすることになる守護天使エステルも女湯を満喫した模様。サッパリとした様子でオレを出迎えてくれた。高校生の時のオレだったら23時ごろに就寝するのが普通だったが、今は10歳ほどの肉体……疲れていたこともありウトウトと眠気が襲ってきた。
「ふわぁ……なんか一気に疲れが出ちゃったな……明日も早いし、もう寝るか。エステル、お休み……あっ目覚ましかけないと……」
「ふふっさっそくパートナーが出来て良かったね、イクト君。お休みなさい……」
思わぬ出会いがやってきた転校初日は、充実したものとなった。守護天使同士も仲がいいし、このまま順調にこの学校で成長していくとミンティアと恋人……になっていく気がする。あくまで気がするだけだが。
だが、オレにはすでにアオイという婚約者がいる。
けれど前世で散々いろんな女の子に目移りした挙句、女アレルギーをこじらせて天に召された身としては女アレルギーを食い止める特殊なスキルを持つという聖女のミンティアは貴重な存在だ。
寄宿舎の部屋に戻り色々と思いを巡らせるものの、考えてもキリがなく……気がつくとベッドで眠りについていた。
* * *
学校内はまだ春休みなので生徒はまだ全員揃っていない。今日はミンティアがネオ関西を案内してくれるという。待ち合わせ場所はA棟の門の前だ。
オレが待ち合わせ場所に向かう途中の体育館裏で、いかにもヤンキーっぽい美少女達が誰かを囲んでいた。
「あれは一体……?」
よく見ると、囲まれている少女はパートナー聖女のミンティアだった。思わず背筋がゾッとする……早く助けないと。
「なんてことだ……まさか何かのトラブルに?」
ヤンキー美少女達は、ミンティアを囲み何やら口論している。
「おいっ! 何をしているんだ!」
オレは思わず駆け出した……だが、前世の記憶があるせいでオレはすでに高校生くらいのつもりでいるが、実際はまだ小学4年生になったばかり。いくら女子生徒とはいえ、上級生にかなうことはないのだが……。
「あっイクト君!」
「ミンティア! 大丈夫か?」
すると、ヤンキー美少女上級生達はオレのことを見て、「おやまあ、ミンティアちゃんもう彼氏がおるんや?」「最近の小学生はませてるんやなあ」と、のんびり会話し始めた。
あれ? 意外と緩やかな人たちだな。
「あのね、イクト君。私、今ロングヘアでしょう? 聖女コースの他の生徒達も、みんなロングヘアなの……それでキャラが全員かぶるから、髪型を変えるように何人かの生徒に指導が来て……。美容師の勉強をしている上級生の人たちが、私の髪を切ってくれるって言うんだけど……」
「髪を切る? 指導? 聖女コースって大変なんだな。髪型にまで口を出すとは……」
「せやからこの子は、ショートヘアにして初めて輝くんや! 他の聖女に負けんキャラになるには、ショートヘアが1番や!」
「ショートは難しいで……ボブヘアーは今流行りや。売れてるアイドルは、みんなボブヘアーやで。流行のボブにしとき」
どうやら、美容師の卵同士でミンティアにどんな髪型が似合うのか口論になったようだ……なんだそういうことだったのか……。
「ショート!」
「いや、絶対ボブ!」
美容師の卵達は、本や切り抜きを片手に、意見がショート派とボブ派に真っ二つに分かれていて、なかなか話が進まない……。美容師の卵達が持っているヘアカタログは、かなり短めのベリーショートヘアとパッツンおかっぱヘアの切り抜きだった。スタイリッシュな聖女にしたいと熱く語っている。
「あの、私のパートナー勇者はこのイクト君なんです。イクト君、どういう髪型が似合うと思う?」
そう言って、ミンティアがヘアカタログをオレに見せた。
「そうや! こんな時はカレシに決めさせるのが1番や!」
美容師の卵達もノリノリだ……カレシ扱いに戸惑いながらもオレは手渡されたヘアカタログをパラパラと見た。
すると、ひとつ気になる髪型があった。
『ショートボブ』
少し長めのショートカットで、オシャレにデザインされている。
「この髪型は……?」
オレがショートボブヘアを見せると、美容師の卵たちは速攻でオレ達を学校内にある美容院に連れて行き、あっという間にミンティアはショートボブになった。
『……アオイに似てるな……』
オレは自分でも気づかずに、初恋の相手で婚約者のアオイと同じ髪型にミンティアを変えてしまった……偶然なのだが。
「ねぇ新しい髪型……どうかな、似合う?」
「う、うん! すごく可愛いよ」
「本当! 今までのお嬢様っぽいミンティアも素敵でしたけど、女性らしさと活発さがマッチして似合っていますわ」
意外なイメチェン後の変化に、ミンティアの守護天使リリカも大喜びだ。
だがオレの守護天使エステルは、この髪型がアオイのよくしていた髪型であるということに気づいているのか、あまりコメントしなかった。
(どうしよう……オレ、無意識のうちにミンティアとアオイをどこかで重ねて……)
オレが複雑な気持ちで喜ぶミンティアを見守っていると、何も知らない無邪気なミンティアはオレの手を握り、「じゃあ、ネオ関西を案内いたしますね!」と、オレを学校の外に連れ出した。
まるで、地球からの来訪者であるオレを異世界へと導く、スマホRPGの案内役のように……。
小学校4年生同士の会話とは思えないほどミンティアはしっかりしているが、彼女も前世の記憶を持っているのなら納得がいく。今の自分の身体が小さな子どもであることを一瞬忘れて、高校生の自分に戻ったと錯覚するくらい自然な状態で会話が進む。
「ええ、勇者様の足手まといにならないように……」
まだオレに対して遠慮があるのか、若干他人行儀なミンティアに対して安心させるように優しく様付けをやめるように促す。
「長い付き合いになるんだし、パートナーってくらいなんだから様付けしなくていいよ。なんていうか、もっと友達っぽく……くだけた感じで……」
「ふふっ……じゃあ、改めてイクト君……これからの学園生活、一緒に頑張ろう!」
ミンティアに『イクト君』と呼ばれると胸がくすぐったいような、懐かしいような……そんな感覚が胸の内にほんのりと滲んできて何故か涙が出てきそうになった。その理由に気がつくのは、ずっとずっと後になるのだが……。
見知らぬ土地での新生活に不安を覚えていたオレの心を埋めるように訪れたミンティアとの出会い。だからといって、共依存関係にはならないようにとなるべく男としての体裁を保ちつつ……オレはすぐに、聖女のミンティアと仲良くなった。
「イクト君は、ネオトーキョーの出身なんでしょう。どう? 西の生活に慣れそう? 私は地元が近いから、そんなにここの寄宿舎生活に違和感はないけど」
地元が近いという言い回しに、一瞬だけミンティアも地球からの転生者で生まれが関西圏であるかのような錯覚を覚えた。この異世界は、地図も世界観も殆ど地球と似通っている。だからきっと、既視感としてそのような勘違いが心の中に生まれるのだろう。
「まだよく分からないけど、方言が違うんじゃないかって思って、エステルなんか新幹線の中でずっとネオ関西弁の勉強していたし……」
「うっ……頑張って馴染もうと思って……あっこのブドウジュース、果実がほんのり感じられて大人っぽくて本格的!」
いきなり、覚えたてのネオ関西弁でリリカに話しかけ……お嬢様言葉で返答されたのがよっぽどショックだったのか……。エステルは誤魔化すようにブドウジュースの方に話題を変更したがっている。確かにこのブドウジュースはコクがあって美味しい……未成年のオレにはよく分からないが、いわゆる高級赤ワインのようなテイストを感じさせるのだろう……多分。
「ところで、ミンティアもリリカもネオ関西弁は使わないんだな。てっきり、西の人は普段は方言を使うものだと思っていたけど」
「ダーツ魔法学園に転向してくる以前は、お嬢様教育の専門スクールに通っていたから、方言よりも御機嫌ようとか、そういう言葉を優先して使っていて……。でも、家族みんなで会話するときは、たまにネオ関西弁も使うけどね」
「へぇ……まぁすべての関西人の人が年中関西弁を使っているって訳でもなさそうだもんな」
どうやら、ミンティアも転校組のようだ。よく考えて見ると、どの冒険者職が適正化か判明してくるのはだいたい小学低学年ごろからだ。将来の職業が決まったら、ダーツ魔法学園で本格的に勉強をするのが一般的なのだろう。
「守護天使にもお嬢様教育天使としての講座があって、そこでお勉強していたのです」
「そうか、それでリリカもお嬢様言葉守護天使なんだ」
方言の話になって、儲かりまっかやボチボチでんながネオ関西の標準語だと思い込んでいたエステルが「もう、その話はよそうよー」と、恥ずかしそうにたたんでいた羽根を震わせた。
「あはは、ごめんエステル。別に意地悪で方言について話していたわけじゃないから!」
「そうですわよ。それに、エステルさんが一生懸命この地域に馴染もうと努力していたのは肌で感じましたわ。同じ守護天使として、エステルさんのそういうところ好ましく思いますもの!」
「え、そうかなぁ? けど、もう方言の話はここで終わりね!」
その後も和やかな雰囲気で食事会は続き、食後のティータイムを終える頃、ミンティアの方から外出の誘いが……。
「ねえ、イクト君。パートナー同士の交流も兼ねて、明日は一緒に港町を散策しよう。私、この学園から電車で30分くらいのネオ神戸出身なの。今は寄宿舎生活だし、両親やお兄ちゃんもそれぞれ別の場所で暮らしているけど……でも、綺麗な場所を案内できるよ」
もしかしてデート……と思わず言いかけそうになるが、そこはまだ浮かれ過ぎないように平静を装う。知らない土地に移動してきたばかりのオレを親切に案内してくれようとしているのだ。せっかくのご好意……喜んで受けるのがベストな選択と言える。
「へぇ……憧れの港町ネオ神戸出身なんだ。どちらかというと、山に近い地域で育ったから、港は新鮮だな。案内、楽しみにしてるよ」
「じゃあ、明日……学園エントランスで……」
後ろ髪引かれる思いで、ミンティアと別れそのまま寄宿舎付属の大浴場へ。先に頭と身体を洗い、身を清めたところでザブンっと湯に浸かる。ポカポカと身体の芯から温まり……いわゆる体力回復効果を感じ取った。特に内湯は贅沢に天然温泉だとかで、新幹線の移動で疲れた身体がほぐれていく。
「おっ見慣れない顔だな……新入り君かな? 1人前の冒険者に慣れるように頑張れよ!」
「あっはい、頑張ります!」
脱衣所で身体を拭いている間も、数人の先輩達から何気なく声をかけられ寄宿舎という集団生活が始まったことを実感せざるを得ない。
寄宿舎の自室へと戻ると、すでに21時。
「あっイクト君、お帰りなさーい。私もさっき部屋に戻ったんだよ。ここの温泉凄いね、魔法力回復効果があるんだって!」
「へぇ……どうりで全身の血の巡りが良くなると思ったよ。まさか魔法力が回復していたとは……」
一緒に生活を共にすることになる守護天使エステルも女湯を満喫した模様。サッパリとした様子でオレを出迎えてくれた。高校生の時のオレだったら23時ごろに就寝するのが普通だったが、今は10歳ほどの肉体……疲れていたこともありウトウトと眠気が襲ってきた。
「ふわぁ……なんか一気に疲れが出ちゃったな……明日も早いし、もう寝るか。エステル、お休み……あっ目覚ましかけないと……」
「ふふっさっそくパートナーが出来て良かったね、イクト君。お休みなさい……」
思わぬ出会いがやってきた転校初日は、充実したものとなった。守護天使同士も仲がいいし、このまま順調にこの学校で成長していくとミンティアと恋人……になっていく気がする。あくまで気がするだけだが。
だが、オレにはすでにアオイという婚約者がいる。
けれど前世で散々いろんな女の子に目移りした挙句、女アレルギーをこじらせて天に召された身としては女アレルギーを食い止める特殊なスキルを持つという聖女のミンティアは貴重な存在だ。
寄宿舎の部屋に戻り色々と思いを巡らせるものの、考えてもキリがなく……気がつくとベッドで眠りについていた。
* * *
学校内はまだ春休みなので生徒はまだ全員揃っていない。今日はミンティアがネオ関西を案内してくれるという。待ち合わせ場所はA棟の門の前だ。
オレが待ち合わせ場所に向かう途中の体育館裏で、いかにもヤンキーっぽい美少女達が誰かを囲んでいた。
「あれは一体……?」
よく見ると、囲まれている少女はパートナー聖女のミンティアだった。思わず背筋がゾッとする……早く助けないと。
「なんてことだ……まさか何かのトラブルに?」
ヤンキー美少女達は、ミンティアを囲み何やら口論している。
「おいっ! 何をしているんだ!」
オレは思わず駆け出した……だが、前世の記憶があるせいでオレはすでに高校生くらいのつもりでいるが、実際はまだ小学4年生になったばかり。いくら女子生徒とはいえ、上級生にかなうことはないのだが……。
「あっイクト君!」
「ミンティア! 大丈夫か?」
すると、ヤンキー美少女上級生達はオレのことを見て、「おやまあ、ミンティアちゃんもう彼氏がおるんや?」「最近の小学生はませてるんやなあ」と、のんびり会話し始めた。
あれ? 意外と緩やかな人たちだな。
「あのね、イクト君。私、今ロングヘアでしょう? 聖女コースの他の生徒達も、みんなロングヘアなの……それでキャラが全員かぶるから、髪型を変えるように何人かの生徒に指導が来て……。美容師の勉強をしている上級生の人たちが、私の髪を切ってくれるって言うんだけど……」
「髪を切る? 指導? 聖女コースって大変なんだな。髪型にまで口を出すとは……」
「せやからこの子は、ショートヘアにして初めて輝くんや! 他の聖女に負けんキャラになるには、ショートヘアが1番や!」
「ショートは難しいで……ボブヘアーは今流行りや。売れてるアイドルは、みんなボブヘアーやで。流行のボブにしとき」
どうやら、美容師の卵同士でミンティアにどんな髪型が似合うのか口論になったようだ……なんだそういうことだったのか……。
「ショート!」
「いや、絶対ボブ!」
美容師の卵達は、本や切り抜きを片手に、意見がショート派とボブ派に真っ二つに分かれていて、なかなか話が進まない……。美容師の卵達が持っているヘアカタログは、かなり短めのベリーショートヘアとパッツンおかっぱヘアの切り抜きだった。スタイリッシュな聖女にしたいと熱く語っている。
「あの、私のパートナー勇者はこのイクト君なんです。イクト君、どういう髪型が似合うと思う?」
そう言って、ミンティアがヘアカタログをオレに見せた。
「そうや! こんな時はカレシに決めさせるのが1番や!」
美容師の卵達もノリノリだ……カレシ扱いに戸惑いながらもオレは手渡されたヘアカタログをパラパラと見た。
すると、ひとつ気になる髪型があった。
『ショートボブ』
少し長めのショートカットで、オシャレにデザインされている。
「この髪型は……?」
オレがショートボブヘアを見せると、美容師の卵たちは速攻でオレ達を学校内にある美容院に連れて行き、あっという間にミンティアはショートボブになった。
『……アオイに似てるな……』
オレは自分でも気づかずに、初恋の相手で婚約者のアオイと同じ髪型にミンティアを変えてしまった……偶然なのだが。
「ねぇ新しい髪型……どうかな、似合う?」
「う、うん! すごく可愛いよ」
「本当! 今までのお嬢様っぽいミンティアも素敵でしたけど、女性らしさと活発さがマッチして似合っていますわ」
意外なイメチェン後の変化に、ミンティアの守護天使リリカも大喜びだ。
だがオレの守護天使エステルは、この髪型がアオイのよくしていた髪型であるということに気づいているのか、あまりコメントしなかった。
(どうしよう……オレ、無意識のうちにミンティアとアオイをどこかで重ねて……)
オレが複雑な気持ちで喜ぶミンティアを見守っていると、何も知らない無邪気なミンティアはオレの手を握り、「じゃあ、ネオ関西を案内いたしますね!」と、オレを学校の外に連れ出した。
まるで、地球からの来訪者であるオレを異世界へと導く、スマホRPGの案内役のように……。
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