上 下
15 / 355
第一部 異世界は人気スマホRPG編

第一部 第15話 転職の地ハロー神殿へ

しおりを挟む

 パーティーメンバーの少女アイラが冒険のメンバーから抜けてしばらく経つ……。アイラが現実世界地球での実の妹であったことを思い出したのは、離れ離れになってからで。オレの心の中では妹への心配な気持ちでいっぱいだった。
 ネオシンジュクの宿屋で身体的疲労を癒すために滞在するものの食事も喉に通らず、アイラの情報をペガサス達と手分けして探すも見つからず……。

 だが、諦め掛けていた頃に情報収集を兼ねてふとつけたテレビ番組……。そこには、生き別れになったはずの妹の姿。テレビ番組のタイトルは『注目の魔法少女アイドル密着取材』というものだ。

 取材を受けている新米魔法少女アイドル……。それは見覚えのある顔の2人で、フリフリのアイドル衣装を着て、魔法少女の変身後によくありがちな謎のポーズを取っていた。

 ツインテピンク髪の方は、髪色に馴染む淡いピンクカラーの魔法少女風衣装……ミニスカニーソに白いフリルがポイントのようだ。
 もう一人の女の子は、黒髪を三つ編みにし白いヘアバンドを身につけている。相棒の少女と色違いの、ライトグリーンの淡いフリフリ魔法少女風衣装である。

『みなさん初めまして! 魔法少女アイラです!』
『みなさん……初めまして……魔法少女なむらです……』
『2人合わせて……魔法少女アイドルアイラ・なむら!』

 そう、この新人魔法少女アイドルの正体は、オレのかつての仲間で実の妹アイラと、アイラの友人で魔法使いの少女なむらである。二人は魔王軍の魔法使いになると言って、どこかに消えたのだが……。

「なんだよこれっ? 『魔王軍の魔法使いになる』と言っていたのはオレの聞き間違いだったのか? 実際はテレビ番組で宣伝中の、新人魔法少女アイドルになっているじゃないか? っていうかなむらちゃんの方、テンション低くないか……? 大丈夫なのか……これ……」
「にゃあ、イクト落ち着くのにゃっ会話が聞こえないのにゃっ」
「取材の場所が変わりましたよっ……ライブ会場みたいです」

 レポーターが笑顔で取材を進める。
『いやぁ2人とも可愛いですねぇ。では、ここでネオアキハバラのドルオタのみなさんに期待の新ユニットはブレイクするか……聞いてみましょう!』

 小さなライブハウス内に集まった、目の肥えたドルオタ達にインタビュー……。様々なアイドルを見守ってきているドルオタの目に、妹アイラはどう映っているのだろう?

 頭に『アイラ・なむら』と書かれたハチマキを巻き、ピンク色のハッピを着て応援のダンスを踊り狂っていたドルオタ魔族の男性が、メガネをカチャカチャさせながら、ドヤ顔で評論し始めた。

【ドルオタAのドル村ドル太さん(仮名・魔族系企業会社員372歳)】
『僕が思うに……アイラ・なむらは、僕たちの世界に突然舞い降りた天使という女神というか……これはもう、神が起こした奇跡ですね。彼女達の存在は、宇宙のメタファーであり、自己のアイデンティティーの確立を僕たちドルオタ魔族に促す究極の現象であり、これらを全力でプッシュすることが、僕たちドルオタが神から与えられた使命であり、これから命懸けでアイラたそとなむらたそを支援していくことが……(以下略)』

「ずいぶん語るな……。どうやら、アイラ達のことがえらく気に入ったようだ」
「人間と魔族の間でバトルが行われていることを忘れそうな勢いですよね……。あの人魔族ですよ」
 マリアが修道院出身者らしく、ロザリオ片手に取材の様子を見守る。

「おいっ魔族だけじゃなくてエルフ族もいるぞっ」
 エルフ族のアズサが思わず声をあげる……レポーターが、別のドルオタにマイクを向けると……さっきのオタ会社員は魔族だったが、今度のオタ公務員はエルフ族のようだ。

 人間族であるアイラが、他の種族から評価されるのはなんだか不思議な気持ちである。

【ドルオタBのオタ村オタ太さん(仮名・エルフ村公務員530歳)】
「アイラたそ! なむらたそ! アイラたそ! なむらたそ! アイラたそ! なむらたそ! (以下略)」
 応援で手一杯のようである……さらに別のドルオタに、インタビューするレポーター。

【ドルオタCのドル山オタ蔵さん(仮名・ドワーフ鍛冶屋店勤務285歳)】
「やっぱイイっすね、魔法少女は。さらにアイドル! 明るく純粋なアイラ姫と、クールツンデレキャラのなむら姫の究極の美が、僕のハートを鷲掴みっすよ。さらに僕が思うには(以下略)」

「究極の美か……随分入れ込んでいるようだな。実の兄としては少し心配な展開だ」
「まさか、エルフやドワーフにまでオタ文化が広がっていたとは……。都会の妖精族は、凄いな」
「にゃあ……舞台の照明がチカチカしているにゃ……。歌が始まるのにゃ」

『ではここで、アイラ・なむらデビュー曲【お兄ちゃんとの約束~マジカルハート】です!』

 お兄ちゃんという曲名にドキリとしたが、流石に全曲は流さないのか軽快なサウンドとライブハウスの様子が徐々に遠巻きになり……特番自体終了してしまった。
 続きはCDで、ということなのだろう……歌詞は分からず終いだった。


 * * *


 白魔法使いのマリアが、ロザリオをサイドテーブルにコトンと置いてテレビのリモコンを消し、ダラリとソファに横になって一言呟いた。

「アイラ……転職したのね。魔法少女に……」

 マリアは仲間の裏切りが相当ショックだったのか、虚ろな目でもはや抜け殻のようだ。
 他のみんなも、パーティーメンバーの突然の離脱に、ショックを受けているようだった。
 そうだよな、旅立ちから1ヶ月程とはいえだいぶ仲良くなって来たのに……。

 重苦しい沈黙を破ったのは、前世はオレの元ペットの黒猫という経緯の持ち主の猫耳メイドミーコだ。アイラとも暮らしていた時期があるし、いわば家族のようなものであるが……。

「アイラ…………ずるいニャー! 自分だけ魔法少女アイドルになって! ミーコも猫耳メイドアイドルになりたいのニャー!」
 ミーコが、にゃーにゃー騒ぎ始める。

「えっ? そっち? それでショック受けてるの?」

 予想外の反応に拍子抜けしていると、アズサが髪の毛をクシャリとかきあげてやや沈んだ声色で語り始める。

「仕方ないだろ。あたし達はもう成人している……魔法少女には転職できないのさ……あたしも10代の時には……。いや、この話は、もうよそう……」
「アズサまで……っていうか、ミーコって成人している扱いなのか? 確かに成猫だけど、てっきり女子高生くらいだと……」
「にゃあ、猫は人間年齢でいう16歳でお嫁に行けるのにゃ。だから、女子高生くらいで成人扱いなのにゃ。このままじゃ、ネコミミメイドアイドルにもなれないし、イクトのお嫁さんになるしかないのにゃ……。アイラは、もう魔法少女アイドルになる運命なのにゃ」

 どさくさにまぎれてミーコにぎゅっと抱きしめられて、思わず女アレルギーを起こしそうになるも緊迫した会話の最中のはずなので、なんとか根性で堪える。

 どうやらみんなは、アイラが突然転職したことの方にショックを受けているようだった。

 ソファでどんよりとしていたマリアが、フリーペーパーの転職雑誌を片手にポツリポツリと自分語りを始めた。

「転職といえば実は、私……白魔法使いではないんです。確かに白魔法は使えるんですけど、本職扱いではなかったみたいで。自分でも気付かなかったんですけど、私の本当の職業……ギャンブラーなんです」
「ギャンブラー? そんな冒険者用の職業、この異世界にあったんだ」

 スマホステータス管理のマリアの職業欄が『ギャンブラーマリア・ギャンブル大好き』になっている。旅立ちの時は、山奥の村で修行を積んだ真面目な白魔法使いだったはずだが。
 ネオフチュウでギャンブルに没頭するあまり、職業が変化してしまったのだろう。

 本当の職業……つまり本質か。
 どうりで変だと思った。あのレース場に掛ける意気込み……あんな白魔法使い、いないよな……普通。

「そして、気づいたんです! 私……レベルがあと少し上がれば、上級の職業にに転職できるって! 私、上級職【賢者】を目指します」
「上級職……だと? つまり、パワーアップってことだよな、使える呪文が増えるとか?」

 突然の上級職転職希望オレは度肝を抜かれるが、マリア曰く『才能のあるギャンブラーならすでに、モンスターレースで勝ちまくっているはずで、自分はこれ以上ギャンブラーを続けても伸びない』と感じたのだという。

「アイラちゃんが抜けて、戦力ダウンでしたが……この戦力の穴を埋めるためにも、私……転職します! 転職して賢者になります! バンバン、バリバリ攻撃呪文を放てるようにしてイケてる戦闘を披露してみせます……行きましょう! 転職の地ハロー神殿に!」
「にゃあ、バリバリ転職だにゃん!」
「アイラも無事だったしさ……いつまでも落ち込んでられないぜっ。なあイクト」

「みんな……ありがとう。じゃあ転職の神殿に行くかっ」

 妹の無事も確認できたことだし……戦力アップを目指して、いざ転職へ!


 * * *


《ひとこと感想》
 いろいろ心配したけど妹アイラが元気そうでひとまず安心……かな?
(イクト)

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ユウ
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

処理中です...