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第五部 学園ギルド編
第五部 第1話 学園ギルドと婚約の申し入れ
しおりを挟むネオ関西にあるダーツ魔法学園に転校してから数年が経ち、いつしかオレは中学2年生になった。
「イクト君、お早う……起きて! 今日から二学期、いよいよ学園ギルドに正式所属になるね」
「んっ……ああ、エステルお早う。ふぁーあ、そっか今日から二学期か。一体どのギルド所属になるんだろうな」
目覚まし時計が鳴るよりも早く、守護天使エステルがオレを起こしにきてくれた。普段だったら、余計なことはせずにロフトルームからオレのことを見守っているだけなのだが。
今日は、待ちに待った中学2年生の二学期。ついに学園ギルドに我が勇者コースの生徒も所属出来ることになる。
勇者コースと聖女コースは他のコースと異なり、所属生徒が全員冒険者として旅立つことになっている。その代わり、徹底した教育を受けてからじゃないと学園ギルドに所属することが出来ない。
中学からは、フリーダムに活動することが許されている他のコースの生徒たちにやや遅れて所属する事になる。メリットとしては、ギルドの入会テストが免除になることくらいだろうか。
「うーん、イクト君の得意武器やパートナー聖女ミンティアちゃんの特性を合わせて考慮するんじゃないかな? って、上級生勇者の人たちはどうやって決めたか見てたんじゃないの?」
ふと、エステルが他の勇者コースの上級生達のことを様子を訊いてくる。
「それが、いつもクジ引きなんだよ。ただ、クジって言っても魔力判別の魔法が込められた特別なクジになっているから。偶然、そのギルドに所属することになったってわけじゃなくて。みんな、性質のあったところに収まるんだってさ」
「へぇ……じゃあ、きっとイクト君も先輩勇者と同じように納得のいくギルドに所属することになるんだと思うよ」
転入したての頃は、不慣れなことばかりだったが、『勇者コース』という少人数制の難関コース。刺激的な授業内容にも次第に慣れて、今ではそれなりの勇者の卵である。
さあ、早朝の身支度だ。お手洗いを済ませて、歯を磨いて顔を洗って……そして、勇者コース特有の冒険者ルックに着替える。制服はその日の授業内容によっては学生服でも構わないのだが、入学式や始業式だけは各コースの職業に合わせた正装を着用しなくてはならない。
丁寧に髪を櫛で梳かして身だしなみは完了。カバンの中の荷物を確認したら、寄宿舎の部屋を出て食堂へ。
「じゃあ、今日はギルドの関係で帰りは遅いと思うけど」
「うん、分かっている。所属の手続きとかいろいろあるものね! 今日もイクト君に神のご加護がありますように……。いってらっしゃい」
「ああ、行ってきます!」
* * *
今日の朝食はレインと待ち合わせて食べることになっている。週に数回は、それぞれのスキルを磨く朝練のためスケジュールが合わない日が多いオレとレインだが。始業式ということもあり、朝の鍛錬などを行う道場が休みなのだ。
「お早う、レイン。待たせちゃったか?」
「イクト君、お早う。さっき来たところだから、気にしないで。今日の朝食のオススメはアジの開き定食だって!」
同級生の女勇者レインとは切磋琢磨しながらお互いを高め合い、今では性別を越えた勇者の同志である。
ただ女アレルギー持ちのオレとしては、ふとしたレインの女性らしい仕草にドギマギすることもまだあるにはあるけれど。
寄宿舎の食堂は、心なしかいつもより賑わっている。本日の朝食オススメセットであるアジの開き定食を注文してトレーで運び、女勇者レインとともに窓際の席に着く。
黒髪ボーイッシュな美少女レインは、女勇者という肩書きに恥じぬよう凛々しくも美しく成長した。
いつからかスケジュールの合う日の朝食はレインと食堂で摂ることが当たり前になっていて、馴染んだ空気にオレは安心する。
「今日は二学期最初の日だね。学園ギルドに加入先が決定する日だけど……もう、どのギルドに所属したいか決まった? 一応、クジ引き以外に希望がある場合は、自分から申し込むことも出来るらしいよ」
「ギルドかぁ……まだ、どのギルドに所属したいか決めていないよ。他の上級生勇者みたいにクジ引きに委ねるのがいいのかなって……」
「そっか……本当はイクト君と同じギルドに入れると良いんだけど、そうするとイクト君に頼っちゃうし。それに私たちの学年って人数少ないから、きっと同じ所属にはならないよね」
レインが少し不安そうに美しい青い瞳を揺らしてギルドについて語る。
「同じ学年といえば……マルスは、もう最前線ギルドからスカウトされて今日から強制送還なんだっけ。順調なような、ハードそうなような……」
ふと、中学から我がコースに転向してきた同学年の男勇者マルスのことを思い出す。スポーツマンタイプのイケメンで、一見爽やかな若者だがガチャや課金が大好きというゲーマー気質の友人だ。
いわゆる大剣と呼ばれるパワー系の武器と得意とするマルスは、あれよあれよと最前線ギルドに目をかけられていち早く所属ギルド先が決まってしまった。
「マルスはパートナー聖女がなぜか決まらなかったみたいだし。男だらけの最前線ギルドに所属するのが決まっていたのかも。ということは……多分イクト君の所属先は最前線ギルド以外のところかな?」
「まぁ……最前線チームがすでに強制送還されているところを見ると、そこのギルド以外の所属になりそうだよな」
学園ギルドは、オレが転校してきた頃には、まだ実装されていなかったシステムだ。
ギルドでは勇者を中心にパーティーを組み、近隣の簡単なクエストをこなす。学園長いわく研修のようなものらしい。
中学2年生の10月から、勇者コースの生徒は全員ギルドに加入しなければならない。正確には、9月の始業式の日に所属を決めて手続きや研修を経て10月よりクエスト受注が可能になる。
「パートナー聖女のミンティアと、一緒のギルドになる事は決まってるらしいんだけどなぁ……。どうなる事やら……」
オレのパートナーである聖女ミンティアとは、ギルドでも一緒に行動するらしい。だが年頃になったせいか、ミンティアとの仲は意識しすぎて最近ギクシャクしている。
「ミンティアちゃんかぁ……小学生の頃は、よく一緒に遊んだけど。中学に入った頃から、ミンティアちゃんの聖女コースの習い事が増えてあまり顔を合わせなくなったよね。やっぱり、聖女コースは深窓の令嬢ばかり集めたコースだったのかな……」
レインが寂しそうに、ポツリと呟く。
美しく成長した聖女ミンティアは中学生とは思えない美貌で、思わず誰もが振り向くほどになった。
サラサラした淡いミントカラーの髪、青く大きな瞳、細身ながら年の割に大きな胸、しなやかでスラリとした脚、おそらく本人も自分自身が絶世の美少女であることに少しは気づいているだろう。
「たしかに、なんだかミンティアとは距離が出来ちゃった感じがあるよな。だから、こんな心が離れている状態で婚約なんて……」
……ギクシャクしている原因は、ミンティアの一族がオレとミンティアに婚約してほしいと正式に申し入れをしてきたからだ。
異世界アースプラネットでは、15歳から結婚することが出来る。
オレの誕生日は1月なので在学中のほとんどは結婚することは出来ないと思っていた。
だが実は、15歳の誕生日まで待たなくとも見込み年齢で良いらしいので、中学3年生になったらすぐに『結婚』が出来るそうだ。
ミンティアの一族は、結婚より先に婚約を済ませてひと足早く新婚生活を送り……出来れば早く子供を作って欲しいという。あまりのスピード展開に、ついていけないのも事実だ。
「……イクト君! ゴメンね。なんだか変なこと言っちゃったかな。けど、婚約の話だってパートナー聖女だから絶対に結婚しなきゃいけないってわけじゃないんでしょう?」
「うん、そうだと思うんだけどさ。いつの間にかうちの親が婚約の申し入れを引き受けて、結婚を決めちゃったらしくて……」
だいぶ良くなったとはいえ、女アレルギー持ちのオレがこの若さで、もう子供を作るのはなんだか抵抗がある。それに、ミンティア一族の戦国時代ばりの結婚への焦りになんだか違和感を感じていた。
それに……もう一つ、オレの心の中にある切っても切れない想い。
「イクト君……じゃあ今朝は、難しい話はよそう。アジの開きもせっかく美味しいし……お味噌汁、冷めちゃうよ」
「えっああ、そうだな……ありがとうレイン。おっ今日は豆腐とわかめの味噌汁か、とことんオーソドックスだな。ギルドへのやる気も湧いて来たぞ!」
「うふふ、本当……。イクト君、どこのギルドに所属してもフレンド登録で助け合おうね!」
目の前でにっこりと微笑む女勇者レインに、オレはいつしか心を動かされている事も誰にも言えない悩みのひとつなのだった。
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