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第十部 異世界学園恋愛奇譚〜各ヒロイン攻略ルート〜
側に寄り添うマリア像:1
しおりを挟むクリスマスデートクエストのお相手2人目は、前世のアバター時代から仲間としての縁が続いている賢者マリアだ。
エルフの里でのクエストを無事に終えたオレは、一旦ハロー神殿の冒険者滞在ルームに帰還。そこで守護天使エステルから、次なるクエストの詳しい内容の説明を受けていた。
「次のクエストの実施場所は、イクト君が冒険者としてスタートした『山奥の修道院』になるよ。そこで暮らす孤児のみんなのクリスマスイベントを盛り上げて、出来ればサンタ役を務めてほしいんだけど。修道院でのお仕事に慣れているマリアさんも一緒だし、大丈夫だよね」
「ああ! 山奥の修道院かぁ……懐かしな。始まりの場所で最後に恩返しをしてから異世界を後にする……なかなか勇者らしくていいじゃないか」
マリアとのデートクエストは、どこかに出かけて遊ぶという形式ではなく、修道院兼孤児院のクリスマスイベントのお手伝いというものに決定した。思い起こせばオレが初めて異世界へと送られた際に、記憶を失い保護された施設がその修道院兼孤児院だ。
「うん……実は、地球との連結が弱くなることは、生き残っている魔獣軍団のモンスター達にも情報が伝わっているようで。最初の旅立ちの場所である山奥の修道院は『地球への特別転移ゲート』があるとされているから、保護対象に指定されているの。万が一、戦闘になってもいいように武器や防具もキューブで持参してね」
「分かったよ。このクエストデータによると、警備兵が何人かすでに派遣されているようだし。それに、旅立ち当時のレベル1だった頃のオレとは違うよ。心配しないで……」
「ふふっ。本当に頼もしくなったね、イクト君。せっかく強くなってきたのに、もうすぐサ終しちゃうのはもったいない気がするけれど。勇者としてのラストクエスト……頑張ろう! それから……はい、これがマリアさんのプロフィールデータだよ」
どうやら制作に時間がかかっていたらしいマリアのプロフィールデータが転送されてきた。
【賢者マリア】
本名:丸須真吏亜(まるすまりあ)
年齢:地球では20代前半
誕生日:12月24日
身長:164センチ
体重:50キロ
バスト:Fカップ
血液型:A型
趣味:風水、株、ギャンブル的な遊び、聖書を読むこと
好きな食べ物:勇者イクトお手製の鶏の唐揚げ、フルーツティー、チョコレートファウンテン
苦手な食べ物:酸っぱいもの
特技:炊事洗濯、お掃除風水、お花を育てること
得意料理:デミグラスソースたっぷりのチーズインハンバーグ、ハムステーキ、家庭料理全般
(備考)
異世界に訪問してきたあなたにとって、初めての仲間であるマリアさんは、とても大切な存在。黒髪ロング、碧い瞳が美しい清楚な美人で、なおかつFカップ巨乳のナイスバディ。しかも、教会での修行をしていたことからシスター属性も持ち合わせており、まさに理想的なヒロインと言えるだろう……ギャンブルさえしなければ。
(アドバイス)
実はマリアさんには幼少期に生き別れた弟さんがおり、何かの拍子に会ったとしても他人のふりをしなくてはいけなかったそうだ。だが、家庭環境の変化により最近になってお父さんの苗字を名乗ることになったとか、晴れて弟さんと同じ苗字に!
心優しいマリアさんの弟さん……一体どんなステキな人なんだろうね。もし、弟さんから課金で出来た借金の肩代わりを頼まれたらやんわりと断ろう!
「丸須真吏亜(まるすまりあ)それが、マリアの真の本名なのか? マルスってまさかあの廃課金イケメンの丸須有吏(まるすゆうり)じゃないよな……。オレの双子の姉萌子のゲーム上の元婚約者、同じ勇者コースの……あのフル課金が生きがいの……」
これまでマリアとマルスを関連づけて考えたことすらなかった為、容姿についても気にしなかったが。サラサラの黒髪とアジア系にしては非常に珍しい碧い瞳、2人とも優しげな整った顔立ちで、思い返せば男女別バージョンくらいのレベルで似ている。そして、ギャンブルや課金にハマっているところも。
「それが、苗字のデータが変わったばかりで、マルス君との関係はよく分からないんだよね。勝手に姉弟だと思い込むのもよくないし……もしかしたら、
マリアさんの方から事情を訊けるかも知れないし。気にせず、いつも通り過ごしたら? モンスターから子供達を守ることを忘れないようにね!」
「あ……うん。そうだな。萌子が行柄(ゆきえ)元社長と結婚してから、マルスとも気まずくなっちゃったし。触れない方がいいのかも」
あの頃は右も左も分からない初心者冒険者だったが、今ではそれなりのレベルの達している。いざ、モンスターが出てきて戦闘……となっても、孤児院の子達を守ってあげられるだろう。
マルスとマリア姉弟説に気を取られて、万が一の戦闘に集中出来なくなっても困るし。忘れよう……それがいい、萌子のこともあって複雑だし見て見ぬ振りをするしかないよな……。
* * *
デートの相手となるマリアが無事にハロー神殿まで到着したところで、山奥の修道院に最も近い街まで通常ゲートで移動。エルフの里ほどではないものの、冬の寒さが街中よりも厳しい山奥に辿り着く。
「イクトさん。なんだか私のクエストだけお仕事がらみで、すみません。でも、このシーズンは何処かしらの教会のクリスマス会を手伝うのが習慣となってまして」
バス停を降りて改めて、マリアの容姿を何となくチェックする。
サラサラと風に靡く黒髪ストレートヘアは飴色の髪飾りで上品に整えられ、清潔感のある薄化粧と澄み切った碧い瞳が彼女の清純さを示しているようだ。魅惑のFカップボディはお嬢様風キャメルカラーのコートの上からも確認できる程。十字架ペンダントが映える白い襟の可愛らしいグレーのロングスカートワンピース、焦げ茶色のショートブーツは、何処と無く修道女風である。
優しく微笑むその美しい笑顔に思わず見惚れるが、何となく弟疑惑のあるマルスと被ってしまいふと我にかえる。
(そういえば、萌子もマルスのイケメン振りに目がハートマークだったもんな。所詮、オレと萌子は双子……血は争えないのか。いや、萌子とマルスの恋愛はもう過去のことだ……萌子が行柄元社長と上手くやれるように、配慮しないと)
「いや、いいんだよ。オレだって、山奥の修道院は最初の旅立ちの場所として思い出深い場所だしさ。それに当時よりもあの村ってそれなりにひらけてきたんだろう?」
「ええ、なんていうか観光地化したみたいですね。食料品が手に入りやすくなったんで、みんな喜んでましたよ。あっ……あれが新しく出来た村の入り口です!」
「へぇ……どれどれ。んっ? なんだかすでに入り口付近から人だかりが出来ていないか?」
辺境の地とまではいかないが、結構な田舎であるにも関わらず、『ようこそ山奥の修道院村へ』の看板前で記念写真を撮る人達の姿が。しかも、気のせいかもしれないがカップルが多い気がする。
「ええ。この地域のご当地精霊をモチーフにした『たぬきのゆるキャラ』が、SNS映えを狙う人たちの中で密かにブレイクしつつあるんですよ。あの人だかりは、ゆるキャラの着ぐるみと記念写真を撮るための列ではないかと。その写真をスマホの待ち受け画面にすると、カップルが長続きするそうです」
「すごいなぁ……ゆるキャラひとつで、田舎の村がここまで潤うとは……」
すると……たぬきの着ぐるみが、意味ありげにオレ達に手を振った。一応、オレとマリアも手を振って相手に合わせる。さらに目があった気がしたが、向こうも忙しいようですぐに観光客の対応へと戻る。
(一体何なんだ……あのたぬき精霊のゆるキャラ。やたら、オレとマリアのことを意識してたけど……いや気のせいか)
「ホッホッホ! 久しぶりじゃのう……女アレルギー勇者イクトよ。ワシのことを憶えているかのう?」
オレ達の背後から気配すら感じさせずに突如として声をかけてきたのは、旅立ち初日にお世話になったこの村の族長さんだ。老婦人であるが元魔導師の腕を活かして、みんなをまとめる族長役を亡き夫に代わり務めている。
「えっ……もしかして、族長さん? お久しぶりです。お元気そうで何より!」
「うむうむ。まさか、地球とやらとリンクが切れる直前に、再びこの村にお主が来ることになろうとは。これも運命……いや、今日はクリスマス会の手伝いにきてくれたんじゃな。さて、イクト、マリア、こっちじゃよ」
「はいっ」
懐かし景色と再会の嬉しさを噛み締めながら、オレとマリアはクリスマス会を無事に成功させるべく修道院兼孤児院へ……。
『キィ……キィキィ!』
――曇り空のはるか上空から、何者かの使い魔である蝙蝠の群れがオレ達の様子を探っていた。そのことにすら気づかないまま……平和なクリスマスになると、この時までは信じ切っていた。
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