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第三部 転生の階段編

第三部 第12話 妹がデートに誘ってきたんだが

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 私の名前は結崎アイラ、もうすぐ14歳。サラサラロングのツインテールがトレードマーク。魔法少女アイドルアイラ・なむらというアイドルユニットを親友のなむらちゃんと組みながら、恋にアイドルに大忙し……のハズだった。

 私の恋は少し難航している。
 私が恋しているのはお兄ちゃん……お兄ちゃんの名前は結崎イクト。女アレルギーでイケメンなのに女の子がニガテ……優しくて大好きなお兄ちゃん。

 昔は、お兄ちゃんへの気持ちは兄妹愛か何かだと考えていた。でも、異世界アースプラネットに転生した時に、私は驚愕の事実を知る。
 私は異世界人で、実は現実世界地球の結崎家に養子に出されていたのだという。
 つまりイクトお兄ちゃんとは血の繋がりはないそうだ。
 最初はショックだったけど、お兄ちゃんへのこの気持ちが恋だって気づくことができた。

 異世界アースプラネットは一夫多妻制を採用している世界で、お兄ちゃんは異世界では伝説の勇者であるため、お嫁さんを何人でも貰うことができる。
 いわゆるハーレムというものが約束された存在だ。でも、お兄ちゃんは女アレルギー……おそらくハーレムはおろか、恋人を作ることすら不可能だろう……そう考えていた。

 冒険の最中、お兄ちゃんは、清楚系白魔導師のマリアさんや金髪美人エルフのアズサさん、銀髪美人神官のエリスさん、ウチのペットの人間版猫耳萌えメイドのミーコ、幼なじみの悪役令嬢カノンさん。そして私……美少女ハーレムRPG特有のフラグを乱立させたものの、誰とも恋人にはならなかった。

 でも、あの人だけは違っていた。
 超美少女に見える男の娘……真野山葵
まのやまあおい
さん……家出してきた元魔王さま。


 * * *


「イクト君……ボク、家出してきちゃった魔王の真野山葵です! 仲良くしてね」
「真野山キュン! こちらこそよろしく! あれ、こんな可愛い子が男の娘なはずないよな……でも女アレルギーが出ないし……?」

 上目遣いで頬を赤らめながらイクトお兄ちゃんに迫る真野山さんに危機感を覚えた事は何度もあった。けれど、所詮どんなに可愛くても男の娘……BL作品じゃあるまいし、男の娘の真野山さんが正ヒロインになる事はないだろう。そんな風に安心していた。

 だが、真野山さんに取り憑いていた大魔王を除霊すると……奇跡が起こった。

「実は……ボク呪われていただけで、本当の性別は女なんだ……。イクト君……ボクをお嫁さんにしてくれますか……?」
「あ、アオイッ! もちろんだよっ」

 不思議とお兄ちゃんは、真野山さんには女アレルギーを起こさない。真野山さんは、生まれつき呪われた体質で満月の夜にしか女性の身体に戻れなかったそうだが、今はお兄ちゃんが大魔王を成仏させたおかげで、真野山さんはお兄ちゃん好みの胸が大きめの超美少女だ。

「ねぇイクト君……手を繋いでも良い?」
「う、うん。オレ達いわゆるお付き合いしたてのカップルだもんな……。あぁ生きていてよかった! 女アレルギーを起こさずに女の子と登下校できるなんて……」

 しかも、毎日学校に登下校していて2人はいつも一緒……休みの日も真野山さんは、しょっちゅう家に遊びに来ている。
 学校では、すでに公認カップルと呼ばれているそうで、女アレルギーが治って良かったとみんなに祝福されているそうだ。

「ただいまー、あれアイラ先に帰ってきてたのか」
「うん、お帰りなさ……あッ真野山さんも一緒なんだ」
「ふふっお邪魔します! アイラちゃん」

 夕方になり、お兄ちゃんが学校から帰宅してきた。案の定、交際中の真野山さんも一緒である。このまま、家族団欒の夕ご飯に当然のごとく真野山さんが混ざるのだろう。
 すでに両親もペットのミーコも真野山さんの存在に慣らされてきており、真野山さんがいる食卓を当たり前のように受け入れている。
 しかも今夜は、真野山さんがウチにお泊まりするそうで、このまま押し掛け女房として定着してしまう不安がしてならない。

 お兄ちゃんの部屋の周辺でペットのミーコをあやすフリをしてウロウロしていると、2人の会話が聞こえてきた。

「お風呂……真野山君が先に入ってきていいよ」
「えっ1番風呂だよね……ありがとう! じゃあお言葉に甘えて……」

 パタン……。
 真野山さんがのんびりお風呂を楽しんでいる隙に、お兄ちゃんの部屋に行き様子を探ることにした。

「ねぇ、お兄ちゃん……もう異世界で冒険とかしないの? たまにはクエストに行ったりとか……」
「ん? なんだアイラか。ああ、だってオレと真野山君がこんなに仲良しなんだから、戦う理由なんてないだろう。みんなもそれぞれ忙しいみたいだし」
「……お兄ちゃんって、そのうち真野山さんと結婚するの……?」
「えっ? まだ真野山君が女の子に戻りたてで友達の延長線上っていうか……。将来の事はまだよく分からないよ。プラトニックなお付き合いだしさ。ノリじゃなくてきちんとお互いの気持ちを確かめてから……」
「ふぅん……そうなんだ。最近まで真野山さんって男の娘だったもんね」

 その割には、お兄ちゃんの部屋のテーブルの上には『彼女と過ごすロマンティックなデート特集』とか、『初めてのイチャラブを成功させよう』とかそんなものばかりだ。しかもやたら鏡で自分の容姿のチェックばかりしているし……。

 真野山さんとイチャイチャしてばかりいて、すっかり勇者としては腑抜けになってしまったお兄ちゃん。ある意味、魔王様に服従するルートを選んでしまったようなものだろう。

「アイラも、たまにはクエストのことを忘れて他に趣味を探すといいよ」
「……お兄ちゃん……最近まであんなにスマホRPGに夢中だったのに……今じゃログインすらしていないんじゃ……」
「ふっ……大人への階段を登りつつあるんだよ。人生のな……」
「そ、そうなんだ。じゃあ、またクエスト行きたくなったら呼んでね……」

 何かがおかしい……。
 大魔王を倒してクリア後の平和な世界になったのだから、美少女ハーレムRPGのシナリオだったら、ハーレムを構築してハッピーエンドなハズだ。
 なのに、今の展開は完全に真野山さんルートに突入していて、他のハーレム要員はみんな地元に帰らさせられている。

 マリアさんは、猫耳の呪いにより猫として最近まで生活していた。
 真野山さんの手によってタレント猫としてコキ使われた挙句、ダークエルフの使い魔として永久追放されかけた。最近ようやく人間に戻れたそうだ。

 エルフのアズサさんは、地元エルフの里からの命令で強制的に帰還させられ、エルフの管轄する全国の森林ボランティアの毎日。

 神官のエリスさんは当初結崎家に下宿していたが、神殿の命令と神官業務の激務のため外出すらほとんどできないそうだ。

 猫耳萌えメイドのミーコは、真野山さんがペットの黒猫扱いしているのを知って、お兄ちゃんのお嫁さんになると言わなくなった。

 お兄ちゃんの幼なじみで悪役令嬢のカノンさんは、次期魔王が公式に決まるまで魔王系一族財閥の代表として魔王城から出ることができない。

 つまり、真野山さんの1人勝ち状態がこの数ヶ月続いているのだった。

「こんなの絶対おかしい!」

 私は美少女ハーレムRPGらしからぬ謎の真野山さんルート1人勝ち状態を打ち破るために、生き残りのハーレム要員として勝負を挑むことにした。


 * * *


 翌日……再びお兄ちゃんの部屋へ。今日の私は昨日までの私とは違う……たとえストーリーの流れが真野山ルートに向かっているとしても。私が、この真野山さん一強の流れを変えてみせる!

 コンコンコン!

「はーい、アイラか? 入っていいよ!」
 部屋の片付けをしていたらしいお兄ちゃんは、心なしか今日もにこやかだ。おそらく、真野山さんがいつ遊びに来ても良いように清潔な部屋を心がけているのだろう。
「お兄ちゃん、お願いがあるの。明日私とデートして! 妹としてでなく、恋人として!」
「……アイラ? どうしたんだ、何かあったのか?」
 理解が出来ないという表情で困惑気味のお兄ちゃん。たぶん、思春期特有の中二病か何かだと思われているんだろう。
「お願いだから私とデートして! 何かがおかしいの! このままじゃダメなの!」
 中二病患者扱いでも構わない。実際、現役女子中学生だし、拗らせていてもなんら問題ないはず。私は、無理矢理でも真野山さん一強フラグを折る事で頭がいっぱいだった。
 目を潤ませて、上目遣いで訴えかける。この手法はよく真野山さんがやっているおねだりスタイルだ。古典的な手法だが、女の子に耐性の低いお兄ちゃんには効果があるらしい。

「えっと……アイラ……よく分からないけど、オレなんかで良かったらデートしよう。でも、今まで兄妹として一緒に生活していたからいきなり恋人扱いはちょっと」
 上目遣い攻撃が効いたのか、それとも必死な姿に押されたのか……ともかくデートの約束をすることに成功。
「それでもいいの。ありがとう……お兄ちゃん……ううんイクトさん……お休みなさい」

『パタン……』


 * * *


 アイラ……ものすごく思いつめていたな。なんだか涙ぐんでいたし、思春期特有の悩みか中二病を発症したのだろうか。いくらなんでも、兄が女アレルギー、義理の妹は中二病では我が家もますます大変になるだろう。
 軽度の症状のうちに、改善させてノーマルな家族にならないと……。
 それにしてもいきなりデートとか言い出して……アイツも多感な年頃だ。血の繋がりはないけど、お兄ちゃんとして助けてやらないとな!

 イクトは、アイラがイクトに恋をしているとはつゆ知らず……。兄として面倒をみるつもりで、血の繋がらない妹のアイラとデートすることにしたのであった。

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