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第二部 前世の記憶編

第二部 第15話 決戦! 黒毛和牛魔王の特上ステーキ!

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 オレにかけられた丑の刻参りによる前世の呪いを解くために、そして桃源郷にいる黒毛和牛の中でも最も美味しいと謳われる黒毛和牛魔王を特上ステーキにして味わうために! レンタルラクダに再びまたがり、砂漠を抜けて西へと進む。

 びゅぅうう……びゅぅうう……。
 目の前には再び広がる道の砂漠、そして果てしなく続いているのではないかと錯覚するような青空は、オレたちの行く手に何が待ち構えているかを知りながら、旅人見守っているようだ。

「うぅ、なんて言うか埃が口の中に入りそう……けほっ」
「えっアイラ? どうした!」

 ラクダの動きをストップさせて、咳き込み始めたのは妹のアイラだ。異世界アースプラネットに転移したての頃は、アイラが前線に立って戦ってくれていた。だが、良く考えてみれば今回のような砂漠ではなく、東京都と同じような気候の環境を旅していたわけで、大騒ぎするような気候は体験した事がない。
 皆、一度ラクダの動きを止めて立ち止まり、アイラに駆け寄る。

「アイラ大丈夫か? 水分補給はまめにしておいた方がいいよ。どこか休める場所はないかな? エルフ耳で水の音を……うーん……もしかしたら、この先に水場があるかも」
 エルフ剣士のアズサが、妖精族特有の高い視力や聴覚を駆使してオアシスの場所を探る。

「ええ、そうねアズサさん。ここからしばらくラクダで進むと、木陰のあるオアシスがあるはずよ。そこまで行って休みましょう! アイラちゃん、はいお水よ。もう少しで休憩地点につくから」
「アズサさん、三蔵法師さん、ありがとう……。ごくっごくっはぁお水が美味しい。もう大丈夫」
 どうやら、元の調子を取り戻したようだ。けど、無理は出来ないな。
「無茶するなよ、辛くなったらお兄ちゃんに言えよ。あと少しで休憩ポイントだからな」
「うん、分かった。ごめんね、みんな行こう」

 びゅぅううううっ、びゅぅうううううっ。
 砂漠地帯特有の気候のせいだろうか、風が吹き砂埃が辺りに舞うが、まずはオアシスを求めて砂漠の中を再び進む。


 突き刺さるような熱い日差し、女性陣はお肌の大敵である紫外線が気になるようだが、桃源郷の売店で購入したシルクロード用の日焼け止めを塗っているため多少はいいだろう。

「ふぅ……結構進んだな。んっあれがオアシスか? よし、着いたらさっそく休もうか?」
 シルクロードの地理に詳しいセクシー美女三蔵法師を仲間に加えたおかげで、オアシスへとたどり着いた。オアシスの水を水筒に汲み、携帯食で一休み。すると、オレたちと同じくラクダに乗って旅をしているというホビット族の商人の姿。
「お前さんたち、旅の人かい? どうだ、ヒンヤリグッズや回復薬はいらんかね。お安くしとくよ」
「へぇ、回復薬かぁ。黒毛和牛魔王との決戦も近いし、回復薬を補充しておくか」

 何気なく呟いたオレのひと言にピクリと指を震わせる商人、心なしか顔色が青い。

「……本気なのかい? 黒毛和牛魔王っていったら、ここらじゃ有名なすごい魔王なんだよ。なんでも、牧場で働いていた人間たちを全員追い出して、自分達の牧場にしてしまったとか……」
「ええ、知っているわ。私は、その黒毛和牛魔王からこの桃源郷を救うために旅をしている三蔵法師なのよ。そして、この方たちはかつて異世界アースプラネットを救った伝説の勇者と、その仲間たちの生まれ変わり。きっと黒毛和牛魔王だって美味しく調理……いや、倒してくださるわ」
「なっ! 三蔵法師様と勇者様の生まれ変わり……。こりゃあ、もしかすると……もしかするかもしれねぇな。そんな方達にアイテムを提供できるなんて商人冥利につきるよ。これも、観音様のお導きかもしれん」

 さっき取り出した行商用のカバンとは別のものをおもむろに取り出し、並べ始める商人。

「この装備は、黒毛和牛魔王やその手下の牛たちとやり合うための特別な装備さね。万が一、三蔵法師様が凄腕の勇者様を連れてきた暁にはこれを勇者様に無料で渡すのが、我々シルクロード商人の使命よ」

 ドサッ! 大量の装備袋には人数分のレア防具がどっさり。

「ありがとう……商人さん。でも、せっかくだからお代は払わせてちょうだい。これは三蔵法師としての使命でもあるんだから」
 シルクロード商人協会から提供された装備品を、結構な金額で買い取るセクシー三蔵法師。向こうは無料でいいと言っていたが、旅費に充てるようにと優しくお金を手渡していた。そういえば、前世カウンセリングもすぐに引き受けてくれたし、見た目はセクシーでも中身はやはり三蔵法師様だ。


「気をつけてな! 三蔵法師様、勇者様達!」

 シルクロードや桃源郷の住人たちの願いを背負いながら、再び西を目指す。そして、オアシスからさらに何もない砂漠を突き進むと、ついに目的地にたどり着いた。

 異世界トップレベルの超高級レア肉を生産する伝説の牧場……その名も、黒毛和牛魔王の本拠地である『天竺黒毛和牛魔王牧場』だ!


『天竺黒毛和牛牧場へようこそ!』

 牧場の看板は、ピンクと水色の縁取りが施されており可愛らしい牛のイラストが描かれている。入り口には無人となったチケット売場が虚しく風に吹かれていて哀愁が漂っている。どうやら閉鎖した挙句、廃墟と化したレジャー施設のようである。
 セクシー三蔵の話によると、かつてここは牧場を売りにした貴重な観光地兼黒毛和牛のレストランだったそうだ。だが、先ほどのホビット商人の話にもあったように、この牧場は今ではもう人間達の姿が見えない。黒毛和牛魔王が内乱を起こし、人間達を立ち入れなくしたそうだ。

 すでに牛達に占拠されている、かつてのレジャー施設……。オレ達は、ホビット商人から購入した対黒毛和牛専用の防具と、牧場に残されていた人間用の道具を手にして牧場の中に潜入した。


「もー」
「ももももー」
 和やかな雰囲気の元、はむはむ……と草を食べてくつろぐ黒毛和牛達。一見、人間達に危害を加えるような牛達にはみえない。気がつくと、至る所でたくさんの美味しそうな牛達が、草を食べて和んでいる。
「これは……結構楽しそうに生活しているし、なんだかかわいそうになっちゃうな」
「実は、ここにいる動物の黒毛和牛とモンスターとして扱われている黒毛和牛魔王一族の牛は、なんていうか似て見えるけど種類が少しだけ違うの。なんといっても動物とモンスターの違いがあるし、ちょっとまってね、今お経を唱えて……」
 セクシー三蔵が数珠を手にお経を唱え始めると、ドス黒いオーラを身にまとったいかつい牛達が姿を現した。ツノが通常の牛よりもはるかに尖っており、見るからにモンスターといった風貌だ。たしかに、その辺で和んでいる動物の黒毛和牛とはわけが違う。


「これが、例の黒毛和牛魔王一族が率いるモンスターなんですね。あの桃源郷のステーキ……もしかして、動物じゃなくてモンスターの肉だったり……。でも美味しかったのは、事実ですし……」
 賢者マリアが、オレと同じ感想を率直に述べ始める。
「えっオレ達知らないで普通の黒毛和牛じゃなくてモンスターの黒毛和牛を食べていたの? それってもはや、和牛じゃなくないか?」
 知らず知らずに、種類の違う牛を食べていたことに軽くショックを受けるが、味はたしかに美味しかった。あれだけ上手ければ、あらゆる食堂から狙われてもおかしく無いだろう。

「そして、最上級の肉質を認められた特別な牛モンスターだけが黒毛和牛魔王の称号を得られると伝えられているのよ」
「こいつらのボスである黒毛和牛魔王のステーキを食べさえすれば、オレに取り憑いた勘違い幽霊も成仏するのか。もう食べるしかないな!」


 可愛い動物の黒毛和牛達の様子を眺めていると、黒いオーラをまとった中ボスらしき立派なモンスター系黒毛和牛達が前に立ちはだかる。そして、牛Aがゆらりと動いた。
「モーももモー(人間どもよ立ち去るがいい)」
 オレ達の行く手を阻むようにずらりと並ぶモンスター牛達、続いて牛Bも。
「モーももモーモー(我ら牛族のチカラがまだわからぬのか……愚かな……)」
 そのうち、牛Cはオレ達が引く気がないことに気づいたのか。
「もももも……ももモー‼ ももモー!(言ってもわからぬのならその身をもって思い知らせてやるわ! 者共出会え‼ 人間が来たぞ!)」

 モンスター系黒毛和牛の群れが襲いかかってきた‼

 チャラララーン! ご丁寧にスマホから襲いかかってくるモンスター達の動きに合わせて戦闘の音楽がBGMとして流れ始める。

「ちくしょう! 人間のチカラを思い知らせてやるぜ! 食肉ショーだ!!」
 日頃の女アレルギーストレスで半ばヤケになっていたオレ……。牛を食肉にする、作業用の装備を見に纏ったオレ達は……。


【この戦闘シーンは残酷な描写が含まれるため、都合により省略いたします】


 イクト達は、モンスター系黒毛和牛達を倒した!
 特上ステーキ用黒毛和牛肉を複数手に入れた!!
 イクト達は、黒毛和牛達を倒した!
 特上すき焼き用黒毛和牛肉を複数手に入れた!
 イクト達は、黒毛和牛達を倒した!
 特上焼肉用黒毛和牛肉を複数手に入れた!
 以下略……。

「結構な作業をこなしましたね……」
「もう、食肉工場でアルバイトできる勢いだな」

 マリアもアズサも牛達との闘いを『作業』と呼んでいた。
 まだ中学生の妹のアイラには、この作業は過激だったのか、神官エリスに付き添われ牧場の外で休憩していた。
 アイラ曰く、モンスター系とはいえ倒されていく牛達の姿を見て具合が悪くなったそうだ……。
 いつも食卓やレストランで豪華に並ぶ美味しいステーキ……。その裏側は、仕事人達の作業により成り立っている。オレの妹であるアイラも、もうすぐ14歳だ……そろそろ現実を知るのに良い年頃だろう。

 バトルメンバーが若干少なくなったものの、残されたメンバーで力を合わせて順調に作業をこなしていった。牛AAが異変に気付き……。

「ももモーももモー‼ (人間め? よくも仲間の牛達を⁉)」
 ちゃらリラリーン!
 牛AAを倒した!

 周回バトルを延々と続け、ボスの間への鍵を手に入れたオレ達は、黒毛和牛魔王がいる特別黒毛和牛部屋についに辿り着いた。

『バタン!』

 扉を開けると、ツヤのいい血統証付のモンスター系黒毛和牛が草を食べて和んでいた。ゆったりとした仕草から察するに、そろそろお昼寝タイムのようだった。

「悪いけどお前をステーキにして食べないといけないんだ……恨まないでくれよ……」
 黒毛和牛魔王は、突然現れた作業服姿のオレ達を確認すると驚きで目を見開き……。

「ももモーももモー? ももも! もももモー‼ ももモー! (なんだ? なにが起こった? まさかお前達が、我が仲間の牛達を? おのれ人間め、黒毛和牛魔王のチカラみるがいい!)」


【この戦闘シーンは残酷な描写が含まれるため、都合により省略いたします】


 チャラララーン。
 黒毛和牛魔王を倒した!
 黒毛和牛魔王の特上ステーキ肉を手に入れた!

「やりましたね、イクトさん! ようやく黒毛和牛魔王のステーキを手に入れましたよ!」
「これで、黒毛和牛魔王のステーキを食べさえすれば、イクトに取り憑いた幽霊も成仏して、女アレルギーが治るな!」
「良かったわねイクト君! 早速ステーキの準備に取り掛かりましょう!」

 省略……。

『美味しくステーキになりましたー!』

「すごい! この黒毛和牛魔王のステーキ! 他の黒毛和牛より数倍美味しいですよ!」
「こんなに美味しい黒毛和牛ステーキが、世の中に存在していたとは? びっくりだな! さすが黒毛和牛魔王だぜ!」
「ステーキだけじゃなく、すき焼きや焼肉用の黒毛和牛肉もまだまだあるわよ! これから毎日、黒毛和牛が食べられるわね!」盛り上がるオレの仲間達と、ゲストのセクシー美女三蔵法師。

 オレ達は、たくさんの黒毛和牛肉をゲットした。
 特に黒毛和牛魔王の特上肉は、今までに食べたことのない美味しさで、冷凍保存して両親や知り合いにも送った。その神がかった黒毛和牛の美味さは評判を呼び、どこの牧場の牛なのか紹介してくれと言われた。だが、既に天竺の黒毛和牛魔王牧場の牛の数は、三分の一程度に減少してしまっていた。

 こうして黒毛和牛魔王は美味しすぎる特上肉として、新たな伝説のモンスター系黒毛和牛となったのである。

 そして、オレに取り憑いたグランディア姫の幽霊は、黒毛和牛魔王の特上ステーキに満足したのか、それともセクシー美女三蔵法師が何か術を施してくれたのか……。

 いつの間にか、成仏したのであった。

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