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第二部 前世の記憶編

第二部 第5話 レースに目覚めし仲間達

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 この物語はオレの前世、女好き勇者結崎イクトこと勇者ユッキーのハーレム冒険ストーリーである。



 修道女のマリアと永遠の誓いを交わしながらも、異世界アースプラネットの結婚制度が一夫多妻制である事を知ったユッキーは、エルフの美少女アズサを新しいパートナーとして迎える。エルフの国の教会で挙式をあげたオレ達は、そのまま馬車でハネムーンを兼ねて近くの大型都市へ……。
 色とりどりの看板や立ち並ぶ商店、流行の服に身を纏った若い女性達、呼び込みをする行商人の大きな声、馬車から移り変わる外の景色を眺めるアズサは、人間界の様子に興味津々だ。甘えるようにオレの手を握り、頬を赤らめるアズサ……今夜は大型都市の宿に泊まり、夫婦の契りを交わす予定だ。

「ユッキー、私たち夫婦になったんだよね! あっでも、マリアさんもユッキーの奥さんなんだっけ……どうしよう……このままハネムーンの旅を続けるとマリアさんと離れ離れになっちゃうよね。ユッキー、旅しているし……」
「おや、アズサのお父上もたくさん花嫁をもらっているんだろう? 一夫多妻には慣れているんじゃないのか?」
 マリアとアズサは、あまり会話を交わさないがそんなに仲が悪いようにも見えなかったし、一緒に旅をしても大丈夫に見えたのだが……それとも、マリアに気を遣っているのだろうか。

「私、エルフのお城で育ったからお父様に奥さんが沢山いてもお部屋がいっぱいあるし気にならなかったんだ。旅をしながら一夫多妻制って難しそうだよね。どうする? ハネムーン旅行が終わったら一旦エルフ城に戻って、マリアさんも一緒にエルフ城でしばらく滞在して新婚生活を送る? マリアさんも気を揉まないで済むだろうし」
「いや、オレがこの異世界に召喚された理由は、伝説の勇者の使命を全うするためなんだ。この異世界に留まり続けるためには、旅を続けなければならない。アズサ……1番目の妻マリアとはきちんと話し合いをしてある。このまま、旅をしながらの新婚生活になるけどいいかな?」
「うん……マリアさんがそれでいいなら、いいけど……悪いかなって思っただけだよ……でも、ユッキーは勇者様なんだし仕方ないよね」


 ……アズサがマリアの今後を気遣って、馬車の中でユッキーと相談している頃、マリア当人は遠巻きで馬車を眺めながら深くため息をついた。
「ハネムーンが終わったら落ち合う場所はすでに決まっているわ……けれど、それからは3人の旅が始まる……大丈夫かしら? 1人の男性と2人の花嫁……そんな夫婦生活上手くいくの?」
 穏やかな風がマリアの髪を撫でる……修道院出身のマリアにとって、自由に街を散策出来るのは喜ばしいことのはずだった。だが、それは愛するユッキーが一緒にいたからだと痛感する……カフェテラスの羨望の良い席でひとりきりで飲むコーヒーは、ほろ苦くて切ない味がした。

 アズサは金髪の碧眼で尖った耳を持つ、いわゆるエルフの特徴をわかりやすく持つ好奇心旺盛な少女だ。純粋にユッキーの事を慕い、マリアにも礼儀正しいアズサを邪険に扱う気にはなれなかった。2人の新婚生活を邪魔しないように……と、わずかに夫であるユッキーと距離を置くことにした。
 本来は1人目の妻であるマリアはもう少し堂々としていても良かったのだが、信仰心の厚いマリアはいわゆる嫉妬の感情に襲われないように……と、自ら2人の仲の良い姿をみなくてもいいように逃げていたのかもしれない。

 宿屋でのアズサと迎える初めての夜。
 もうの1人妻マリアもハネムーン先の街に滞在していたがふたりに気を使って、ユッキー達とは少し離れた宿屋で滞在する事にした。旅の途中もなるべくイチャつくふたりを見たくなくて避けていたが、新婚初夜を同じ宿で過ごす気にはなれない。

「会いに来てくれたのね……ユッキー……いえイクトさん。私の事は気になさらないで下さい……」
「ああ、アズサもマリアのことを心配していて……エルフの城で新婚中は3人で一緒に滞在しようって提案してくれたんだ。でも……」
 新しく妻を娶る事はこの世界の習わしでは、喜ばなくてはいけないはずなのに……どうしても明るく振る舞えないマリア。せめてもの気遣いで、作り笑顔をして気丈に振る舞った。
「アズサさんは、人間界のことをよく知らないから……それが良いと思ったのね。ありがとう……でも、きっと私たちにとってもアズサさんにとっても、エルフ城は長居できる場所ではないわ。異種族の結婚を快く思わない派閥もいるはずですもの。私は大丈夫よ、アズサさんの元へ行って……」
 今にも泣きそうな表情で笑うマリアを見て、ユッキーはもうひとり妻を娶ったことに激しく後悔したが、だからと言ってエルフ族でありながら人間に嫁いだアズサにはもう戻る場所はなかった。

「マリア……すまない……愛しているよ……」

 パタン……。
 借りている部屋のドアが閉められた途端、想いが抑えきれなくなったマリアは、一人きりのベッドでひたすら泣きじゃくった。

「神様……どうか私を醜い嫉妬心からお救いください……」



 エルフの里に近い宿屋に一ヶ月程滞在する事にしたユッキーことイクトは、新妻アズサと甘い新婚生活を送った。
 一夫多妻である事以外は、ごく普通の新婚生活。時折、同じ街に滞在するマリアに会いに行き、部屋を往復することに慣れて来た頃、一夫多妻とはこういうものなんだろうと感じるようになっていた。アズサとマリアのふたりを娶ったけれど、ふたりとも平等に愛していけばいい……一夫多妻制の世界だし、これが当然なんだ……やがて罪悪感も薄れ、そんな風に考えていたが、さらに運命が廻る。

「じゃあ、今日からマリアと合流して3人で旅をするけど……いいよね」
「ええ、仲良く……3人でやっていきましょう、改めてよろしくねアズサさん」
「うん、マリアさんありがとう……あれ? ねえ、ユッキー……あの人知り合い?」

 ある日、宿屋の地下の酒場で高名な血を引く老人に呼び止められた。
「あなた様はあの伝説の勇者様では? お願いします……伝説にしたがって、私の娘をあなた様の妻の1人に加えて欲しいのです……」
 老人に呼ばれ、美しい神秘的な少女が現れた。髪は長くベージュ色で目は青い、聖職者である事を示す神官のローブを身につけている。
「エリスと申します。私、伝説の勇者であるあなた様の妻になるために、この世に生を受けました。私をあなたの妻にしてもらえませんか?」
 美しく微笑むエリスは、まるで精霊か女神かと思うほどの美貌で、女好きで惚れっぽいユッキーは喜んで妻に迎え入れた。
「こんな美しい女性がまだこの世に存在していたなんて……一夫多妻制の世界にやってきて本当に良かった。エリス……君のことも他の妻と同じく一生守ってあげるからね」
「はい……あの、勇者様……近いの口づけを……」
「ああ。今日から君はオレの3人目の花嫁だよ」

 やがて2人の影が重なり、その日の晩……清らかな少女エリスと永遠の夫婦の契りが交わされた。


 ……次の日。
「勇者様……お告げに従って、この猫耳巫女メイドを妻にしてくだされ……」
「にゃあん! 勇者様、私のご主人様になってくださいにゃん」
「猫耳だと……オレは猫好きなんだ……もちろん! こんな萌え萌えキュートな女の子がこの世にいたなんてっオレはなんて運がいいんだっ」
「にゃあ! ユッキーもかっこいいのにゃん。今日から私のご主人様なのにゃ」


 そんな感じで、まるでギャルゲーか何かかのようなお決まりのラブシーン(一部ほのぼのシーンも含む)が各ヒロイン達と次々と展開していき、いつの間にかユッキーのハーレムメンバーは正ヒロイン、隠しヒロイン、サブヒロイン、同人要素ヒロインなどの大所帯となった。
 初期ヒロインであるマリアやアズサ達とのラブなシーンはページの都合上、全面カットされるレベルになっていく。

 ……増え続けるハーレム要員、マリアやアズサ達には不満が募るようになる。勇者ユッキーの女遊びは激しくなるばかり……人数が増えてきた影響で、次第に尽きてくる資金。
 いつしかシスターマリアとエルフのアズサは、ギャンブル場に出入りするようになっていた。



【モンスターレース場】

『出走しました!』
 パカパカパカパカっ!
 いけっまくれっ!
 ギャンブラー達の熱い声援が、レース場に響いている。

「今日も勇者ユッキーことイクトさんは、女遊びで戻ってきませんね……」
「仕方ないだろ? 伝説の勇者様は、何人ハーレム要員を増やしてもお咎めなんかないんだ……ちっこのレース券ハズレだ」
 すっかり人間社会に馴染んだエルフのアズサは、いつの間にかヤンキーキャラに変化しており、クシャクシャになったハズレ券を投げ捨てた。

 世間に揉まれたのはアズサだけではない。優しいシスターマリアもまた、その1人だ。

「……そろそろ、私達の軍資金も底を尽きてきましたね。今夜はどの盗賊団のアジトを襲撃なさるおつもりで? アズサさん?」
 盗賊団のアジトの地図を渡すシスターマリア。

「マリア……お前もなかなか悪だよな……今夜も一緒に弾けるぜ!」

 ふたりは萌えシスターマリア、萌えエルフアズサというコードネームを作り、必殺仕事人のごとく悪の組織を打ち滅ぼし、資金を調達するようになっていた。同じく、ただのハーレム要員と化していた神官エリスもサポートメンバーとして仕事人業務をこなすようになった。3人でヤンチャをしている時だけが、安らぎの時間だった……。

 そうこうしているうちに、勇者ユッキーことイクトは、アースプラネットで1番のお金持ちゴスロリドール財閥の悪役令嬢カノンとフラグを立てていた。

「ユッキー……伝説の勇者ユッキー……私の運命の王子様……」
「カノン……オレにとっても君は運命の姫君だよ」

 お約束の展開で美しい悪役令嬢カノンと結婚の約束をするイクト(前世)ことユッキー。いつも通り新しい妻としてカノンを迎えればいい……そんな風に世の中甘く見ていたのだが……。

 勇者と恋仲になった悪役令嬢カノンは、普段のハーレム要員の女達と違い、自分だけと夫婦になるようにイクトに要求していた。ゴスロリドール財閥の財産を、他のハーレム要員に渡さないためである。これにはマリア達も困ってしまった。

「イクトさん……お金持ちカノンさんとフラグが立ったから、もう私達は用済みなのかも……」
「これからどうする? 3人で本格的に仕事人で生計立てるか?」
「しっ悪役令嬢が来ます! かくれないと!」
 ゴスロリドール財閥の屋敷に偵察に来ていた3人は、庭の植え込みに隠れた。

「どうして⁈ どうして妻は私1人だけにしてくれないの? ゴスロリドール財閥は、この世界で1番お金持ちなのよ⁈ 何不自由なく暮らしていけるのに?」
「許してくださいカノン嬢……彼女たちはオレの大切な冒険のパートナーでもあるのです。簡単に縁を切ることなんてできません……」

「イクトさん……」
 マリアたちは自分たちが今までないがしろにされていたので、イクトがカノン嬢の求婚を断ったことに驚いた。実のところ勇者ユッキーことイクトは、ただ単にせっかく作り上げたハーレムを解散したくないだけだったのだが……。
 このことに感動したマリア、アズサ、エリスの3人は、結局最後まで女好き勇者の冒険に付き合うことにしたのである。

 そしてついに、魔王城にたどり着いた勇者ユッキーのハーレムご一行。赤い月と大きな門、コウモリ達がキィキィ鳴く古城の前で、運命の女性と再会する。かつて結婚の約束をした幼馴染、魔王の一人娘グランディア姫だ。

「イクト! あなた幼馴染のイクトでしょう? 迎えに来てくれたのね嬉しい。私との結婚の約束、覚えていてくれたのね」
 感動するグランディア姫。だが、イクトことユッキーは幼馴染グランディア姫のことをすっかり忘れて、ハーレムをエンジョイしていた。

 まずい。

「その女の人たちは、もしかしてお付きの方々? ありがとう、私とイクトの結婚のために魔王城まで付き添ってくれて!」
 一応人生の伴侶として一緒に旅をしていたハーレムメンバーは、グランディア姫のKYなセリフに嫌気がさしてイクトとのパートナーを解消し、よっぽどショックだったのか猫耳巫女はいつの間にか本物の猫へと姿を変えていた……。残ったのはマリア、アズサ、エリスの3人だけだった。

「……イクトさん、積もる話もあるでしょうから、おふたりでゆっくり今後についてお話ししていてください。私達3人はギャンブル場でいつものように遊んできますから……ではまた」
 クールに一旦、この場を立ち去るマリア達……。

 気まずい雰囲気の勇者ユッキー(結崎イクト)と魔王の一人娘グランディア……。
 まさかここでハーレム伝説は終わってしまうのか⁉

「ここでハーレム伝説を終わらせてたまるか! オレは伝説の勇者なんだ! 何かいい案を考えて切り抜けてやる……オレのハーレム伝説はこれからだ!」

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