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第十部 異世界学園恋愛奇譚〜各ヒロイン攻略ルート〜
臨海デート・魔法少女編【後半】:頼れるお兄さんとして
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――カランコロンと、下駄が石畳に掠める音が響く。オレの前方をお揃いの黄緑色と薄紫色の小粋な浴衣姿で歩くのは、妹のアイラとその相棒のなむらちゃん。妹はいつも通りのツインテールだが、なむらちゃんはたくし上げたまとめ髪に橙色の簪でかすかに色気を感じさせる。
木々に囲まれた抜け道は、夏の日差しを避けられて午後3時の割に涼しげだ。オレも灰色の落ち着いた浴衣でゆっくりと、下駄を鳴らして小径を行く。
「お兄ちゃん! 早く、早く。もう夏祭りの屋台がたくさん出ているよっ」
「イクトさん、早くしないと置いてっちゃいますよっ」
「分かったって、あはは。はしゃぎすぎるなよ」
今日は、動画サイトに配信する【デート企画】のため、神社の夏祭りに参加だ。もちろん、カメラマンや音声、ディレクター、そしてマネージャーの白キツネさんも一緒であり、3人きりではないが画面上はアイドルユニットとその兄の夏の一コマという設定だ。
やがて、大勢の人で賑わう神社の境内に到着。食べ物や飲み物の屋台はもちろん、射的や金魚すくいなどお祭りの定番屋台が並んでいた。
「たこ焼き屋台だっ! アイラ、さっぱり和風味のたこ焼きが食べたいなっ。ねぇお兄ちゃん買って。6個入りだし、みんな舟を分けて食べよう」
「もう、アイラは食いしん坊だな。まぁたこ焼きは、2個ずつ分けて食べてるからいいかもな」
「うふふ、みんなで1つの船に乗っているたこさんを分けるなんて、仲間意識が出ますね」
アイラの提案で屋台のたこ焼きをみんなで分けることに。カリッと焼かれたたこ焼きの中は、弾力のあるたことトロッとした具材が上手く溶け込んでいる。食事のシーンは、実際の屋台を歩いて自由に動いていいため、アイラの好きにさせている。
「あっ。水風船! イクトさん、あの水風船ひとつ買っても良いですか?」
「ああっ! 風流で可愛いから。なむらちゃんにぴったりだよ。アイラも、お揃いで1つ欲しいだろう? すいません、この水風船この子達に1つずつ下さい」
「お好きな色から選んでいいよ! お嬢ちゃん達、お兄さんが優しくていいねぇ」
「うわぁ、このピンク色の水風船可愛いっ。アイラ、これにしようっと」
「うふふ。私は、この綺麗な水色のやつにします」
どうやら、水風船売りのおじさんから見ても、オレはこの2人お兄さんに見えるようだ。デート企画のはずなのに、保護者とのほのぼの映像になっている気がする。ひと通りの屋台シーンを撮って、小休憩と次のシーンの打ち合わせ。
「はーい! なかなか、良いシーンが撮れましたねっ。次は、アイラちゃんとなむらちゃんの2人が、金魚すくいに挑戦する映像を撮りたいんですが。イクト君は、お兄さんとして先に何匹か金魚をすくい上げてくれませんかね?」
「えぇっ? 何匹かすくい上げるって、オレ金魚すくいなんて、殆どしたことありませんよ。大丈夫かなぁ」
「大丈夫、大丈夫! 実は、この撮影のために破れにくい道具を用意してあるんです。臨場感を出すために、アイラちゃん達は普通の道具で金魚すくいしますが……」
それって撮影のためとはいえ、不正なのでは? オレが突っ込む以前に、遠巻きで撮影の様子を見守っていた白キツネさんがストップをかけた。
「良いシーンを撮るために、特別なアイテムを使用する……。確かに、不自然なほど順調に金魚すくいは捗るだろう。だけど、そんな不正をして視聴者が納得するとは思えないッ!」
白い尻尾をふわりと揺らして、赤い瞳でディレクターの案を却下する。撮影メンバーの中では最も小柄なごく普通の白キツネに見えるのに、迫力はラスボス並だ。
「えっと、ということはイクト君は、不正なしで金魚すくいを行うと」
「そうだ! 仮にも勇者なんだから、金魚すくいくらいなんてことないだろう。いっそのこと、ノーマルな金魚すくいはやめて、この祭りのメインイベントである超危険魚介モンスターと激突バトル企画に変更しよう。いいねっ」
「は、はぁ……。というわけで、イクト君は予定変更で、超危険魚介モンスターとのバトルに備えてください」
何だってっ? なんてことのない、普通のデートクエストなんじゃなかったのかよ。オレが反論する余裕もなく、白キツネさんはノリノリでバトルイベントに申請してしまった。
話し合いが終了して、何故かワクワクした表情のアイラと不安げな表情のなむらがオレを励ます。
「やったね、お兄ちゃん! せっかく勇者なんだから、お祭りでもガンガンにバトルしなくちゃっ。もちろん、アイラも途中参加で攻撃に参戦するからっ。楽しみだね!」
魔法少女という肩書きでありながら、格闘家でもあるアイラは今回のバトルイベントに前向きだ。けれど、なむらちゃんの方はあまり乗る気では無さそう。
「イクトさんが、勇者だからって。そんな、危険モンスターと戦うなんて不安です。特にうちのマネージャーってすごく無茶するから」
可愛いなむらちゃんに潤んだ上目遣いで心配されて、男としては満更でもない。だから、よせばいいのにカッコつけて無理してしまった。
「平気だよ! 撮影だし、いざとなったら、バトルを中断してもいいんだ。まぁ負ける気はないけどさっ」
頼れるお兄さんのイメージを守るため、妹アイラと相棒なむらちゃんの前でカッコつけたい一心のあまり、バカなことを言ったオレ。この十分後、オレは激しくこの安請け合いを後悔することになる。
* * *
ズォーン、ズォーン!
ドシンドシンと足を鳴らして特設イベントステージを歩く姿は、魚介モンスターというより恐竜に近い。てっきりお魚タイプと対決すると思っていたが、実際は水陸両用の未知の個体が相手だった。目つきは鋭く、『どこの暗殺者ですか?』と聴きたくなるような迫力だ。
モニター画面にパッと巨体モンスターのステータスが表示されると、前回のレインとのクエストで戦った【水龍レベル・130】をはるかに上回るチートモンスターだった。
(まずいよ、このモンスター。しかもこんな巨体だなんて聞いてないし。はっ! だから、なむらちゃんはあの時心配な表情でオレを見つめていたのか?)
時すでに遅し、覆水盆に返らず。
ギャラリーに囲まれて、カメラもグルグルと周り、スタンバイオッケーの状態だ。安全のためにバリアの張られたステージの上には、槍を手にしたオレと巨体モンスターのみ。
「イクトさん! 頑張って下さい」
「お兄ちゃんっファイトォ」
「いい映像期待してるよ、イクト君!」
みんなの歓声が聞こえる、なむらちゃんや妹も応援している。やるしか、ない。
「ええいっ。ちくしょうヤケだっ! 行くぜっおりゃああっ」
ズガーーーーーン! キュオーーーーン! ガシャーーーン! グィオオーーーン!
ありとあらゆるスキルと魔力のぶつかり合い、これまでにないほどのダメージを受けつつ、終止符。
『やりました! 勝者、結崎イクト君ッ』
『きゃああっ!』
『すごーい! あの人、アイラちゃんのお兄さんだって』
――激戦の末、ヒットポイント表示が危険信号になりながら、ようやく魚介モンスターを気絶させて……。その後、オレも気絶した。
* * *
あれから、どれくらいの時間が経過したのだろう? 気がつくと、撮影は無事に終了してイベント会場のテントで横になっていた。頭の部分は柔らかく、寝心地が良い。これは?
「気がつきましたか、イクトさん。良かった、あの巨大なモンスターを倒してからずっと気絶していたんですよ。アイラちゃんは、別のバトルイベントの撮影で先に出ていかなきゃいけなくて。私と白キツネさんだけ残ったんです」
「なっなむらちゃん! ごめん、膝枕してくれたのかっ」
大半のスタッフはすでに解散したようで、残されたのはオレとなむらちゃん、白キツネさんのみだ。クールな性格なのか、オレ達のやり取りを白キツネさんは見てみないフリしてくれている。
「いいんです、イクトさん。今日は慣れない撮影で疲れたでしょうし。それに、本当は撮影じゃなくてもイクトさんとデートしてみたかったから。この時間は、きっと神様がくれた撮影後のご褒美タイムです!」
「そう言ってくれると、気が楽になるよ」
ほがらかに笑うなむらちゃんは、魔法少女アイドルというメディア向きの表情ではなく、等身大の女の子。この笑顔は多分、きっとファンの人も知らない。
「今度は、撮影抜きでアイラちゃんと私とイクトさんで夏祭りに行きましょうねっ」
「ああ、今度は地球で……。まだ、オレ達の夏休みはこれからなんだからっ」
木々に囲まれた抜け道は、夏の日差しを避けられて午後3時の割に涼しげだ。オレも灰色の落ち着いた浴衣でゆっくりと、下駄を鳴らして小径を行く。
「お兄ちゃん! 早く、早く。もう夏祭りの屋台がたくさん出ているよっ」
「イクトさん、早くしないと置いてっちゃいますよっ」
「分かったって、あはは。はしゃぎすぎるなよ」
今日は、動画サイトに配信する【デート企画】のため、神社の夏祭りに参加だ。もちろん、カメラマンや音声、ディレクター、そしてマネージャーの白キツネさんも一緒であり、3人きりではないが画面上はアイドルユニットとその兄の夏の一コマという設定だ。
やがて、大勢の人で賑わう神社の境内に到着。食べ物や飲み物の屋台はもちろん、射的や金魚すくいなどお祭りの定番屋台が並んでいた。
「たこ焼き屋台だっ! アイラ、さっぱり和風味のたこ焼きが食べたいなっ。ねぇお兄ちゃん買って。6個入りだし、みんな舟を分けて食べよう」
「もう、アイラは食いしん坊だな。まぁたこ焼きは、2個ずつ分けて食べてるからいいかもな」
「うふふ、みんなで1つの船に乗っているたこさんを分けるなんて、仲間意識が出ますね」
アイラの提案で屋台のたこ焼きをみんなで分けることに。カリッと焼かれたたこ焼きの中は、弾力のあるたことトロッとした具材が上手く溶け込んでいる。食事のシーンは、実際の屋台を歩いて自由に動いていいため、アイラの好きにさせている。
「あっ。水風船! イクトさん、あの水風船ひとつ買っても良いですか?」
「ああっ! 風流で可愛いから。なむらちゃんにぴったりだよ。アイラも、お揃いで1つ欲しいだろう? すいません、この水風船この子達に1つずつ下さい」
「お好きな色から選んでいいよ! お嬢ちゃん達、お兄さんが優しくていいねぇ」
「うわぁ、このピンク色の水風船可愛いっ。アイラ、これにしようっと」
「うふふ。私は、この綺麗な水色のやつにします」
どうやら、水風船売りのおじさんから見ても、オレはこの2人お兄さんに見えるようだ。デート企画のはずなのに、保護者とのほのぼの映像になっている気がする。ひと通りの屋台シーンを撮って、小休憩と次のシーンの打ち合わせ。
「はーい! なかなか、良いシーンが撮れましたねっ。次は、アイラちゃんとなむらちゃんの2人が、金魚すくいに挑戦する映像を撮りたいんですが。イクト君は、お兄さんとして先に何匹か金魚をすくい上げてくれませんかね?」
「えぇっ? 何匹かすくい上げるって、オレ金魚すくいなんて、殆どしたことありませんよ。大丈夫かなぁ」
「大丈夫、大丈夫! 実は、この撮影のために破れにくい道具を用意してあるんです。臨場感を出すために、アイラちゃん達は普通の道具で金魚すくいしますが……」
それって撮影のためとはいえ、不正なのでは? オレが突っ込む以前に、遠巻きで撮影の様子を見守っていた白キツネさんがストップをかけた。
「良いシーンを撮るために、特別なアイテムを使用する……。確かに、不自然なほど順調に金魚すくいは捗るだろう。だけど、そんな不正をして視聴者が納得するとは思えないッ!」
白い尻尾をふわりと揺らして、赤い瞳でディレクターの案を却下する。撮影メンバーの中では最も小柄なごく普通の白キツネに見えるのに、迫力はラスボス並だ。
「えっと、ということはイクト君は、不正なしで金魚すくいを行うと」
「そうだ! 仮にも勇者なんだから、金魚すくいくらいなんてことないだろう。いっそのこと、ノーマルな金魚すくいはやめて、この祭りのメインイベントである超危険魚介モンスターと激突バトル企画に変更しよう。いいねっ」
「は、はぁ……。というわけで、イクト君は予定変更で、超危険魚介モンスターとのバトルに備えてください」
何だってっ? なんてことのない、普通のデートクエストなんじゃなかったのかよ。オレが反論する余裕もなく、白キツネさんはノリノリでバトルイベントに申請してしまった。
話し合いが終了して、何故かワクワクした表情のアイラと不安げな表情のなむらがオレを励ます。
「やったね、お兄ちゃん! せっかく勇者なんだから、お祭りでもガンガンにバトルしなくちゃっ。もちろん、アイラも途中参加で攻撃に参戦するからっ。楽しみだね!」
魔法少女という肩書きでありながら、格闘家でもあるアイラは今回のバトルイベントに前向きだ。けれど、なむらちゃんの方はあまり乗る気では無さそう。
「イクトさんが、勇者だからって。そんな、危険モンスターと戦うなんて不安です。特にうちのマネージャーってすごく無茶するから」
可愛いなむらちゃんに潤んだ上目遣いで心配されて、男としては満更でもない。だから、よせばいいのにカッコつけて無理してしまった。
「平気だよ! 撮影だし、いざとなったら、バトルを中断してもいいんだ。まぁ負ける気はないけどさっ」
頼れるお兄さんのイメージを守るため、妹アイラと相棒なむらちゃんの前でカッコつけたい一心のあまり、バカなことを言ったオレ。この十分後、オレは激しくこの安請け合いを後悔することになる。
* * *
ズォーン、ズォーン!
ドシンドシンと足を鳴らして特設イベントステージを歩く姿は、魚介モンスターというより恐竜に近い。てっきりお魚タイプと対決すると思っていたが、実際は水陸両用の未知の個体が相手だった。目つきは鋭く、『どこの暗殺者ですか?』と聴きたくなるような迫力だ。
モニター画面にパッと巨体モンスターのステータスが表示されると、前回のレインとのクエストで戦った【水龍レベル・130】をはるかに上回るチートモンスターだった。
(まずいよ、このモンスター。しかもこんな巨体だなんて聞いてないし。はっ! だから、なむらちゃんはあの時心配な表情でオレを見つめていたのか?)
時すでに遅し、覆水盆に返らず。
ギャラリーに囲まれて、カメラもグルグルと周り、スタンバイオッケーの状態だ。安全のためにバリアの張られたステージの上には、槍を手にしたオレと巨体モンスターのみ。
「イクトさん! 頑張って下さい」
「お兄ちゃんっファイトォ」
「いい映像期待してるよ、イクト君!」
みんなの歓声が聞こえる、なむらちゃんや妹も応援している。やるしか、ない。
「ええいっ。ちくしょうヤケだっ! 行くぜっおりゃああっ」
ズガーーーーーン! キュオーーーーン! ガシャーーーン! グィオオーーーン!
ありとあらゆるスキルと魔力のぶつかり合い、これまでにないほどのダメージを受けつつ、終止符。
『やりました! 勝者、結崎イクト君ッ』
『きゃああっ!』
『すごーい! あの人、アイラちゃんのお兄さんだって』
――激戦の末、ヒットポイント表示が危険信号になりながら、ようやく魚介モンスターを気絶させて……。その後、オレも気絶した。
* * *
あれから、どれくらいの時間が経過したのだろう? 気がつくと、撮影は無事に終了してイベント会場のテントで横になっていた。頭の部分は柔らかく、寝心地が良い。これは?
「気がつきましたか、イクトさん。良かった、あの巨大なモンスターを倒してからずっと気絶していたんですよ。アイラちゃんは、別のバトルイベントの撮影で先に出ていかなきゃいけなくて。私と白キツネさんだけ残ったんです」
「なっなむらちゃん! ごめん、膝枕してくれたのかっ」
大半のスタッフはすでに解散したようで、残されたのはオレとなむらちゃん、白キツネさんのみだ。クールな性格なのか、オレ達のやり取りを白キツネさんは見てみないフリしてくれている。
「いいんです、イクトさん。今日は慣れない撮影で疲れたでしょうし。それに、本当は撮影じゃなくてもイクトさんとデートしてみたかったから。この時間は、きっと神様がくれた撮影後のご褒美タイムです!」
「そう言ってくれると、気が楽になるよ」
ほがらかに笑うなむらちゃんは、魔法少女アイドルというメディア向きの表情ではなく、等身大の女の子。この笑顔は多分、きっとファンの人も知らない。
「今度は、撮影抜きでアイラちゃんと私とイクトさんで夏祭りに行きましょうねっ」
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