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第十部 異世界学園恋愛奇譚〜各ヒロイン攻略ルート〜

臨海デート・女勇者編5:勇者2人のコンビネーション

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 まさかの凶悪モンスター【水龍・レベル130】の出現により避難指示の場内アナウンスが流れる。そんな中、素早くパンケーキショップの会計を済ませてオレとケイン先輩は避難の人々の方向とは逆方向に突き進んだ。

 避難場所から遠くに逆走するオレたちに気づいた警備員が、警笛を鳴らして合図する。

「お客様、そちらの浮遊生物ゾーンは、水龍レベル130の出現率により、避難指示が降りています! 早く、安全な魔法障壁ゾーンへ……」

 混乱する水族館内で足止めをくらい、やや苛立ちながらもケイン先輩は持ち前の感じの良さで警備を突破しようとする。
「すみません、婚約者と従兄妹が浮遊生物ゾーンに取り残されているかも知れないんです。助けに行かないと!」
「大丈夫ですよ。オレたち、ギルドランク上級の勇者なんで、そう簡単にはやられませんからっ」

 スマホの冒険者レベルを提示して、なんとか警備員を納得させて浮遊生物ゾーンの魔法障壁を一時解除してもらう。そこには、戦闘真っ只中のレインとヤヨイさんの姿が。

『ぎゅいいいいんっ!』

 ズシャッ! ザシュッ!

 実験モンスターだという水龍の体調はおよそ2メートルほどで、アクアブルーの鱗が特徴的だ。水族館内で飼育されているだけあって、龍にしてはサイズはそれほど大きくない。だが、クリスタルのように輝く透き通る瞳は、見る者をぞくっとさせるような厳しさを含んでいた。
 さらに、小精霊の眷属たちが集団で、水系の魔法を使いレインとヤヨイさんの2人を攻撃している。

 予想よりもすでに激しいバトルが展開されていたが、ちょうど式神による雷系の攻撃がヒットしたのか(水龍・レベル130】が回復モードで休みのターンとなった。
 隙を見て、オレとケイン先輩もバトルの輪に加わることに。

「レイン、ヤヨイ! 大丈夫か? くっ……水龍の眷属がこんなに……とりゃあっ!」

 交戦中の2人にいち早く駆け寄ったケイン先輩が、ヤヨイさんを守るように水龍とその眷属たちの前に立ちはだかる。
 普段なら陰陽師系の秘術で高レベルのガード魔法を展開するヤヨイさんだが、妊娠中のためかあまり術が使えない様子。式神を召喚して代わりに、レインの援護をしていたようだ。

「ええ、私は大丈夫だけどヤヨイさんは本調子じゃないから。ケインはヤヨイさんのガードをお願い! イクト君、一緒にやれる?」
「ああ! もちろんっ……まずは、水龍の情報を取得しよう」

 サーチ魔法を唱えて、水龍レベル130の基本情報を取得する。数秒でデータがスマホアプリに表示されて、バトル方法を検討するが……。

【水龍・レベル130】
 HP:500000
 MP:無限回復
 弱点:電系攻撃、氷魔法による足止め
 耐性:水系魔法全般
 アドバイス:実験により、従来の水龍よりも遥かに強力な戦闘能力を持つ水龍レベル130。弱点の雷系攻撃以外は一切の攻撃を受け付けず、MP無限回復効果により延々と傷を自動で治癒出来る。現代の魔法力では、太刀打ちできない敵であると言える。氷魔法で足止めしつつ大人しく撤退して、封印術で閉じ込めるのがオススメ。


「な、なんだよこれ? 延々と傷を自動治癒ってほぼ勝てないじゃないか。つまり、封印魔法が使える専門家が来るまでは、解決出来ないってことか? 【専門家が到着するまでは……30分かかります……】だとさ。どうする? 諦めて早いとこ逃げるか?」
「理論的にはそうなのかも知れないけれど、でも……ここで逃げたら隙を突かれて、かえって全滅しちゃう。なんとか封印専門家が来るまで、氷魔法を使って時間稼ぎしないと!」

 足止め方法は判明しているものの、オレもレインも魔法の専門家ではないため黒魔法系の氷魔法は使えない。となると、頼りはヤヨイさんの式神かケイン先輩の魔法剣だが。

「レインちゃん、イクト君! この魔法札を使えば、一時的に装備武器が氷属性に変化するわ。本調子なら、私が陰陽術で魔法剣を使えるようにしてあげられるんだけど。今はそこまでMPが使えないから、各々のMPを消費して魔法札を使ってくれる?」
「分かりました! ヤヨイさんとお腹の赤ちゃんには危害が加わらないようにオレたちで足止めするんで……。よし、魔法札……発動!」

 装備品の槍に魔法札をかざすと、氷の冷気が切っ先に宿る。この武器を直接用いるのは水龍ではなく、その周辺。水龍を取り巻くように氷で足元付近を固めて、封印専門家が来るのを待つという算段だ。

「はぁああっ! 氷よ轟けっ魔法レイピアっ」

 キィイインッ! パキパキパキ……!
 レインが、レイピアを魔法剣モードで突き刺して、水龍周辺を次々と氷で取り巻いていく。

「よし、オレも……氷の乱れ付きっ」

 ドドドドッ! パキパキパキ!
『グシャァあああ!』
 直撃こそ避けているものの、順調に周辺は氷の結晶で固められているように感じられた……が。

 バキンッ! ピキピキピキピキッ!
 水龍の尻尾攻撃で、瞬く間に氷の結晶が砕かれてしまう。正確には、レインの攻撃した箇所のみが、突破されている気がする。

(いつも腕利きで、攻撃を外さないレインの手元が狂っている? 身重のヤヨイさんを庇って的確さを失っているのか?)

「どうして? せめて、もう少し、的確に氷を水龍の足元に放てれば……」

 このメンバーの中で最も高レベルのケイン先輩は、ヤヨイさんとお腹の子を守るために眷属との交戦で手一杯。いや、あれだけの数を1人で相手にするのは、さすがのケイン先輩でもそのうち限界が来るはずだ。
 ここは、オレとレインで水龍を食い止めるしかない。

 すると、レインも同じことを感じていたのか。それとも、オレよりもさらに思案していたのか……履いていたヒールの高いサンダルを脱ぎ、ロングスカートをビリビリと音を立てて破っていく。
 隠されていた白い太ももを晒して自ら裸足になり、破けたスカート姿でレイピア構えるレインの目には迷いの色は見えない。

「……れ、レイン? 一体何を?」
「……やっぱり、この私服装備じゃ思うように動きが取れないよね。特にこのサンダル……せっかくオシャレしてきたけど、やっぱり私はこの異世界では女勇者なんだ! 2人で息を合わせて、全力で連続攻撃を叩き込もうっ」

 デート服でのオシャレよりも緊急事態に対応するために、サンダルを脱ぎ動きづらいロングスカートを破ってまで戦おうとするレイン。彼女の目には、美しい正義の色が輝いている。

「レイン……! さすがは、女勇者だっ。ああっやろうぜ……せーのっ。うおりゃあああっ」
「はぁあああっ」

『魔法連撃、氷のダブル突きっ!』

 ドォオオオン! パキパキパキパキパキパキ! ズォオオオンッ!

 ありったけの魔力と攻撃力を込めて魔法攻撃を放ったおかげで、水龍はその姿まるごと氷の包まれて身動きが取れなくなった。

 オレたちのコンビネーションが、もたらした勝利だ。


 * * *


 眷属たちを殲滅したケイン先輩は、体調不良のヤヨイさんをお姫様抱っこして、一足先に医務室へ。
 あとは、封印専門家がやってくるのを待つのみだ。この場に残ったのは、オレとレインの2人だけ……。やがて、封印が完了してオレたちは水族館もバックヤードで簡単な報告書を書き、ようやくデートへと戻れることに。

「やったな、レイン! あれっけど、その服。これからどうしようか? オシャレ服とはちょっと違うけど、ガチャの冒険者用装備品がいくつかキューブにあるから、あげるよ。取り敢えず着替えないと……」

 先ほどまでは、水龍をどうにかすることで頭いっぱいだったが、流石に破れたビリビリのスカートではデート続行は難しいだろう。

「えっ……いいの、イクト君。装備品、貰っちゃって」
「当たり前だろう? なんたって今日はオレとレインのデートクエストなんだから! 本当は、きちんと新しい服を買った方がいいんだろうけど、今は緊急だし。ガチャの装備品で悪いけど。いくつかキューブにあるから、好きなのを選んで」
「じゃあ、この明るい色のワンピースと白いスニーカーなら浮かないかな?」

 本来は従業員が使うバックヤードのため、更衣室もあり気兼ねなくレインの装備変更が出来る。
 夏用のマスタードイエローの魔法使いワンピースを手渡し、装備してもらうことに。セットとして付いてきた七分丈の黒いレギンスもコーディネートして、アクティブな仕様だ。

 サンダルもダメになってしまったため、緊急で冒険者用の白いスニーカーを履いてもらう。

 どちらも装備品にしてはカジュアルで可愛いデザインのもので、活発なレインにはぴったりだ。

「結構可愛い装備品だね。ありがとう! あはは……さっきまで履いてたスカート、ぼろぼろになっちゃった。せっかくのデートなのに、自分で破いて戦いやすい格好に変えちゃったんだっけ。ごめんね、イクト君。けど、すごく満足している……私はこの異世界の女勇者なんだって」
「……レイン。ああ、さっきのバトルも伝説の女勇者レイネラ様の再来みたいで、すごくかっこよかったよ!」
「ふふっ。そう言って貰えると嬉しいなっ」

 少し照れたように微笑むレインは、年相応の可愛らしい笑顔で、思わず見惚れてしまう。顔が赤くなっているのを隠すように、パッと出入り口のドアへと方向転換して咳払いをする。

「それじゃあ……ケイン先輩たちと連絡を取って、仕切り直してデートクエストを再開しよう!」
「うん、改めてよろしくねっ」
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