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第十部 異世界学園恋愛奇譚〜各ヒロイン攻略ルート〜
臨海デート編・序章:新社長ミンティア
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夏休みの始まりは、双子の姉萌子から送られてきたちょっぴり奇妙な電話から。ミチアの家で行われるはずだった【北欧風ザリガニ料理パーティー】が、急遽中止になった翌日のことだ。オレも参加する予定だったが、行柄家に訪問することなく終わった。
何故、ザリガニ料理パーティーが中止になったのか、オレは詳しく知らない。
『ねぇイクト、萌子ってもう子供じゃないよね? ザリガニ料理だって作れるし立派なレディだよね?』
『ああ、ザリガニパーティー中止になって残念だったけど。萌子のせいじゃないんだろう? この夏で頑張って大人になれよ。ザリガニ食べる機会だって、まだこれからもあるさ』
『うん……萌子いろいろあったけど、負けない! 辛くても頑張る』
(萌子のやつ、何を悩んでいるんだ。よっぽど、ザリガニパーティーが中止になったのがショックだったのか。まぁいいや。スマホゲーム異世界内にログインしようっと)
姉からの電話を無難に返して、スマホアプリを立ち上げて異世界へ。再び目を開けると、異世界の賃貸住宅の一室……お目付役のリス型精霊ククリと守護天使エステルの姿。
いつもの光景、ここがオレの居場所だ。
「お待たせしましたイクト君! ついにヒロイン攻略ルートが本格的に始まりますよ。最初の攻略対象である3組の女の子達と、臨海学校に通いながらデートクエストして頂きます」
ハーレム勇者認定協会のククリから、一枚の用紙を手渡される。
「臨海学校に通いながら? どれどれ、【攻略ルート臨海デート編】か。臨海学校で楽しく冒険者の勉強しながら、島の各デートスポットを巡ってみよう! へぇ……海辺でデートする以外にも、水族館や花鳥園もあるんだ」
「はい! なおクエスト中に貯まったポイントは、お役立ちアイテムと交換出来ますのでバリバリ頑張りましょう」
イベント交換アイテムと一覧の部分を、リス特有の小さな手で指差して説明するククリ。続けて、守護天使エステルが臨海学校の過ごした方を簡単に説明し始める。
「臨海編でデート出来る女の子たちは、予定通りミンティアちゃん、レインちゃん、なむらちゃんwitアイラちゃんの3組だけど。実は、他の女の子たちも臨海学校に参加するからフラグが立つように工夫してね」
「えっ。なんだか、罪悪感が沸いちゃうけど」
「あくまでも、恋愛シミュレーションゲームの製作データ提供クエストだから。大丈夫」
「う、うん。ところで、事前準備を行うように指示が来ているんだけど。具体的には何を?」
実は以前のガチャで、夏用の私服や浴衣はゲット済みだ。
「ふっふっふっ。そこは、夏の定番【水着ガチャ】ですよ! なんと言っても、その気になればほぼ毎日遊泳も可能ですからね。水着はたくさんあるに越したことありません。女の子用の水着が出た場合は、着せたい子にプレゼントするのもグッドです」
「水着ガチャ……だと。あのさ、男用の水着ならまだしも、女の子の水着をゲットして尚且つプレゼントするなんて、オレにはハードルが高いっていうか。一応、女アレルギーだし」
きわどい露出度の水着をデートの相手に贈るなんて、それだけで女アレルギー発症で倒れてしまいそうだ。
「何を言っているんですか? むしろ女アレルギーだからこそ、水着ガチャが重要なんです。イクトさん好みの清楚な水着を着てもらうことで、大胆な水着でのデートを回避出来ます。さぁ早速水着ガチャ特設会場に行きましょう!」
* * *
ノリノリのククリに促されて、半ば強引に有名ショッピングモールに開設された水着ガチャ特設会場へ。福袋感覚で水着をゲット出来るということで、すでに人だかりが。
「おっ? イクトも水着ガチャ引くんだ。オレも臨海学校の準備で、このガチャ引くことにしたんだよ」
爽やかなスポーツマン風イケメンという雰囲気のマルスは、相変わらずカッコよくて。何故、萌子は彼を拒むようになったのか不思議でならない。オレが女だったら、マルスに気がいくが。双子の姉とはいえ、そういう感覚は共有出来ないのか。
「マルス! 最近ログインしていなかったみたいだけど、今回から完全復帰か、安心したよ」
「ああ……ところでさ、イクト。萌子ちゃんのことなんだけど……どんな水着が好みか分かるかな? 出来れば萌子ちゃんと復縁目指して、可愛い水着をプレゼントしたいと思って」
「えぇっ。萌子の好み? そうだなぁ……アイツそんなに大胆なデザインは好きじゃないみたいだし、お嬢様風とか。ところで、萌子って行柄社長と噂すごいけど、本当に復縁目指してアタックするの?」
「ああ。行柄社長もこれだけダラダラ伸ばして、まだ交際に至っていないんだ。むしろ、行柄社長は【ただの友人のお兄さん枠】で収まる可能性が出てきた。それに、ここで引き下がったら、男が廃るしな!」
交際するかしないかの状態で、ダラダラと萌子との曖昧な関係を引き伸ばしている扱いの行柄社長。もしかすると、萌子の17という年齢を気にして高校卒業するまで交際しない気なのかも知れないが。
「そ、そうなんだ。あれっ噂をすれば行柄社長……」
「やぁ、イクト君。マルス君も久しぶりだね。僕は、水着ガチャ実装イベントの様子見に、スタッフとして見廻り中だよ」
噂をすれば影がさすとはよく言ったもので、萌子と交際疑惑が出続けている行柄社長が姿を現した。銀髪に染めたウェーブがかったヘアスタイルは、黒髪サラサラヘアのマルスとは対照的と言える。だが、2人ともイケメンであることには違いない。
まだ若い実年齢20歳のマルスと、実年齢よりしっかりとした印象の29歳行柄社長は、並ぶと年齢差を感じる。だが、17歳の萌子には20歳のマルスだって年上のお兄さんだ。
「……今日は、萌子ちゃんと一緒じゃないんですね。てっきり、四六時中一緒なのかと思ったけど。もしかして、噂だけで本当に交際していないんですか」
「……! そ、それは……。実は、いろいろあって、今回の夏休みはお手伝いに来れないかも知れないから。コホン! 僕としては、萌子さんには高校卒業後もずっとうちにいてもらいたかったんだけど。出来れば、その……萌子さんとは正式に籍を入れて、僕の妻として迎えたいと」
マルスの鋭いツッコミに、行柄社長の目がフヨフヨ泳ぎ始める。一応、萌子との入籍を視野に入れていた様子だが。
「萌子ちゃんも最初は、ミチアちゃんの退院のいろいろな用事を、ボランティアのつもりで手伝っていただけでしょうし。家政婦が必要なら萌子ちゃんじゃなくて、プロの人を頼んだ方が良いと思いますよ。あっ……それとも、行柄社長の元カノって噂があった女子社員にでも頼んだらどうですか?」
心の奥底から行柄社長のことがムカついているのか、マルスの毒舌攻撃は止まらない。元カノと噂の女子社員とかいろいろ複雑そう。
「ち、違うっ。あの人は元カノではないっ。ただ、僕と萌子さんがザリガニパーティーの準備で出掛けた時に、その女子社員と鉢合わせして。女子社員が萌子さんを子供扱いし始めて、萌子さんがショックで泣き出して……」
つまり、萌子が落ち込んでいたのは、行柄社長の元カノと噂の女性に子供扱いされたのが原因だったのか。
っていうか、ザリガニ料理パーティーがそういう事情で中止だったとは。
「ふぅん。でも本当にそれだけですか、行柄社長……いえ、元社長」
それとなく、マルスが意味深なセリフを行柄社長に向けて発言し始める。
「えっ? 【元社長】って、何?」
いまいち状況を飲み込めないオレは、2人の間に流れる重い空気に飲まれてそれ以上突っ込めずにいた。
すると、行柄社長の腹違いの妹であり、オレが次にデートする相手である行柄ミチアが会場に現れた。正確には、彼女のアバター体である聖女ミンティアとしてだが。
颯爽と水着ガチャ特設ステージに登壇するミンティアは、伝説とされる【夜空の召喚士ミンティアラ】を彷彿とさせる。スパンコールが輝くマリンブルーのサマードレスを纏い、大人びて見えた。
(あれ……でも、どうしてこの特設ステージの壇上にミンティアが? こういうのって、運営者とか代表が挨拶するんじゃ……)
ふと頭をよぎったオレの疑問の答えは、マイク越しに発せられるミンティアの一言で一瞬にして氷解した。
「スマホRPG【蒼穹のエターナルブレイクシリーズ】を遊んでくださっている皆さん、楽しんでる? 普段は勇者イクト君の婚約者として、クエストに参加しているけれど……今日は別の肩書きでこのステージに立っているんだ。では……改めましてこんにちは! 新しい社長兼プロデューサー、行柄ミチアこと聖女ミンティアです!」
一瞬で魂ごとぶち抜かれそうな美貌と、清らかな笑顔で挨拶するミンティアに会場が沸き始める。
『うぉおおおっ。ゲキモエ、キャワキャワっ! ミチアちゃーんっ!』
『きゃあっ。あの子が新しい社長なの? 超可愛いっ』
『えっ……行柄リゲル社長は? お兄さんの方は退任したの?』
『実は、お兄さんの方は頻繁に続いていた一連のトラブルの責任を取らされて、追放の流れになって。仕方なく妹さんが、お飾り社長に……』
『聖女ミンティアバンザイ! スマホRPG【蒼穹のエターナルブレイク】に栄光あれっ』
『聖女、ヒロイン、社長! っミンティアぁあああ』
など、様々な声や噂が飛び交うものの、場の雰囲気に飲まれて大半の人は新社長兼プロデューサーの行柄ミチア……つまり聖女ミンティアにメロメロだ。
「嘘だろ……社長交代、しかも新社長は聖女ミンティア? えっもしかして、この流れだとオレって【新社長ミンティア】と、いきなりデートするのか。行柄元社長、これは一体?」
「安心してくれたまえ、イクト君。ミチアがお飾り社長として行柄ブランドを守ってくれている間に、僕は必ず社長業に復帰してみせる。関連会社を立ち上げて、僕の妻となる予定の萌子さんが安心して家事と育児に専念出来るように、努力するから」
「は、はぁ……」
追放からの復活、というここ数年のラノベ主人公のような計画を目論む行柄リゲル氏。マルスの存在を無視して、オレの双子の姉である萌子との結婚を実行する気のようだ。
だが、ミチアも社長としての意気込みが凄くて、お飾り社長で終わる気はなさそう。果たしてこの兄妹の行く末は……?
超展開のヒロイン攻略パート【臨海デート編】が、ついに始まる!
何故、ザリガニ料理パーティーが中止になったのか、オレは詳しく知らない。
『ねぇイクト、萌子ってもう子供じゃないよね? ザリガニ料理だって作れるし立派なレディだよね?』
『ああ、ザリガニパーティー中止になって残念だったけど。萌子のせいじゃないんだろう? この夏で頑張って大人になれよ。ザリガニ食べる機会だって、まだこれからもあるさ』
『うん……萌子いろいろあったけど、負けない! 辛くても頑張る』
(萌子のやつ、何を悩んでいるんだ。よっぽど、ザリガニパーティーが中止になったのがショックだったのか。まぁいいや。スマホゲーム異世界内にログインしようっと)
姉からの電話を無難に返して、スマホアプリを立ち上げて異世界へ。再び目を開けると、異世界の賃貸住宅の一室……お目付役のリス型精霊ククリと守護天使エステルの姿。
いつもの光景、ここがオレの居場所だ。
「お待たせしましたイクト君! ついにヒロイン攻略ルートが本格的に始まりますよ。最初の攻略対象である3組の女の子達と、臨海学校に通いながらデートクエストして頂きます」
ハーレム勇者認定協会のククリから、一枚の用紙を手渡される。
「臨海学校に通いながら? どれどれ、【攻略ルート臨海デート編】か。臨海学校で楽しく冒険者の勉強しながら、島の各デートスポットを巡ってみよう! へぇ……海辺でデートする以外にも、水族館や花鳥園もあるんだ」
「はい! なおクエスト中に貯まったポイントは、お役立ちアイテムと交換出来ますのでバリバリ頑張りましょう」
イベント交換アイテムと一覧の部分を、リス特有の小さな手で指差して説明するククリ。続けて、守護天使エステルが臨海学校の過ごした方を簡単に説明し始める。
「臨海編でデート出来る女の子たちは、予定通りミンティアちゃん、レインちゃん、なむらちゃんwitアイラちゃんの3組だけど。実は、他の女の子たちも臨海学校に参加するからフラグが立つように工夫してね」
「えっ。なんだか、罪悪感が沸いちゃうけど」
「あくまでも、恋愛シミュレーションゲームの製作データ提供クエストだから。大丈夫」
「う、うん。ところで、事前準備を行うように指示が来ているんだけど。具体的には何を?」
実は以前のガチャで、夏用の私服や浴衣はゲット済みだ。
「ふっふっふっ。そこは、夏の定番【水着ガチャ】ですよ! なんと言っても、その気になればほぼ毎日遊泳も可能ですからね。水着はたくさんあるに越したことありません。女の子用の水着が出た場合は、着せたい子にプレゼントするのもグッドです」
「水着ガチャ……だと。あのさ、男用の水着ならまだしも、女の子の水着をゲットして尚且つプレゼントするなんて、オレにはハードルが高いっていうか。一応、女アレルギーだし」
きわどい露出度の水着をデートの相手に贈るなんて、それだけで女アレルギー発症で倒れてしまいそうだ。
「何を言っているんですか? むしろ女アレルギーだからこそ、水着ガチャが重要なんです。イクトさん好みの清楚な水着を着てもらうことで、大胆な水着でのデートを回避出来ます。さぁ早速水着ガチャ特設会場に行きましょう!」
* * *
ノリノリのククリに促されて、半ば強引に有名ショッピングモールに開設された水着ガチャ特設会場へ。福袋感覚で水着をゲット出来るということで、すでに人だかりが。
「おっ? イクトも水着ガチャ引くんだ。オレも臨海学校の準備で、このガチャ引くことにしたんだよ」
爽やかなスポーツマン風イケメンという雰囲気のマルスは、相変わらずカッコよくて。何故、萌子は彼を拒むようになったのか不思議でならない。オレが女だったら、マルスに気がいくが。双子の姉とはいえ、そういう感覚は共有出来ないのか。
「マルス! 最近ログインしていなかったみたいだけど、今回から完全復帰か、安心したよ」
「ああ……ところでさ、イクト。萌子ちゃんのことなんだけど……どんな水着が好みか分かるかな? 出来れば萌子ちゃんと復縁目指して、可愛い水着をプレゼントしたいと思って」
「えぇっ。萌子の好み? そうだなぁ……アイツそんなに大胆なデザインは好きじゃないみたいだし、お嬢様風とか。ところで、萌子って行柄社長と噂すごいけど、本当に復縁目指してアタックするの?」
「ああ。行柄社長もこれだけダラダラ伸ばして、まだ交際に至っていないんだ。むしろ、行柄社長は【ただの友人のお兄さん枠】で収まる可能性が出てきた。それに、ここで引き下がったら、男が廃るしな!」
交際するかしないかの状態で、ダラダラと萌子との曖昧な関係を引き伸ばしている扱いの行柄社長。もしかすると、萌子の17という年齢を気にして高校卒業するまで交際しない気なのかも知れないが。
「そ、そうなんだ。あれっ噂をすれば行柄社長……」
「やぁ、イクト君。マルス君も久しぶりだね。僕は、水着ガチャ実装イベントの様子見に、スタッフとして見廻り中だよ」
噂をすれば影がさすとはよく言ったもので、萌子と交際疑惑が出続けている行柄社長が姿を現した。銀髪に染めたウェーブがかったヘアスタイルは、黒髪サラサラヘアのマルスとは対照的と言える。だが、2人ともイケメンであることには違いない。
まだ若い実年齢20歳のマルスと、実年齢よりしっかりとした印象の29歳行柄社長は、並ぶと年齢差を感じる。だが、17歳の萌子には20歳のマルスだって年上のお兄さんだ。
「……今日は、萌子ちゃんと一緒じゃないんですね。てっきり、四六時中一緒なのかと思ったけど。もしかして、噂だけで本当に交際していないんですか」
「……! そ、それは……。実は、いろいろあって、今回の夏休みはお手伝いに来れないかも知れないから。コホン! 僕としては、萌子さんには高校卒業後もずっとうちにいてもらいたかったんだけど。出来れば、その……萌子さんとは正式に籍を入れて、僕の妻として迎えたいと」
マルスの鋭いツッコミに、行柄社長の目がフヨフヨ泳ぎ始める。一応、萌子との入籍を視野に入れていた様子だが。
「萌子ちゃんも最初は、ミチアちゃんの退院のいろいろな用事を、ボランティアのつもりで手伝っていただけでしょうし。家政婦が必要なら萌子ちゃんじゃなくて、プロの人を頼んだ方が良いと思いますよ。あっ……それとも、行柄社長の元カノって噂があった女子社員にでも頼んだらどうですか?」
心の奥底から行柄社長のことがムカついているのか、マルスの毒舌攻撃は止まらない。元カノと噂の女子社員とかいろいろ複雑そう。
「ち、違うっ。あの人は元カノではないっ。ただ、僕と萌子さんがザリガニパーティーの準備で出掛けた時に、その女子社員と鉢合わせして。女子社員が萌子さんを子供扱いし始めて、萌子さんがショックで泣き出して……」
つまり、萌子が落ち込んでいたのは、行柄社長の元カノと噂の女性に子供扱いされたのが原因だったのか。
っていうか、ザリガニ料理パーティーがそういう事情で中止だったとは。
「ふぅん。でも本当にそれだけですか、行柄社長……いえ、元社長」
それとなく、マルスが意味深なセリフを行柄社長に向けて発言し始める。
「えっ? 【元社長】って、何?」
いまいち状況を飲み込めないオレは、2人の間に流れる重い空気に飲まれてそれ以上突っ込めずにいた。
すると、行柄社長の腹違いの妹であり、オレが次にデートする相手である行柄ミチアが会場に現れた。正確には、彼女のアバター体である聖女ミンティアとしてだが。
颯爽と水着ガチャ特設ステージに登壇するミンティアは、伝説とされる【夜空の召喚士ミンティアラ】を彷彿とさせる。スパンコールが輝くマリンブルーのサマードレスを纏い、大人びて見えた。
(あれ……でも、どうしてこの特設ステージの壇上にミンティアが? こういうのって、運営者とか代表が挨拶するんじゃ……)
ふと頭をよぎったオレの疑問の答えは、マイク越しに発せられるミンティアの一言で一瞬にして氷解した。
「スマホRPG【蒼穹のエターナルブレイクシリーズ】を遊んでくださっている皆さん、楽しんでる? 普段は勇者イクト君の婚約者として、クエストに参加しているけれど……今日は別の肩書きでこのステージに立っているんだ。では……改めましてこんにちは! 新しい社長兼プロデューサー、行柄ミチアこと聖女ミンティアです!」
一瞬で魂ごとぶち抜かれそうな美貌と、清らかな笑顔で挨拶するミンティアに会場が沸き始める。
『うぉおおおっ。ゲキモエ、キャワキャワっ! ミチアちゃーんっ!』
『きゃあっ。あの子が新しい社長なの? 超可愛いっ』
『えっ……行柄リゲル社長は? お兄さんの方は退任したの?』
『実は、お兄さんの方は頻繁に続いていた一連のトラブルの責任を取らされて、追放の流れになって。仕方なく妹さんが、お飾り社長に……』
『聖女ミンティアバンザイ! スマホRPG【蒼穹のエターナルブレイク】に栄光あれっ』
『聖女、ヒロイン、社長! っミンティアぁあああ』
など、様々な声や噂が飛び交うものの、場の雰囲気に飲まれて大半の人は新社長兼プロデューサーの行柄ミチア……つまり聖女ミンティアにメロメロだ。
「嘘だろ……社長交代、しかも新社長は聖女ミンティア? えっもしかして、この流れだとオレって【新社長ミンティア】と、いきなりデートするのか。行柄元社長、これは一体?」
「安心してくれたまえ、イクト君。ミチアがお飾り社長として行柄ブランドを守ってくれている間に、僕は必ず社長業に復帰してみせる。関連会社を立ち上げて、僕の妻となる予定の萌子さんが安心して家事と育児に専念出来るように、努力するから」
「は、はぁ……」
追放からの復活、というここ数年のラノベ主人公のような計画を目論む行柄リゲル氏。マルスの存在を無視して、オレの双子の姉である萌子との結婚を実行する気のようだ。
だが、ミチアも社長としての意気込みが凄くて、お飾り社長で終わる気はなさそう。果たしてこの兄妹の行く末は……?
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