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第十部 異世界学園恋愛奇譚〜各ヒロイン攻略ルート〜

第1章 3:再会と衝撃の入学式

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 初級ランク職終了レベル以上の異世界在住者、異世界転移者なら誰でも入学可能としている異世界アカデミー。

 各地の魔法学園と提携している関係で全国にサテライト校があるが、入学式はメインとなるダーツ魔法学園棟の建物で行われる。授業は、ゲートでそれぞれのサテライト校をつないで使用する。遠く離れた学校にもアカデミーゲートから一瞬で移動出来るので便利だ。

 生徒の証となる学生証も交付され、いよいよ本格的に異世界での学園ライフが始まろうとしていた。

「制服よし、学生証よし。一応、武器も携帯用装備キューブに収納して。新しい制服だから、なんだか新鮮だな」
「こちらも準備できたよ、イクト君。じゃあそろそろ出掛けようか」

 季節は五月だがゴールデンウィークも長かったし、フリーシステムの塾に近いスクールなのでこれから入学式でもそれほど問題ないのだろう。

「まさか、こんな形で再びダーツ魔法学園の敷地を利用することになるとはな……。そういえば、ダーツ魔法学園って転生者たちが帰還してから生徒数が減っちゃったんだっけ? 萌子はいま異世界に留学中だけど、アカデミーの姉妹校でダーツの生徒じゃないしなぁ」

 式典に参加するために、学生服を身に纏うオレ、そして守護天使エステルとククリ。そう……ダーツ魔法学園時代との最大の違いは、守護天使や精霊も生徒として入学することが出来るのことだ。
 そんなわけで、本日からエステルとククリも同じ学校の生徒となるわけである。

「みたいだね、これまでの卒業生たちを集め直してまたギルドクエストが行いやすくする狙いもあるらしいよ」
「しかし、まさか私まで学園生活を送ることになるとは……驚きです。どうですか、イクトさん……この制服似合います?」

 ククリは、着込んだブレザータイプの制服を、くるりと回転して360度オレに見せる。ひらひらとブルー系のチェックのスカートが靡いて可愛らしい。

「あぁ……ククリって見た目は女子高生でも通りそうな容姿だし。まったく違和感ないよ……似合ってる」

 リス型精霊という珍しいタイプの精霊だが、人間型モードになるとどこから見てもごく普通の美少女だ。茶色い髪のポニーテールが、リスの尻尾を彷彿とさせるくらいだろうか。

「うふふ……ククリちゃんは、人間モードだと本当にノーマルな状態だから馴染みやすいよね。私なんか天使の羽があるから……」
「そういえば、エステルはいつも通りの守護天使ルックに学校用の帽子を被っているだけになったけど……」

 しかも、帽子といっても天使の輪を邪魔しないような小さめのものである。

「うん、守護天使コースは全員天使だし……背中の羽を守る意味でもノーマルな制服はちょっとね。けど、いろんな守護天使と出会う機会が増えるから嬉しいかな?」
「そっか、エステルにはいつも留守番させていて悪いと思っていたし。他の天使たちとの交流の場が増えて良かったな」
「お仕事以外の他の守護天使との出会いって珍しいからね。まぁ私もプライベートの充実のつもりで楽しむよ」

 久しぶりのダーツ魔法学園の校門をくぐり抜けると、すでに新入生たちが集まっていた。普通の学校と異なり幅広い種族や年齢層が集まっていて賑やかな雰囲気だ。

「おぉ……魔族にエルフ族に、ケモミミ族……随分と人間以外の種族も多いな」
「サテライト校として提携している学校は全国に沢山あるし。アオイちゃんのいる魔族系のお嬢様学校とか、ケモミミ族が通うメイドさんの養成学校とか。みんな異世界アカデミーに組み込まれているらしいよ」
「そういえば、ミーコもメイド学校に通うって喜んでいたっけ。アオイとも……みんなとも授業が始まれば会えるよな」

「うん。アオイちゃんとは、最後の訪問以来会えていないんだよね。ここでの交流を通じて、親密度を増していけばいいんじゃないかな」
「ありがとう、エステル」

 アオイの名前が出て、思わずドキリとしたが、それと同時にあまりの攻略難易度の高さにテンションが少し下がった。この恋愛シミュレーションモードのラスボス的存在アオイ……果たしてオレが彼女を落とせる日が来るかどうか……。

 だが、さすがは魔王様といったところで、アオイはオレたちの想像をさらに上回る進化を遂げていたのである。


 * * *


「あっイクト君も入学式に出席してたんだね。エステル、ククリちゃんも久しぶりっ。聖女コースの方にいたから、気がつかなかった。また、同じ学校の生徒としてよろしくね」
 入学式が始まる数分前に、聖女ミンティアと再会する。地球では退院後のリハビリ生活のミンティアだが、どうやらアバターとして転生体ログイン出来るくらいには回復した様子。

「ミンティア! アバター体を使ってログイン出来るようになったのか。調子も良さそうだし、ホッとしたよ」
「うふふ、早速ミンティアちゃんと会えてラッキーだったね」
「ところで体調は大丈夫なのでしょうか? このククリ、ミンティアさんの無事が確認出来ただけでも涙が……」

 地球でいつでもミンティアに会えるオレと違って、エステルとククリはミンティアと話すのは数ヶ月ぶりのはずだ。情に厚い縁結びの女神ククリが、ミンティアの無事を確認して涙ぐむ。
 普段、ククリはリス型で生活して居たから人間モードでこうして話すと、より一層人柄が(もしくはリス柄?)伝わってくる。

「ククリちゃんにまで心配かけてたんだよね、ありがとう……身体は回復してるよ。お兄ちゃんが、ゲームは1日1時間って決めてるから、ここの時間軸だと1週間居られるの。地球では高校に通えなかったから寂しかったけど、また異世界で学生が出来て嬉しいかな」
「そっか……身体が辛くなったら、いつでも休んでいいし。とにかく無理するなよ」
「ありがとう、イクト君」

 新しいスマホの連絡先をお互い登録しあい、一旦それぞれの席へと着く。ミンティアとは、同じギルドに所属しているので昼食後にはそっちで落ち合う予定だ。

「イクトさんっ。エステルさんにククリちゃんも入学するんですね。また、同じ学園に通えて嬉しいです。どうやら、席順はアバターの登録ID順みたいなんで、私たちの席は隣接してますね」
「よぉイクトっエステル、ククリ。元気そうだなっ。ククリなんか、リスっぽさがちょっと抜けて見違えたぜっ。またこのエルフ剣士のアズサがクエスト引っ張ってやるから、楽しみにしてろよ」

 指定された席に着くと、既に見慣れた2人がオレの席の両隣に座っていた。オレがこのスマホRPGをプレイし始めた頃から仲間の初期の頃からマリアとアズサだ。

「マリア、アズサ、2人とも! 相変わらず、コンビで行動しているんだな」
「マリアさんたちも一緒とは……データでヒロインとして登録されているので会えるとは思っていましたが。やはりギルドメンバーは頼もしいですね! ハーレム勇者認定協会としては、やはり、ヒロインメンバーの確保は早急にしたかったので安心です」
「そうだね、あれっ。そういえばエリスさんは……?」

「ええ、本当はエリスも含めて3人組が私たちの完成系なんですが、ハロー神殿のお仕事で忙しいみたいで……」
「エリスは、地球と異世界を行ったり来たりして多忙だもんな。このアカデミーにも所属はする予定みたいだけど……」

 残念ながら入学式には欠席のエリスだが、今日も地球の方では会っているし、心配いらないだろう。
 世間話もほどほどに、いよいよ開始された入学式の挨拶に耳を傾ける。

「えー本日は、この異世界アカデミーの入学式の日を無事に迎えられたことを非常に喜ばしく思います。異世界人と地球人の交流の場を再び持てたことや、魔族などの種族と人間族が親しくなる機会を増やせたことを喜ばしく感じる次第でして……」

 アカデミー代表者はかなり高齢の魔族の魔法使いで、ダーツ校長とは旧知の仲だという。かつては、闇の大魔導士として恐れられていたらしいがすっかり丸くなってしまったのだとか。

 プログラム表によると代表のスピーチが終わると、魔族の長からの挨拶となっている。現在の魔族のトップといえば……もしかすると、アオイだろうか?

「では、現在の魔族を治める魔王のお2人に登場していただきましょう! どうぞっ」

(んっ? 今、魔王のお2人とか言わなかったか? おかしいな、魔王はアオイだけのはずだが。古代龍さんが復活したとか?)

「きゃああああああっ真野山くーん!」
「うぉおおおおおおっアオイたそー」

 期待と不安で胸が高まる中、現れたのは見覚えのある2人の男女だった。魔族学園側の席から歓声が一気に溢れる。超大物アイドルか人気俳優かと思うような歓声だ……実際に魔族にとってのトップスターはアオイなのかもしれないが……。

「えっ……まさか、嘘だろう? こんなことってあり……?」

 オレの目が確かならば、壇上に立っている人物は2人である。そして、2人いるはずなのに、どちらの人物もアオイ本人なのだ。

「皆さん、はじめまして……魔族の長である真野山葵(まのやまあおい)です。今日は、僕たち2人が一緒に世間に並んでスピーチ出来るはじめての日になります。嬉しいよっ」

 男子生徒の学生服を纏った真野山君が、天使のような微笑みでスピーチを始めると、狂ったように女性たちが(一部男性も含む)声援をかけ始めた。

「きゃあああああっアオイくぅうううんっ。男の娘なのに、ヒロインすぎるぅっ可愛すぎィイイイ」
「あーーーーっ真野山キュンの可愛さが、世の中の限界を突破しすぎているんですけどぉおおおおっ」
「真野山きゅんバンザイ! 超美少女に見える男の娘、真野山きゅんに栄光あれっっ」

 オレの気のせいでなければ、男子学生服を着た超美少年は真野山君本人で合っているようだ。しかも、超美少女に見える男の娘ときている……かつての真野山君のキャッチフレーズがここで復活しようとは。

 だが、オレの記憶が確かならば真野山君は呪いで男の娘になっていただけで生来の性別は女の子のはずである。
 頭が混乱する中、オレがよく知るもう1人の超美少女アオイが続けてスピーチをし始めた。

「みなさん、真野山アオイ・グランディアです。私たちは、1人で2つの魂を内包した存在でしたが、魔獣討伐成功により2人の別人格として独立して生きていけるようになりました。この奇跡的な日を無事に迎えられたことに心から感謝しています。男の娘の葵も女の子のアオイもよろしくねっ!」

 アオイのスピーチが事実ならば、要は超美少女に見える男の娘である真野山君と超美少女のアオイがそれぞれ独立した存在となったということだ。
 それで、2人とも並んでスピーチが出来ているのか……しかし、アオイは相変わらず超かわいいな。思わずときめいているのはオレだけではないようで、男たちの野太い声援が超美少女アオイに送られる。

「うおぉおおおおおおっ。超絶美少女魔王姫アオイたそぉおおおおっ。神ィイイッ。アオイたそは神ィイイイいいい」
「天にまします我らが神よっ! アオイたそという奇跡をこの世に降臨させてくださったことに、喜びの祈りを捧ぐっ」
「あぁあああああっ2人並ぶと萌えの破壊力が凄すぎるヨォおおおお」

 すごい人気だな……あれっでもこの恋愛シミュレーションモードって、アオイがラスボスなんだっけ。このオレにあんな超人気のアオイが落とせるのか?

 ゲームクリアの難易度の高さを実感して唖然とするオレ……。だが、ハーレム勇者の宿命を背負うオレには、数多の美少女たちとのフラグが待ち受けているのであった。
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