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正編 黄昏の章
03
しおりを挟むアメリアの体調が回復するのを見計らって、出産出来る土地を探す旅を開始することになったアッシュ王子達。悪神ロキがすぐに剣聖の武器を狙って襲撃に来るとも限らず、ラクシュ姫達はそのまま境界自治区の詰所を拠点とし残留することになった。
「おはようございます、アッシュ。覚悟はよろしいですわね」
「ああ。本当にいいんだな、ラクシュ」
出立当日の朝、アッシュ王子の養親宅にて双子の入れ替わりが行われた。アッシュ王子が輪廻の棍を、ラクシュ姫が剣聖の武器を、そしてお互い同じ青い色のマントを装備する。背格好こそアッシュ王子の方が高いが、雰囲気などは同一に感じられる。
「こうしてみると、私達本当に双子の姉弟なのね。アッシュが黒い髪を長く伸ばしているおかげで、ますます似て感じるわ」
「ごめんな、ラクシュ。オレと妻のために、いやお腹の赤ん坊のためにこんなことになって……。オレにとって剣聖の武器は精霊として甦る旅で使って、役目が終わっているけど。お前にとっては荷が重いんじゃないか」
「ふふっ。剣聖の武器も、持ち主をバトンタッチする時期なのよ。それにしてもオレと妻……か、アッシュの口から聞く日がくるなんて。本当に二人は、夫婦になったんですわね」
ラクシュ姫が弟の成長に感涙していると、咆哮の槍使いレイネラが、アメリアがこれまで装備していたローブを着て現れた。
レイネラのショートの髪は、アメリアと同じ亜麻色の長いウィッグで隠されており、後ろ姿などはアメリアに似た風貌となっている。
境界自治区の詰所で、アッシュ王子とアメリアが残留していると思い込ませるためにも、アメリアの影武者役を自ら買って出たのだ。
「アッシュくんの大事な奥さんの影武者なんかが、私で悪いけど。でも、これくらいしか役に立てないから……安全な旅路を祈ってる」
「レイネラ、わざわざ影武者を立てる必要があるかも分からないのに。腕がたつとはいえ……済まない」
「大丈夫、詰所や境界自治区でロキやドラゴンを待機しながら待つだけで、本当に襲撃が来るかすら分からないのよ。意外と、予言の日には災いが閉じて戦わずに終わってしまう可能性だってありますわ」
ラクシュ姫の意見はある意味現実的で、アメリアの回復を待つこの数日の間、特にこれといった変化は無かった。だから、この武器の入れ替えも影武者も、特に意味なく終わる可能性もあるのだ。そうなって欲しいと、アッシュ王子は心で願った。
「そっか……そうだといいな。どっちにしろ巡礼者設定で各地を廻るなら、目立つ剣聖の武器より輪廻の棍の方が巡礼者っぽい。結局、オレはこの装備と縁があったんだろう。さて、アメリアも準備は出来たか?」
「えぇ。でもアッシュ君が、剣よりも杖術や棒術の方が得意だなんて知らなかったわ。まるで今回の巡礼の旅が、生まれる前から義務付けられていたかのようね」
八芒星の紋様がてっぺんの魔法石に刻まれている輪廻の棍は、ペルキセウス国に伝わる巡礼用の上等な武器だ。
おそらく行き先を決める際に夜に輝く星の行方を探すというよりは、この輪廻の棍をダウジングのように用いて旅の方向を定めることになるだろう。
今回の旅のために、ひいてはアッシュ王子が使うために、作られたような武器だ。
「だとしたら、オレは生まれた時からアメリアを守るように、宿命づけられているんだろう。運命の赤い糸が結ばれていたと思えば、悪くない」
「もうっ。アッシュ君ったら……だけどありがとう。私を運命の赤い糸と言ってくれて」
「うん。当たり前だろ。その……アメリアのこと世界で一番、愛してるんだからさ」
見つめ合う二人からは、新婚特有のオーラがあって様子を見ていた王立騎士団の関係者は、思わず目を逸らしたり気まずそうに咳払いをしていた。そんな熱い空気感をまったく気にせずに部屋に入ってきたのが、義妹のアイシャとお目付役のヴェスタだ。
夫婦二人だけで出産の場所を探して旅に出るのは、医者が見つからなかった場合、産むのに困るという意見があった。そのため、アッシュ王子と気心の知れている義妹のアイシャと、エルフの薬師ヴェスタが同行することになったのである。
「アイシャちゃん、ヴェスタさんも。そのアッシュ王子とアメリア様は、本当にこのメンバーで巡礼に? 王立騎士団の中から誰か派遣した方が良いのでは」
「見るからに強そうな騎士がついていたら、巡礼者に見えないし。最終的にはアメリアの安全な出産が目的なんだ。オレ達を信じて欲しい、心配しなくていいよ」
王立騎士団の剣士が、旅立ちの顔ぶれを確認し、思わず不安の声をあげる。が、アッシュ王子はこのメンバー構成に自信がある様子。
側から見れば、生まれつき病弱な若い男、その妻の妊婦、乳母代わりのエルフ、小柄な10代前半の少女、というまったく頼り甲斐のない弱々しい巡礼メンバー。
「よっ! なかなか似合ってるじゃないか、アッシュ。アメリアさんも綺麗な巡礼者ファッションだな」
「お兄ちゃん、私とヴェスタさんも支度が出来たよ。あっその杖、結構サマになってるね。偉い司祭様っていうか、まるでお兄ちゃん専用の武器みたい」
「アイシャ、一応これ杖じゃなくて棍な。まぁ巡礼者用だから、普段の使用方法は杖なんだろうけど。ってお前はやっぱりナックル装備で行くのか。どこからその攻撃力は出るんだろうな。まさか本当にその小さい身体でタイタン族の末裔なのか?」
「ふふっ。ヴェスタさんがエルフ族なのは分かってたけど、まさか小柄で華奢な可愛いアイシャちゃんがタイタン族の末裔だなんて。御伽噺の世界から抜け出してきたような旅の仲間が出来て嬉しいわ。私、出産までの道のり頑張れそうよ」
精霊の血を引き護身術に長けたアッシュ王子は、杖術と棒術にかけては大陸随一といっても過言ではない腕前。アスガイア神殿で優秀な巫女だったアメリアは、占星術から回復魔法、補助魔法と旅の安全を守る要。
薬師ヴェスタも調合だけではなく、エルフ伝統梓弓の名手で遠方攻撃が可能。アッシュ王子の義妹アイシャは、タイタン族の末裔と噂される父から譲り受けた武闘で戦うことができ、ボディガードとして優秀だ。
そしてアッシュ王子とそれぞれが信頼の絆で結ばれており、安全にアメリアが子どもを産むことを考えると、巡礼のベストメンバーと言える。
「クルックー! ワタクシのこともお忘れなく。精霊鳩のこのポックル、現世から魂の深層、そして聖地の巡礼まで旅の道案内ならお任せをっ」
「ああ、ポックル君。上空からのサポート、頼んだぞ。じゃあそろそろ行こうか」
養親の家を出て、先代剣聖マルセスが手配してくれた場所に乗り込む。しばらく、馬車が走れる場所までは移動手段には困らない。
「達者でな、アッシュ。帰ってきたら、俺にも赤ちゃん抱っこさせてくれよ。なんたって、俺……お前の未来の義兄、赤ちゃんの叔父さんなんだからな!」
「ははっ! その時は、よろしくマルセス。本当にしばしの別れだ……」
その日の空は蒼く、広がる蒼穹は双子が魂を同じくする証拠の青い瞳と、そして翻すマントと同じ色だった。
例え悪神ロキが、世界の終焉……神々の黄昏を喚ぼうとしていたとしても。遠い空の下で、行き先がそれぞれ別れても、いつか再び巡り会えると信じて。
――神のいとし子を守るための、巡礼の旅が始まった。
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