神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星井ゆの花

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正編 第2章 パンドラの箱〜聖女の痕跡を辿って〜

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 最後に見直すのは去年のクリスマスイヴに、アメリアが黒子となり異母妹レティアに読ませた予言である。


『……人々よ、苦難にめげず精進せよ。雪溶けを終えた頃より次第に運気は上がり、やがて夏の魔力は秋の実りへと導く。それ故、この一年は大漁・豊作となり、黄金の光に包まれるだろう。獅子座の新月の輝きに向けて、夏の感謝祭に全ての奇跡が動き出す』


 現状の6月時点では、次第に運気が上がるどころかアスガイアも、それ以外の国も災害が増えて大漁・豊作は望めそうもない。希望的観測をするのであれば、獅子座の新月という奇跡が動くとされている日に問題が解決する方法を検討するくらいだ。


「ごめんなさい、ラルドさん。結局、去年の年末に出した予言、外れていたみたいね。もしかして、これから開く予定の食事会でレティアが暗殺されるのは、予言が外れていることを恨んでいる人が関係者にいるのかも知れないわ」
「まだ分かりませんよ。獅子座の新月から次の満月までに奇跡が起こらなければ、どっちにしろ危ないみたいですし」
「獅子座の新月以降に奇跡が起こりそうなルートは、ルートCと新ルートDってやつよね」

 希望的観測を持てそうなルートを見つけ出し、もう一度読んでみる。


『獅子座の扉が開かれて、黒いドラゴンが現れる。呪われた心臓を魔法の小箱に収め、封印し災いを収束させる』

『全てを終わらせるため、神に選ばれし者が原罪を背負い、天に召される』


 黒いドラゴンとの戦いや魔法の小箱に心臓を収める描写はアッシュ王子の予言と被っていた。だが、新ルートDの神に選ばれし者が原罪を背負い天に召されるというものは、新しい予言の部類だ。

「神殿関係者が精霊の誰かに原罪を背負わせる解決法を提案したらしいから、その影響が未来予測にも反映されているのかしら? やだわ、黒いドラゴンと戦うのもアッシュ君だし、わざわざ精霊体になって戻ってくるのもアッシュ君なのよね。どうしよう……どんなルートを選んでも、またアッシュ君が死んじゃう……」

 せっかく安定してきたアメリアの情緒がまた不安定になってはたまらないと、ラルドは即座にフォローを入れることに。

「アメリア、落ち着いてください。確かにアッシュ王子が関わりそうなラストが多いですけど、決定したわけではありません。蘇民将来のヒントから推測すると、滅亡から逃れるアイテムが必要です。おそらく、パンドラ様も使っていた魔法の小箱かと」
「……ラルドさんが錬金術で作るの? パンドラ様がしたみたいに、いろいろな罪を箱に吸い込ませれば災いから逃れられると?」
「えぇ。もしかすると、レティアさんに魔法の小箱を渡せればうまい形で悪魔像を封印して災いが酷くなる前に収束可能かと。問題は、悪魔を喚び出した張本人のレティアさんをそのポジションに出来るかどうか」

 普通だったらこういう時こそ、姉であるアメリアの出番なのだろうが。この異母姉妹の場合は、あまり仲が良くないため逆効果と言えるだろう。


「レティアは私を嫌っているから。私が食事会を欠席した方が、何と無く良い方法に進むのも理由が分かる気がするわ。そもそもトーラス王太子と婚約破棄して一年経たないのに、夫のアッシュ君を連れてアスガイアに行くなんて非常識よね。例え上辺のお付き合いで招待状が届いても、欠席の方がまともな選択だと思うし」
「ふむ、レティアさんとの仲はともかくとして。アッシュ王子はトーラス王太子ともレティアさんとも初対面になるはずですし。相性すらよく分からない組み合わせです。大事な時期に、顔を合わせるのは良くないかと」

 誰かしらが感情的になって揉める可能性のあるメンバー構成であることと、アメリアもアッシュ王子もアスガイア側からするとレティア殺害の罪を被せやすそうなポジションにいることが、ラルドの中で引っかかった。

「けど、ラルドさん……今まで服とか武器とか色々錬金したものを見てきたけど、パンドラの箱みたいな魔法の小箱なんて作れるの?」
「一応、有名なアイテムですし。僕も錬金術の高みを目指すために挑戦したことはありますよ。ただ、伝説のアイテムですし僕のは試作品というか。完成形を作ったことはまだなんです」
「そう……やっぱり難しい品物なのね。けど、試作品まで行けたってことは、本物を作れる可能性もあるはずだわ。良かった……少しでもアッシュ君が助かる道があるなら、私も頑張らなきゃ!」

 ズキンッ!

(あぁ……アメリア、またアッシュ君か。キミは本当にアッシュ王子に夢中になってしまったんだな。いや、一度吹っ切れたつもりなのに、時系列を読んで未練がましくなったのか?)

 新婚で離れ離れになったため、アメリアがアッシュに特別入れ込んでいるのも分からなくはない。だが、奇妙な痛みと嫉妬心のようなものが、ラルドの心に棘を刺した。


 * * *


 アメリアと儀式会を解散したのち、ラルドはギルド周辺のバーで少しだけ酒を飲んでから帰宅した。錬金のため、一人暮らしの割に大きめの部屋を借りているラルドだが、こういう気分の時は大きな部屋は寂しく感じる。

(熾天使様の時系列、重要な箇所が抜けていたな。僕らの人間関係が壊れないように配慮したのか。あのバレンタインデーの時、僕にもう少し、勇気があったら……)


 アメリアの誕生日はバレンタインデーに近く、大抵はチョコを貰って終わると冗談混じりに嘆いていた。だが、ラルドは……本当は、アメリアにチョコレート以外のものも用意していた。

 滅亡の予知夢を見たというアメリアに配慮して、重い選択をさせないように『魔法の小箱の中身』をプレゼントするのを躊躇してしまった。

 ラルドがアメリアに本来渡す予定だった魔法の小箱を、引き出しから取り出しそっと開ける。


『愛しいアメリアへ。誕生日おめでとう』


 添えられたメッセージカードと共に輝くのは、アメリアに相応しい最上級のプラチナの指輪。ダイヤモンドが埋め込まれた揃いの結婚指輪だった。

 運命の女神はよっぽど意地が悪いのか、アメリアは誕生日から一週間程でアッシュ王子と出会ってしまう。躊躇したプロポーズのチャンスは、二度とこないラストチャンスだったのだろう。

 その後、アメリアが驚くスピードでアッシュ王子と結婚し、夫アッシュが倒れた後も、ラルドは未練がましくこの魔法の小箱を持っていた。
 まるで、自分にこの魔法の小箱を渡す機会がまわってくるかのように。アッシュ王子がいなくなり、心の傷が癒えてからでもいいから結婚してくれと……。

 何処かでアッシュ王子の生還を望んでいなかった自分に気づき、ラルドは自己嫌悪と絶望感に襲われる。


(だけど、今更気づいてももう遅い。アメリアはアッシュ君を知ってしまった。これからどんな展開になっても、アメリアは僕のプラチナリングより、民間兵士の安月給で懸命に購入したというアッシュ君のホワイトゴールドリングの方に価値を感じるだろう。どんなにプラチナの方が値段で勝ろうとも、アッシュ君という付加価値の前では、ダイヤモンドも賢者の石でさえ……無力だ)
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