神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星井ゆの花

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正編 第1章 追放、そして隣国へ

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 本物のトーラス王太子がラルドの分霊と眷属契約をしてしまったことに未だ気付かないレティアは、国内における自分の地位を上げることに躍起になっていた。その一方で、トーラス王太子に成り代わっている悪魔は、自分の周辺を取り巻く魔力が変化していることに気づき疑問を抱いていた。


 * * *


「本日の予定は、高原地域で療養中の国王陛下へのお見舞いよ。割と近い場所だけど、一泊くらいはすることになると思うわ。トーラス王太子様、調子はどう」

 いつもは華やかなカラーの服装が多いレティアだが、今日はお見舞いということもあり清潔感のある紺色のワンピースにシンプルなネックレスというファッションだ。既に王宮に自分の部屋を持ち、王妃さながらの活動をしているがまだ婚約者という立場。
 それでもレティアが仕切れるのは、本物のトーラス王太子と悪魔像の中身を入れ替えたことが関係していた。悪魔像は博識ではあるものの、古代の神のようで現在のアスガイア国の政治事情に明るくなかった。

(アスガイア国王陛下が別荘で療養し始めてしばらく経つわ。王妃も看病のため付きっきりで、公務は息子世代に任せっぱなしだし。これって私がこの国の代表になったようなものよね?)

 まるで自分が実質的な権力を持ったような気になり、ますます図に乗るレティアだが、頼みの綱の新トーラス王太子の調子が良くないという。

「レティアよ、最近変わったことはなかったか? 我がこの肉体に成り代わってからしばらく経つが、どうも魔力が上手くコントロール出来ないのだ」
「まぁ……それは心配だわ。悪魔像から魂を入れ換える秘術は、禁書とされている古代の召喚魔導書からこっそり写し取ったものなの。なんせ古代文字だし今使用されていない言語もあるから、読めない部分があったし。もしかすると不備が生じているかも」

 古代の禁呪を完全解読することは、レティアが成績優秀だとしても、霊能力の強い姉アメリアのチカラを借りたとしてもおそらく不可能だ。当時と言語が異なる上に、古代には大気に存在していたとされる大精霊から授かった魔法エネルギーは消耗され尽くしている。
 だから、当時に近い形で入れ替えの召喚術を行ったわけだが、やはり少し無理があったのだろうかとレティアは思った。だが、悪魔像から出た台詞はもっと予想外のものだった。


「ふむ、古代の召喚魔導書か。我の記憶が悪魔像に閉じ込められる以前に戻ってくれたら、そのような古い記述でも読めたと思うのだがな。せめて我が精霊だった頃の名前さえ判明すれば、古代術をもっと使えるようになるのだが」
「えっ……閉じ込められる前? 精霊だった頃って、どういうことです。悪魔像様って、人が造り出した偶像崇拝の魂ではないのですか?」

 この偶像崇拝という言葉が、古代精霊の魂が元の姿であろう悪魔像の勘に障ったらしい。いわゆる禁句であったであろう『偶像』というキーワードは、途端に場の空気が凍りつかせた。

「レッ……レティア様、その言い方はちょっと……! 偶像という言葉は神に対する侮辱に値します。一刻も早く、謝罪を……」
「ひぃいいいっ。私達の方から代わりに謝りますゆえ……申し訳ございません悪魔像様。レティア様は幅広く様々な学問を学びましたが、黒魔法や召喚魔法の専門というわけではないのですっ」
「いっ今現在の巫女の教育内容が、古代に対する理解の低いものばかりでして。私達、黒魔法使い部隊も頑張って古代魔法や精霊の地位を向上させるよう努力いたしますから……命ばかりは」

 レティアのボディガード役として部屋の後方で見守っていた黒魔法使い達が、うまく間に入り誤魔化そうとする。が、かえって逆効果のようだった。

「ほう。現代の巫女は、悪魔像のことをただの偶像崇拝の対象、もしくはその偶像崇拝の像に宿った何処ぞの低級霊の魂くらいに捉えていたのか」
「まっまさか、このレティア、決して悪魔像様を低い霊魂だなんて考えたこと一度もありません。あの姉に勝ちたくて、私が神の声が聴こえないことを馬鹿にしてくる上層の司祭より遥かに高い存在を探して、悪魔像様に辿り着いたのですわっ。どうか、どうか……ご慈悲を!」

 ぎろり、と睨みつけられてレティアは自分が失言したことを後悔し、必死に頭を横に振り言い訳をする。
 煩かったのか……黙らせるためか。スッとレティアの首に手が添えられ、悪魔像の気持ち一つでレティアのか細い命はポッキリと折れてしまうだろうことが察せられた。

 ――焦り、恐れ、絶望、恐怖。

 調子に乗っていたレティアの心に、しばらく忘れられていた感情がじんわりと戻って来た。レティアがどれほど悪魔像と契約を交わし、その実が……古代精霊の魂であったことに後悔し始める。

(どこかで、悪魔とはいえ偶像が相手ならば私が全てを支配できると勘違いしていた。偶像崇拝用の悪魔像を造ったというよりも、精霊を偶像の中に閉じ込めて無理矢理そのチカラを維持しようとした人達がかつていたというの? それで、トーラス王太子の魂との入れ替えが必要だった?)

「ふむ、では教えてやろう。現代のアスガイア神殿巫女レティアよ。古代では精霊は一つの種類のみ、神と悪魔の分類は人間がその信仰のスタイルによって勝手に呼び名を変えたものだ。我は……我を信仰する一部のアスガイアの民にによって、悪魔像の中に閉じ込められ、悪魔として造りかえられた……元精霊だ。今のアスガイア神殿の精霊神が光なら、我は影の存在としてな」
「精霊……まさか、アスガイア神殿の神と悪魔像様は、同じルーツを持っているというの。光と影の存在として……?」
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