32 / 52
第32夜 黒い蛇
しおりを挟む黒い蛇の使い魔がオレの身体に巻きついてきて身動きが取れない。黒い蛇はあからさまにオレを集中的に狙っている。オレの境界ランプは敵チームのターゲットになっているようだ。
「悪いけど、千夜サンの境界ランプはボクたちがいただくよ」
そう言ってネット魔導師ユミル少年は笑顔でオレの胸に下げられているペンダント型携帯ミニランプに手を伸ばした。
だが……。
「悪いけど、ボウヤの境界ランプは私たち双子姉妹がいただくわ!」
そう言ってユミル少年がオレからランプを奪う前に双子姉妹がユミル少年のランプをあっさり奪ってしまった。
「あ~! いつの間に?」
ユミル少年が驚いて叫ぶ。
双子の片割れが奪ったユミル少年のランプを金糸の刺繍入り巾着に収める。気がつくと2人とも同じ巾着袋を右手に持っている。
ロングヘアを揺らし、ミニスカートをヒラヒラさせておどけた仕草で美しい双子姉妹はクルクルと舞う。
動き回るのでどちらがランプを奪ったのか、もはや分からない。
ユミル少年は慌てた様子で自分のランプを取り返そうとするが、まるで踊っているかのような身のこなしでユミル少年の攻撃をかわす。
流石はプロの踊り子だ。
「奪ったランプをコテージエリアの入り口にある受付の精霊に渡せば今回のテストクリア。 返して欲しければ、私たちを全力で追いかけることね!」
「でも、私たち双子姉妹をあなた達に見分けることができるかしら?」
双子姉妹は性格が異なるために今まで見分けがついていたが、敵を撹乱するためなのか2人とも気の強いキャラであるお姉さんの朱那(しゅな)に見えてしまう。
「ふふ、捕まえられるものなら捕まえてごらんなさい!」
「千夜君! 敵との戦闘頼んだわよ!」
そう言って2人は部屋の外へと出て行った。ユミル少年も負けじと追いけようとするが、ランプを奪われたせいで魔力が低下し呪文がうまく発動しないようだ。
「どうしよう……移動魔法が使えなくなっちゃった。それにあの双子を見分けるなんて無理だよ! あの2人おんなじ髪型にお揃いの衣装で完全にシンクロしてるんだもん!」とユミル少年が落ち込んでいる。
これが撹乱作戦……。
「どうやら、ミイラ取りがミイラになっちまったみたいだな……ユミル! 取り敢えず双子姉妹を追うぞ! 出なきゃオマエ脱落だ」
バンドマンのデュアルさんがユミル少年と一緒に外へと行った。
にも関わらず、オレに巻きついてきた黒い蛇の使い魔は未だに増殖している。
そういえばこのテストは3人で1組のチーム。もう1人ランプの持ち主が参加しているはずだ。
それに自分のパートナーである精霊のチカラを借りることも許されている。
この黒い蛇の魔法は一体誰が使っているんだ? 術者を倒さなければこの蛇達は消えることはないだろう。
すると、普通の壁に見えていた場所から突然黒い人型のカタチが浮かび上がってきた。
ドサッ
悪役風の魔導師ローブの男性……この人は確か先祖が裏切り者だとされているアブラカタブルさんだ。
「うう……早く、逃げてください……あいつがみんなの命を狙って私の身体を……」
オレに取り憑いていた黒い使い魔の蛇の群れがアブラカタブルさんに群がり彼を覆い尽くすようにひとつの黒い何かに変化した。
「あああああああ!」
絶叫をあげて静まるアブラカタブルさん。
この黒い蛇はアブラカタブルさんが出した使い魔じゃなかったのか?
『ふう……ようやく邪魔者が消えて初代境界ランプを我が手に収めることができると思うと嬉しいよ』
さっきまでアブラカタブルさんだった黒いかたまりは黒い巨大な人型の別の何かに変化した。
顔は蛇そのものだ。
『我々は長年この男の家のランプに取り憑いて魔導王の玉座を狙ってきた。裏切り者というレッテルをはられても健気にランプの使命を果たそうとして哀れなヤツだったよ』
このドス黒い瘴気は以前もオレは対峙したことがある。
ソロモン王に仕えていたという悪魔ゴエティアが持つ瘴気だ。
「お前……悪魔ゴエティアの1人か? なぜアブラカタブルさんを?」
黒い蛇の化け物は笑って、その辺の人間に魔導王はふさわしくないからと答えた。もちろんすべての人間にはソロモン王を越えることは不可能だという。
『我々、悪魔ゴエティアは境界ランプをすべて奪い真の魔導王であるソロモン王を冥界から復活させることを目標にこれまで活動してきたんだ。精霊王が課すテストに紛れてどんどんランプの持ち主たちからランプを奪おうという計画だよ。他のランプの持ち主たちの元へも別の悪魔ゴエティアが向かっているだろう』
悪魔ゴエティアはオレを見て不気味に笑ってこう言った。
『お前のランプと命もソロモン王の復活の糧になれるのだ……ありがたく思え』……と。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
スキルは見るだけ簡単入手! ~ローグの冒険譚~
夜夢
ファンタジー
剣と魔法の世界に生まれた主人公は、子供の頃から何の取り柄もない平凡な村人だった。
盗賊が村を襲うまでは…。
成長したある日、狩りに出掛けた森で不思議な子供と出会った。助けてあげると、不思議な子供からこれまた不思議な力を貰った。
不思議な力を貰った主人公は、両親と親友を救う旅に出ることにした。
王道ファンタジー物語。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜
櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。
パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。
車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。
ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!!
相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム!
けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!!
パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる