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第2章 二周目
小国の王子フィヨルド目線:02
しおりを挟む「雷の禁呪よ、自らの貞操を守るために……その雷でこの身を貫いておくれ。我に雷の呪いを……!」
『願いを叶えて、しんぜよう。しかし、いいのか若者よ。下手すれば惚れた娘と結ばれることすら危うくなるぞ』
「オレの愛するヒルデは、とても高い魔力を持っているんだ。この呪いだって解くことが出来るはずだ」
修学旅行中の隙間を掻い潜って、魔法陣を地面に描き即席で呪いの呪文を完成させる。この呪いは、本来ならば自らの貞操を守りたい生娘が、辱めに遭うのなら雷に撃たれて死にたいと願って編み出されたものらしい。
オレは確かにちょっと女みたいな顔立ちだし、目が大きくて色も白い。けれど、決して女っぽいとかそう言うわけでなく、極めてノーマルな男だった。
そして、初めての相手は愛する婚約者のヒルデ……と心に決めていた。その辺りは、純粋無垢な生娘のような純情さもある。
それはともかくとして、取り敢えず我が王室の子種が欲しい的な奇妙な圧迫から逃れなくてはならなかった。おそらくオレに対してその女は、恋愛感情を持っていないだろう。典型的な王子様っぽい外見と、子種を得ることで他国の王室とコネクションが出来ることを望んでいる。
(ちくしょう! みんなでオレを馬鹿にして。せっかく、国のために良い子キャラを貫いていたのに。ヒルデとの純愛すら邪魔されるなんて)
オレを国の財政赤字のために、身売りを強要してきた父親のことも恨んでいた。サラブレッドは競走馬から引退すると子作りをさせられるらしいが、意外とメスもオスも相手を選ぶらしい。だから、意にそぐわない相手だと、子作りが失敗することも。
(オレもサラブレッドを見習って、自分の意思を見せつけないと。きちんと好きな女とそういうことをしたいんだ。初めての相手くらい、自分で選ばせてくれよ)
自分でも、呪いなんかかけて馬鹿だとは思うけれど。これくらいやらなければ、妙な圧迫から逃れることが出来ないのだ。むしろこの呪いは、オレを売った父親への復讐とも言えるだろう。
* * *
「フィヨルド様、こちらが本日のデートの相手となるサキュリィお嬢様です。元老院のご令嬢で、その家柄の歴史はルキアブルグ家に勝るとも劣らない……いえ、それ以上かと」
「悪役令嬢の伝説に出てくるヒルデさんより、私の方が良いでしょう?」
随分と高圧的な女だな。完全にオレのこともヒルデのことも下に見てる。しかも、待ち合わせ場所は屋外ではなく、リゾートタイプのコテージだった。風呂やベッドもすぐ見える場所にあり、本当に我が王家の子種が欲しいだけなんだと実感。呆れてものが言えないところだが、反論しなくてはいけない。
「人の婚約者に対して、その言い方は失礼なんじゃないか。ヒルデ・ルキアブルグは、オレの婚約者だ。侮辱するような言動は控えてもらいたい」
「まぁ? 見かけによらず、随分と気が強いのね。もっと、柔らかい方かとばかり」
ふんっとため息をつくと、ソファの横に座ってきてわざとらしく大きな胸をむにむにと押し当てるように、オレの腕に絡めてきた。
うちの学校の女子制服は、露出度控えめでボレロの着用が義務付けられているはずだが。校則を守らない人なのか、レースのキャミソールに大胆に開いたシャツで肌の露出が激しい。さらに、ミニスカと黒のガーターベルトで、アピールしてくる。
「下品な真似は、やめてくれっ」
「うふふ。どんなに強がっても、所詮は普通の男の子ですもの。そんなに緊張しないでよ、気持ちよくしてあげるから。そうだわ……マッサージしてあげる」
「マッサージ? ちょ、やめ……」
そっと滑らかな動きで押し倒されて、さわさわと身体のいろんな部分を触られる。これは……マッサージというより、セクハラなんじゃないだろうか。
抵抗しようとするが、不思議と手足が痺れて動けない。ただひたすら、相手の動きに翻弄されるばかりだ。
「あっ……んっくぅ……」
「うふふ抵抗しちゃって、可愛いっ。やっぱり、無理言ってこのフィヨルド君をオーダーしてよかったわぁ。やっぱり、初物の方が魂の粋がいいのよねぇ」
(これは、一体。そもそも、なんでこの女こんなに魔力が強いんだ。オレだって、子供の時は神童扱いされる魔力の持ち主だったのに)
「なんだぁ……身体のココ……カチカチよ。口では強がっていても、実は結構嬉しかったり。なぁんて……このサキュバスの前では、男は皆そうなっちゃうのだけど!」
(サキュバス? 男の精力を吸い尽くして殺すというあの? 現実にそんなヤツがいたのか)
「んーんーんー!」
助けを呼ぼうとするが、煩くしないように口を魔力テープで塞がれてしまう。先程の執事は使い魔だったのか、黒い羽を羽ばたかせて姿をこの場から消していた。
(マズイよ、サラブレッドの種馬扱いどころか、このまま童貞を奪われて命まで持っていかれるじゃないかっ? サキュバス相手じゃ雷の呪いも、効かないみたいだし。ヒルデ、役に立たない婚約者でごめん……あの世で一緒になろう)
抵抗虚しく、あわやオレの貞操が奪われそうな寸前のその時だった。神の雷がサキュバスを襲いかかり……。
ズガァアアアアアアンッ!
「きゃああああっ」
* * *
激しい雷が落ちたその日、島のコテージにて丸焦げになった魔族サキュバスの遺体が発見された。サキュバスに囚われて、身を拘束されていたフィヨルド王子の貞操は、辛うじて守られた。
だが、雷に撃たれた後遺症から、フィヨルド王子は記憶障害を起こすようになり、今まで以上にピュアで幼い性格になったという。
次第に因果は、物語の序盤の状況に近づいていくのであった。
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