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第2章 二周目
第13話 フライング気味のプロポーズ
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さすがは女の子の扱いが慣れているというか、何というか。ジークはウィットに富んだ会話とスマートなエスコート能力で、わたくしが受けた心の傷を和らげてくれた。
「観光ついでに、クエストで使えるアイテムを調べてみよう。採取クエストをメインに活動するなら、こういう錬金の素材になる貝殻の種類を把握しておくと良いよ」
「まぁ! その貝殻、ピンク色で可愛らしい……何かのアクセサリーに出来そうね」
「うん。後で練金屋さんに素材を持ち込んで、チャームでも作ってもらおう」
爽やかな風が心地よい海岸は、お散歩するにはちょうど良く。けれど、美しい海の景色はフィヨルドのいない寂しさを細波のように追い立てていった。
お土産に作ってもらったピンク色の貝殻は、錬金技術で可愛らしい魔法チャームにしてもらった。失恋しかけて可哀想なわたくしに、ジークからのせめてもの贈り物なのでしょう。
「ジーク、今日はありがとうございました。本当は、フィヨルドにお願いされて、デートを引き受けたのでしょう?」
「ヒルデ、それは……あぁやっぱり気付いていたんだな。フィヨルド君も嘘をつくのが下手だから。どうせ、目があちこちに泳いでいたんだろうね」
「ふふっ。あちこちに泳いではいませんが、何となくわたくし、フィヨルドに捨てられちゃうんじゃないかって。うぅ……フィヨルド……どうして?」
別にフィヨルドはごく普通の態度で、わたくしとジークのデートを促してきたのだけれど。だからといって、他の女の子と会うために、わたくしをジークに預けたのはちょっぴりショックだった。
気がつくと、自然と涙がポロポロと溢れてきて、止まらなくなったしまう。
「ヒルデ、泣くなよ。フィヨルド君だって、いろいろ事情があるんだろうし。何か嫌なことがあったからって、すぐにフィヨルド君を責めてはいけないよ」
「……つまり、フィヨルドを責めるような内容が、この先起こるんですのね。そろそろ日が暮れる……フィヨルドは、他の女性と【初めての夜】を過ごすのね。わたくしとは、何もそういうことをしていないのに。やっぱり……いても立ってもいられなくなりそうですわ」
今宵を越えるとフィヨルドが、別の女性と一夜を過ごした後かと思うと。もう二度と、今までみたいにフィヨルドと接することが、出来ないような嫌な予感がして。
わたくしは、虚な目で海岸周辺を見渡した。せっかく、タイムリープしてまでもう一度人生をやり直しているのに、二周目もわたくしの人生はバッドエンドを迎えそう。
(あの灯台の上から飛び降りたら、綺麗に死ねるのかしら。フィヨルドが他の女を抱く前に、この世から消えてなくなりたい)
自殺願望の気配を察したのか、何処にも行かぬようにジークがそっとわたくしの腕を掴んだ。
「今日は夜から、雷が鳴るかも知れない。雲行きが、ちょっとあやしいからね。このままうちに来て、泊まっていかないか。両親だけじゃなく、養子縁組で家族になった姉と妹もいる。若い女性の目線で、ヒルデの悩みを聞いてくれるかも知れない」
「ジーク……わたくし、でも」
このまま一人にすると自殺しそうだとバレたのか、ジークは普段よりも優しく壊れ物を扱うような態度だった。
「ルキアブルグ邸にいるより、安全だろう? 僕の家族は皆強いからね、キミをいろんなものから守ってあげられる。フィヨルド君とも約束したんだよ、ヒルデを守るって。行こう」
「ジーク……わたくし、もう……。生きていたくない……何の理由であっても。フィヨルドが、別の女性と一度でもそういうことをしてしまうのなら。わたくし……この世から消えてなくなりたい」
いつまでも駄々をこねて自殺したがるわたくしを励ますためなのか、はたまた本音なのか。ジークはわたくしに大胆な提案をした。
「もう……フィヨルド君との婚約は、なかったことにしてもいいんじゃないか? 結局、彼も他所の権力者の圧迫に屈したんだ。すぐにとは言わないが、フィヨルド君の貞操の行方が判明して……駄目だったら。僕と結婚しよう」
「ジーク? あなた、本気ですの。わたくしが悪役令嬢って呼ばれている理由知らないんですの。御伽噺だとそういう関係を持った後、ヒルデはジークを殺そうとするのよ」
「その御伽噺なら、散々いろんな人に聞かされたよ。けど所詮はただの物語だ。僕はキミと心中しないけど、捨てるような真似もしない。今はまだフィヨルド君がいるから……心に留めておいてくれ」
女好きでスケコマシでどうしようもないと評判のジークに珍しく、真摯なプロポーズに言葉を失う。フィヨルドが別の人のものになってしまう不安から、わたくしは黙ってジークのプロポーズに頷いた。
この時は、わたくしもジークも考えが浅かったのだろう。その頃、フィヨルドが自分の肉体にかけた呪いは【貞操を守る雷の呪い】というもの。
まさか、フィヨルドが自らに禁呪で呪いをかけて力技で貞操を守るだなんて、想像もつかなかった。
海の向こうを見ると一筋の稲妻が、修学旅行クエストが行なわれている島に落ちた気がした。
「観光ついでに、クエストで使えるアイテムを調べてみよう。採取クエストをメインに活動するなら、こういう錬金の素材になる貝殻の種類を把握しておくと良いよ」
「まぁ! その貝殻、ピンク色で可愛らしい……何かのアクセサリーに出来そうね」
「うん。後で練金屋さんに素材を持ち込んで、チャームでも作ってもらおう」
爽やかな風が心地よい海岸は、お散歩するにはちょうど良く。けれど、美しい海の景色はフィヨルドのいない寂しさを細波のように追い立てていった。
お土産に作ってもらったピンク色の貝殻は、錬金技術で可愛らしい魔法チャームにしてもらった。失恋しかけて可哀想なわたくしに、ジークからのせめてもの贈り物なのでしょう。
「ジーク、今日はありがとうございました。本当は、フィヨルドにお願いされて、デートを引き受けたのでしょう?」
「ヒルデ、それは……あぁやっぱり気付いていたんだな。フィヨルド君も嘘をつくのが下手だから。どうせ、目があちこちに泳いでいたんだろうね」
「ふふっ。あちこちに泳いではいませんが、何となくわたくし、フィヨルドに捨てられちゃうんじゃないかって。うぅ……フィヨルド……どうして?」
別にフィヨルドはごく普通の態度で、わたくしとジークのデートを促してきたのだけれど。だからといって、他の女の子と会うために、わたくしをジークに預けたのはちょっぴりショックだった。
気がつくと、自然と涙がポロポロと溢れてきて、止まらなくなったしまう。
「ヒルデ、泣くなよ。フィヨルド君だって、いろいろ事情があるんだろうし。何か嫌なことがあったからって、すぐにフィヨルド君を責めてはいけないよ」
「……つまり、フィヨルドを責めるような内容が、この先起こるんですのね。そろそろ日が暮れる……フィヨルドは、他の女性と【初めての夜】を過ごすのね。わたくしとは、何もそういうことをしていないのに。やっぱり……いても立ってもいられなくなりそうですわ」
今宵を越えるとフィヨルドが、別の女性と一夜を過ごした後かと思うと。もう二度と、今までみたいにフィヨルドと接することが、出来ないような嫌な予感がして。
わたくしは、虚な目で海岸周辺を見渡した。せっかく、タイムリープしてまでもう一度人生をやり直しているのに、二周目もわたくしの人生はバッドエンドを迎えそう。
(あの灯台の上から飛び降りたら、綺麗に死ねるのかしら。フィヨルドが他の女を抱く前に、この世から消えてなくなりたい)
自殺願望の気配を察したのか、何処にも行かぬようにジークがそっとわたくしの腕を掴んだ。
「今日は夜から、雷が鳴るかも知れない。雲行きが、ちょっとあやしいからね。このままうちに来て、泊まっていかないか。両親だけじゃなく、養子縁組で家族になった姉と妹もいる。若い女性の目線で、ヒルデの悩みを聞いてくれるかも知れない」
「ジーク……わたくし、でも」
このまま一人にすると自殺しそうだとバレたのか、ジークは普段よりも優しく壊れ物を扱うような態度だった。
「ルキアブルグ邸にいるより、安全だろう? 僕の家族は皆強いからね、キミをいろんなものから守ってあげられる。フィヨルド君とも約束したんだよ、ヒルデを守るって。行こう」
「ジーク……わたくし、もう……。生きていたくない……何の理由であっても。フィヨルドが、別の女性と一度でもそういうことをしてしまうのなら。わたくし……この世から消えてなくなりたい」
いつまでも駄々をこねて自殺したがるわたくしを励ますためなのか、はたまた本音なのか。ジークはわたくしに大胆な提案をした。
「もう……フィヨルド君との婚約は、なかったことにしてもいいんじゃないか? 結局、彼も他所の権力者の圧迫に屈したんだ。すぐにとは言わないが、フィヨルド君の貞操の行方が判明して……駄目だったら。僕と結婚しよう」
「ジーク? あなた、本気ですの。わたくしが悪役令嬢って呼ばれている理由知らないんですの。御伽噺だとそういう関係を持った後、ヒルデはジークを殺そうとするのよ」
「その御伽噺なら、散々いろんな人に聞かされたよ。けど所詮はただの物語だ。僕はキミと心中しないけど、捨てるような真似もしない。今はまだフィヨルド君がいるから……心に留めておいてくれ」
女好きでスケコマシでどうしようもないと評判のジークに珍しく、真摯なプロポーズに言葉を失う。フィヨルドが別の人のものになってしまう不安から、わたくしは黙ってジークのプロポーズに頷いた。
この時は、わたくしもジークも考えが浅かったのだろう。その頃、フィヨルドが自分の肉体にかけた呪いは【貞操を守る雷の呪い】というもの。
まさか、フィヨルドが自らに禁呪で呪いをかけて力技で貞操を守るだなんて、想像もつかなかった。
海の向こうを見ると一筋の稲妻が、修学旅行クエストが行なわれている島に落ちた気がした。
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