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第2章 二周目

第08話 一方的な恋敵

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 最悪の没落ルートを二つ、白昼夢として見せられたのち。わたくしが意識が取り戻すと、魔力測定知恵の輪大会の真っ最中。

『ヒルデ・ルキアブルグさん、潜在魔力数値2万越え! 低学年の部、及び女子生徒の部ではトップ記録ですっ。3万越えの優勝者フィヨルド君とは、1万差ありますが。ヒルデさんはまだ低学年、これはかなり期待の記録でしょう!』

 まさかの女子トップ記録に、ざわつく会場。ゴルディアスの結び目が訴えていた回避ルートは、自分の魔力を育てることなのでしょうか?

「凄いじゃないかっヒルデ! この数値なら、魔法学校の名門だって、推薦で入れちゃうよ。オレも、もっとたくさん勉強しないと!」

 意外な好成績をおさめたわたくしを笑顔で褒めてくれるのは、まだ純粋で可愛いらしい小学五年生のフィヨルドでした。ふと、あの白昼夢が見せた病んだフィヨルドを思い出して、気持ちが少し暗くなります。

 フィヨルドのバッドルートは、『婚約者ジークを亡くし、身篭っていたわたくし』を妻にする未来。ジークの代わりに結婚することを誓ったにも関わらず、生まれた子供がジーク似の黒髪であったことから、フィヨルドは次第に病んでいった。

『愛する妻ヒルデは自分を裏切り、不貞を犯していた。彼女は自分を夫としながら、その裏では英雄王の末裔である勇者ジークに抱かれていたなんて。オレは、妻にも友人にも裏切られていたんだっ!』

 思い出すだけでも胸が苦しくなるようなフィヨルドの苦悩する表情、ジークのことを『友人』と呼んでいたことも印象に残る。記憶を消去された彼からすると、わたくしもジークも裏切り者だったに違いない。
 わたくしの気づかないところで、ジークと男同士の友情が育まれていたのだろうと思うと、余計に辛い。

 けれど今、目の前にいるフィヨルドは天使のように輝く笑顔で。絶望の未来が待っているなんて、誰も想像しないはず。

(わたくし、やっぱりフィヨルドのことが好きだわ。この優しい人を一時の気の迷いで失ってはいけない。もう、ジークとフィヨルドを天秤にかけるのは止めよう)

「ありがとうフィヨルド。あなたがずっと、わたくしを特訓してくれたお陰ですわ」
「これからは、知恵の輪だけじゃなく、きちんと魔法を使えるように勉強して行こう! 一緒に」

 まるでエスコートする様に手を差し伸べられて、嬉しくなりそっと手を取る。やっぱり、彼はわたくしの……わたくしだけの王子様。
 拍手が降り注ぐ中、優勝者のフィヨルドに手を引かれて、一緒に表彰台へ。
 ゴルディアスの結び目は、わたくしの自己評価の低さと怠惰さが、将来の影となると注意していたけれど。

(そもそも、ジークとフィヨルドの二者択一選択を迫られるのが、原因なのでしょう。なら、わたくしがフィヨルドだけに一途になればいい)

 魔法力を伸ばすと言う共通の目標も出来たし、十六歳になったらすぐにフィヨルドと結婚してしまおう。それが、一番の解決方法なんだわ。


 * * * 


 自分の中で答えが決まり、ホッとして運転手の待つ駐車場まで移動しようとすると、行く手に立ちはだかる同い年くらいの女の子の姿。

「ちょっと待ちなよ、ヒルデ・ルキアブルグ」
「えっ……」

 立ちはだかる少女は、小学生らしい華奢な身体、ヒラヒラのミニスカ魔導服、ピンクのセミロングで大きな瞳。本来なら可愛いらしい容姿なのだろうが、睨みつけられては可愛くもなんともない。

(あれは……誰だったかしら。どこかで見覚えがあるような?)

「なんで……なんでアンタが魔法でまで、私の上を行こうとするの? なんでアンタばっかり、勇者ジーク様や他国の王子フィヨルド様にチヤホヤされるの? おかしいよ、こんなの絶対!」
「あなたこそ、いきなり誰ですの? ジークの関係者でしたら、お引き取り頂けるかしら。わたくし、将来はこのフィヨルドと結婚するのだから。ジークが好きなら、ご自由に!」

 おそらく、ジークの将来のギルドメンバー候補だと推測が立ったけれど。タイムリープのせいで、誰かまでは判断出来なかった。とにかく、ジークに関わらなければ良いだけだと思い、フィヨルドと手を繋ぎ駐車場を進むと気になる一言。

「ふんっ私の名はプラム。将来は、勇者ジーク様のパートナーとなる回復魔法使いよ」
「プラム? 勝手に、ジークのパートナーになればいい。一方的な恋敵なんて、迷惑ですわ」

 わたくしの記憶とどうりで一致しないと思ったら、ジークの前では猫を被って『清純で優しい回復係プラム』という設定を貫いていた女だわ。裏の顔は、こんなにも荒ぶれていたとは。

「いいこと、ヒルデ・ルキアブルグ。アンタがジーク様を拒否しても、神殿はアンタとジーク様を結びつけようとする。アンタ本当は、ジーク様のこと好きなんでしょう? だってこのストーリーは、『そう言うシナリオ』だもの。ねぇ……答えなさいよっ悪役令嬢っ」

 いきなり、ストーリーだのシナリオだの、どうもジークの仲間達は頭が変な娘が多い。決まってわたくしを『悪役令嬢』と呼び、『そう言うシナリオだから』という理由で敵意を向けてくる。

「あんまり深く、関わらない方がいいよ。ヒルデ、行こう!」
「……ええ」

 まるで、この世界が小説かゲームのシナリオのような、意味の分からないキーワードをぶつけてくる少女を無視して。わたくしとフィヨルドは、なんとか車に乗り込み帰路へと着いたのでした。

 この大会で得た成績がきっかけで、わたくしは一周目とは異なる『神聖ウテナ魔法学園』へ進学することが決定します。

 そして中学二年生のある日、秘密蔵書にてこのヒルデ・ルキアブルグが、『悪役令嬢』と呼ばれる原因となる書物を発見するのです。
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