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旅行記6 もう一人の聖女を救う旅
02 自分が知らないもう一つの故郷
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ティアラがクロエの故郷とされる北西の田舎町に到着したのは、ちょうどクロエが魔女狩りの追手に断罪されるのではないかと噂が流れ始めた頃だった。
「ねぇ聞いた? 魔女の矯正施設から召喚魔法でフェルトの聖女に就任していたクロエちゃん、そろそろ断罪されるらしいわよ」
「可哀想にね、ただ向こうでは贅沢三昧だという噂だけど。それだって魔力をささげる人身供儀の手前、いつも良い格好をさせていただけだろう。そのうえいざとなったら始末しやすいように、豪華な衣装を着せていたんだろうよ」
「あの子の代わりに殺されたお母さんも、これじゃあ浮かばれないわね。我々魔女はことあるごとにこうやって犠牲になるしかないのかしら?」
即ち、彼女の後ろ盾となっているマゼランス王太子が革命によりその座から引きずり下されて、精霊国家フェルトが陥落する予兆でもあった。
「それにしても、ちょっと人が集まる場所に立ち寄っただけでも、クロエの噂で持ちきりだな。いずれフェルトは革命により堕ちると予想されていたが、まさか噂がこんなに酷いとは」
「おそらくクロエの故郷であるこの村が、例の召喚の儀式以降からフェルトに高い関心を持っているからなのでしょうね。クロエからも寄附金を少し、もらっていたらしいし」
「取り敢えず観光案内所で無事に手続きを済ませたはいいけれど、宿に荷物を預けないと。村長さんが紹介してくれた宿は、ここからバスで十分ほどだな。行こう」
余所者が村を訪問するには特定の手続きが必要となっており、ティアラとジルは魔法グッズ管理会の人間としてフェアトレードの挨拶という名目を掲げての訪問となった。観光案内所では村長自ら出迎えてくれて丁重に扱われているティアラ達だったが、当初予定されていた大々的な歓迎は目立ちすぎるためやんわりと断ったのだ。
* * *
「ティアラはどうして、そこまでこの村にこだわるんだ? そのクロエとかいう少女とは親しいわけでは無いんだろう。いや、むしろ……」
「えぇ、お世辞にも仲が良いとは言えないわ。けどそれとこれとは話が別、それに……私もちょっとだけこの土地に縁があるかも知れないの。両親はフェルト出身だし、まだ確定しているわけではないけれど」
田園風景を眺めながらバスに揺られていると、初めて訪れる場所なのにティアラは懐かしい気がした。それはローズマリーやカモミールなどの季節の訪れを知らせるもので、幼い日のティアラが家族と過ごした記憶として覚えている数少ない思い出だった。
「縁のある土地か、そういえばティアラは幼い頃に聖女に選ばれてからご両親には会えていないのか」
「えぇ、私の聖女としての秘密を守るために両親の連絡先は分からずじまい。両親がまだ存命かどうかは、五分五分といったところだけど。とっくにフェルトからは出てしまって、母方の故郷に帰ったかも知れないの。薬草に詳しかった母の手掛かりになりそうなのは魔女達の故郷だけ」
「まぁ、手掛かりくらいは見つかるかもな。何となくだけど、ティアラが旅にこだわる理由が分かった気がしたよ。きっとご両親の痕跡がありそうなもう一つの故郷を探しているんだろうな」
(母が時折、家に飾っていた美しい花々は、今思うと傷を癒す錬金素材だったわ。この旅はクロエのためだけじゃなく、自分が知らないもう一つの故郷を辿るものになるかも知れない)
もちろん、この旅行は慈善家として魔女狩りを廃止する活動のための視察も兼ねていたが、それは沢山ある訪問理由の一つに過ぎない。追放された聖女ティアラの旅はあくまでも『気ままな旅』なのである。
「ねぇ聞いた? 魔女の矯正施設から召喚魔法でフェルトの聖女に就任していたクロエちゃん、そろそろ断罪されるらしいわよ」
「可哀想にね、ただ向こうでは贅沢三昧だという噂だけど。それだって魔力をささげる人身供儀の手前、いつも良い格好をさせていただけだろう。そのうえいざとなったら始末しやすいように、豪華な衣装を着せていたんだろうよ」
「あの子の代わりに殺されたお母さんも、これじゃあ浮かばれないわね。我々魔女はことあるごとにこうやって犠牲になるしかないのかしら?」
即ち、彼女の後ろ盾となっているマゼランス王太子が革命によりその座から引きずり下されて、精霊国家フェルトが陥落する予兆でもあった。
「それにしても、ちょっと人が集まる場所に立ち寄っただけでも、クロエの噂で持ちきりだな。いずれフェルトは革命により堕ちると予想されていたが、まさか噂がこんなに酷いとは」
「おそらくクロエの故郷であるこの村が、例の召喚の儀式以降からフェルトに高い関心を持っているからなのでしょうね。クロエからも寄附金を少し、もらっていたらしいし」
「取り敢えず観光案内所で無事に手続きを済ませたはいいけれど、宿に荷物を預けないと。村長さんが紹介してくれた宿は、ここからバスで十分ほどだな。行こう」
余所者が村を訪問するには特定の手続きが必要となっており、ティアラとジルは魔法グッズ管理会の人間としてフェアトレードの挨拶という名目を掲げての訪問となった。観光案内所では村長自ら出迎えてくれて丁重に扱われているティアラ達だったが、当初予定されていた大々的な歓迎は目立ちすぎるためやんわりと断ったのだ。
* * *
「ティアラはどうして、そこまでこの村にこだわるんだ? そのクロエとかいう少女とは親しいわけでは無いんだろう。いや、むしろ……」
「えぇ、お世辞にも仲が良いとは言えないわ。けどそれとこれとは話が別、それに……私もちょっとだけこの土地に縁があるかも知れないの。両親はフェルト出身だし、まだ確定しているわけではないけれど」
田園風景を眺めながらバスに揺られていると、初めて訪れる場所なのにティアラは懐かしい気がした。それはローズマリーやカモミールなどの季節の訪れを知らせるもので、幼い日のティアラが家族と過ごした記憶として覚えている数少ない思い出だった。
「縁のある土地か、そういえばティアラは幼い頃に聖女に選ばれてからご両親には会えていないのか」
「えぇ、私の聖女としての秘密を守るために両親の連絡先は分からずじまい。両親がまだ存命かどうかは、五分五分といったところだけど。とっくにフェルトからは出てしまって、母方の故郷に帰ったかも知れないの。薬草に詳しかった母の手掛かりになりそうなのは魔女達の故郷だけ」
「まぁ、手掛かりくらいは見つかるかもな。何となくだけど、ティアラが旅にこだわる理由が分かった気がしたよ。きっとご両親の痕跡がありそうなもう一つの故郷を探しているんだろうな」
(母が時折、家に飾っていた美しい花々は、今思うと傷を癒す錬金素材だったわ。この旅はクロエのためだけじゃなく、自分が知らないもう一つの故郷を辿るものになるかも知れない)
もちろん、この旅行は慈善家として魔女狩りを廃止する活動のための視察も兼ねていたが、それは沢山ある訪問理由の一つに過ぎない。追放された聖女ティアラの旅はあくまでも『気ままな旅』なのである。
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