上 下
61 / 87
旅行記5 錬金魔法ショップ開業記

05 飛空船で魔法都市へ

しおりを挟む
「それではしばらくは一棟全て改修工事を行なって、開店に向けての準備期間としましょう。研修先はロンドッシュですので、本場の魔法文化について学ぶことが出来ますよ」

 ついに魔法グッズ管理会と加盟店契約を交わしたティアラは、ショップの改装工事期間中に研修を受けることになった。研修場所は、魔法グッズ管理会本部が設置されている伝統的な魔法の本拠地『魔法都市ロンドッシュ』である。
 家族や所属ギルドに研修旅行の報告をして、荷造りや飛空船のチケットも手配し準備は万全。自室でボストンバッグや旅行用カートの荷物を眺めて、出立に向けてひと休み。

 そこでティアラはふと、結婚してからジルと二人っきりで長期間旅をするのは初めてだと認識して、思わず赤くなった。

(そういえば長期の旅行は、フェルトからハルトリアに移動してきた時以来だわ。ポメが一緒とはいえ久しぶりに、ジルと二人っきり)

「ティアラ、荷物の確認は済んだか? そろそろ、飛空船乗り場に移動するぞ」
「えぇ。分かったわ、今行くから」

 結婚後のティアラにとっては、初めての海外旅行だ。一応ジルと籍は入っているものの、結婚式やハネムーン旅行がまだのため思わず緊張してしまう。


 * * *


 車で飛空船乗り場へ移動し、二時間半ほどの空の旅を楽しむことに。座席で研修用の魔法グッズ店パンフレットを眺めながら、初めての土地に想いを馳せる。

「オススメの軽食はフィッシュアンドチップス、モルトビネガーやタルタルソースでより一層美味しく。田舎地域に行けば、歴史的な魔女の故郷巡りも出来ます」
「魔女ねぇ、いろんな国に魔導師はいるが、昔ながらの魔女は最近見かけないよな」

 パンフレットには三角帽子に黒いローブの魔法使いのキャラクター、ほうきを片手に猫を連れて楽しそうにお買い物をしている姿が描かれていた。魔法を志す若者に、気軽なショッピングをして欲しいというコンセプトのようだ。

「ロンドッシュは錬金術や魔法の本場とされていて、魔導書や杖の輸入は世界一なんだとか。フェルトに住んでいた時は、精霊契約に基づいてフェルト流の呪文詠唱を勉強していたけど。まだまだ、覚えることがたくさんあるわね」
「そっか、ティアラはフェルト王宮の生活が長くて、海外は慣れていないんだったな。ハルトリアからロンドッシュは飛空船を使えば近いし、旅費もそれほどしないから勉強を兼ねて行く機会は増えるだろう」
「ふふっ。研修は魔法ショップの基本勉強会、現地のショップ見学、接客ノウハウですって。実際は開業しても錬金や買い付けをしなきゃいけないから、私がお店に顔を出すのは週に一、二回で良いらしいけど。接客なんて初めてだから不安だわ」

 売り子として、同じ魔法ギルドに所属するハルトリア出身の黒魔法使いが、働くことは既に決定している。顧客の三分の一くらいはハルトリアからの移住者が想定されているため、故郷に詳しい人が良いとのギルドからの推薦だ。
 だが、肝心のティアラは接客経験がないため、今回の研修で鍛えてもらうことになった。

「接客かぁ……以前、兄貴がバーを経営していた時のちょっとだけ手伝ったな。バーテンダーとして」
「えっ……ジルって、そんなアルバイトしたことがあるの?」

 夫の意外な職歴に驚く反面、『そういえば、バーテンダーっぽい雰囲気の兄弟よね』と妙に納得する。

「いや、正確にはうちの余っている物件を利用して、兄貴がちょっとお店をやりたいって言って。週末だけ兄貴がバーテンダーとして店に出てたんだけど、ヘルプでオレも働いたんだよ。まぁ兄貴を巡って女の人達が揉めて、店を閉じちゃったけどな」
「そ、そう。バジーリオさんって、ハルトリア随一のイイ男を自称していただけあって、いろいろ大変なのね」

 今回の開業にもそれほど抵抗なく乗る気になっていたハルトリア家の人々だが、既にいろいろな事業に挑戦済みのようで、何となくティアラはホッとした。

 夫婦で談笑しているうちにあっという間に時間は過ぎ、研修地である『魔法都市ロンドッシュ』に到着するのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした

カレイ
恋愛
 「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」  それが両親の口癖でした。  ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。  ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。  ですから私決めました!  王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。  

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)

蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。 聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。 愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。 いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。 ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。 それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。 心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。

妹の事が好きだと冗談を言った王太子殿下。妹は王太子殿下が欲しいと言っていたし、本当に冗談なの?

田太 優
恋愛
婚約者である王太子殿下から妹のことが好きだったと言われ、婚約破棄を告げられた。 受け入れた私に焦ったのか、王太子殿下は冗談だと言った。 妹は昔から王太子殿下の婚約者になりたいと望んでいた。 今でもまだその気持ちがあるようだし、王太子殿下の言葉を信じていいのだろうか。 …そもそも冗談でも言って良いことと悪いことがある。 だから私は婚約破棄を受け入れた。 それなのに必死になる王太子殿下。

処理中です...