53 / 87
旅行記4 夫婦初めての共同クエスト
09 これがクエストというもの
しおりを挟むティアラのギルド入会テストは予想よりも順調に進み、錬金素材のうち二つは午前中のうちに調達することが出来た。
最後の採取場所である古代湖畔へとバスで移動すると、モンスター出没区域ながらも観光を兼ねた冒険者の姿がチラホラ。もちろん、遊びではなくクエストを受理してから来ているのだろうが、楽しそうに談笑している姿は観光客と変わらない雰囲気だ。
「湖畔エリアに無事着いたけど……心なしか、みんなリラックスしている気がするわ。それほど強いモンスターも出没しないみたいだし、採取がメインのスポットなのかしら」
「そのようだな、出没モンスターはレベル1から3前後の温厚なモンスターのみ。採取可能な素材はエーテルをはじめ、ボートで魚釣りも可能。大型の自然公園と言った方が、しっくりするぞ」
湖畔管理事務所には冒険者向けの開放スペースがあり、そこで持参したランチボックスを食べられるようになっていた。テーブルと椅子がいくつも並び、フードコートのような使い方がされている。併設の売店で購入したものを食べる冒険もいたが、ティアラ達はギルドから支給されたランチボックスがある。
「ドリンクは売店にたくさん売っているけど、クエストにぴったりな疲労回復の蜂蜜入りミルクティーがオススメですって。今日は比較的気候も暖かだし、コールドタイプの方がいいかしら」
「へぇそのうち、蜂蜜は錬金でも使うだろうし、勉強のためにも飲んでみるといいな」
ドリンクを売店で購入してさっそくテーブル席に座り、リュックからそれぞれランチボックスを取り出す。清潔のためレモングラスの香りのするウェットシートで手を拭き、食事の準備は万全。中身が分からない箱を開けるのは、幾つになってもドキドキするものだ。
「さてと、せっかく食事スペースも提供されているし、ギルド支給のランチボックスを頂くか。オレが所属しているガンナー系のギルドでは、飯盒にザックリとした昼飯が詰められているのが定番だが。魔法系ギルドでは、どんなメニューなのか?」
「容器からして飯盒ではないし、パニーニか何かよね。きっと……では、オープン!」
期待と不安が入り混じる中、ランチボックスの蓋を開けると、パニーニよりも薄いパン生地に具がたっぷりと詰め込まれたサンドウィッチ。
「これは……トラメッツィーノだっ。しかも、随分と具材をたくさん入れて気合が入っているな。そうか、これが魔法系ギルドの特製ランチボックスか……はははっ上品な中にもワイルドさが漂っているぜっ」
「ハルトリアの人達はパンをサンドしたものを、パニーニやトラメッツィーノのように細かく種類分けしているのね。具材はエビとアボガド、トマトとチーズのピッツァ風、クリーム多めのフルーツサンドも! 一つ一つ大きくて、こんなに食べられるかしら?」
「フルーツサンドはドルチェの枠だろう? ハルトリア人は甘いものは別腹、サラダもあるしヘルシーだぜ。では、いただきます!」
トラメッツィーノとは、ハルトリア風のサンドウィッチのことで、国民食のパニーニと比べるとパン生地が薄いものを指す。屋台で出来立てをホットな状態で提供しているパニーニとは対照的に、携帯食として常温のまま食べることを想定しているものが大半だ。
ギルド支給の手作りトラメッツィーノで空腹を満たし、売店の冷たいハニーミルクティーで心も癒される。ポメもお水とおやつを補給出来て、満足そうな様子。
だが、穏やかな空気は一瞬にして砕かれた。外でバトルを行う魔法の弾ける音が聞こえ、助けを求めて初級冒険者が休憩所に飛び込んできたのだ。
「きゃああっ! 誰か、Sランク冒険者はいませんか? 凶暴な外来種が湖畔に混ざったみたいで、太刀打ちできないの!」
「えっ……外来種。まさか、この辺りでは生息していないはずのモンスターが?」
すっかり観光に来たような気分になってしまっていたが、突然の悲鳴にティアラは我に帰る。平和に見えても冒険者指定スポットは、いつ何が起きてもおかしくない。
――これがクエストというものなのだと、実感せざるを得なかった。
0
お気に入りに追加
313
あなたにおすすめの小説
召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます
かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~
【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】
奨励賞受賞
●聖女編●
いきなり召喚された上に、ババァ発言。
挙句、偽聖女だと。
確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。
だったら好きに生きさせてもらいます。
脱社畜!
ハッピースローライフ!
ご都合主義万歳!
ノリで生きて何が悪い!
●勇者編●
え?勇者?
うん?勇者?
そもそも召喚って何か知ってますか?
またやらかしたのかバカ王子ー!
●魔界編●
いきおくれって分かってるわー!
それよりも、クロを探しに魔界へ!
魔界という場所は……とてつもなかった
そしてクロはクロだった。
魔界でも見事になしてみせようスローライフ!
邪魔するなら排除します!
--------------
恋愛はスローペース
物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
【完結】人々に魔女と呼ばれていた私が実は聖女でした。聖女様治療して下さい?誰がんな事すっかバーカ!
隣のカキ
ファンタジー
私は魔法が使える。そのせいで故郷の村では魔女と迫害され、悲しい思いをたくさんした。でも、村を出てからは聖女となり活躍しています。私の唯一の味方であったお母さん。またすぐに会いに行きますからね。あと村人、テメぇらはブッ叩く。
※三章からバトル多めです。
【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。
藍生蕗
恋愛
かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。
そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……
偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。
※ 設定は甘めです
※ 他のサイトにも投稿しています
この野菜は悪役令嬢がつくりました!
真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。
花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。
だけどレティシアの力には秘密があって……?
せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……!
レティシアの力を巡って動き出す陰謀……?
色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい!
毎日2〜3回更新予定
だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!
【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」
まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05
仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。
私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。
王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。
冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。
本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
【完結】逆行した聖女
ウミ
恋愛
1度目の生で、取り巻き達の罪まで着せられ処刑された公爵令嬢が、逆行してやり直す。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書いた作品で、色々矛盾があります。どうか寛大な心でお読みいただけるととても嬉しいですm(_ _)m
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる