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旅行記2 婚約者の家族と一緒に
02 義妹に懐かれて
しおりを挟むジルの帰りを待ちわびていたという少女は、二十歳ほど歳の離れたジルの妹だという。腹違いのせいか妹の方は、黒髪のジルよりもやや明るめの亜麻色の髪色だ。
だが、パッチリ二重でつり目がちの瞳はジルの目に似ていて、同じ父親譲りの遺伝であることが察せられた。
「お兄ちゃんっ出張お疲れ様。あれっその綺麗な人が、例のお嫁さん? 良かった落ち合えたんだねっ。ところで、お土産は~」
「……ミリア、立派なレディになりたければ、もう少し落ち着きなさい。ほら、お土産は頼まれていた薔薇のコロンだぞ」
「うわぁいっ。今日から、お洋服に使おうっと」
精霊国家フェルトのコロンは、国お抱えの錬金術師が特別な魔力練金で作っているため、他国からも人気が高い。マゼランス王太子と聖女クロエが散財しなければ、意外とフェルトの財政は安定する要素も有るのに、とティアラは勿体無いなく思った。
「ジル様、お帰りなさいませ。ご無事で何より、ティアラ様もお話は伺っております」
「あぁそれにしても、久々の遊びでミリアがはしゃいで大変だったろう。ご苦労だったな」
お土産を見て大喜びする美少女を見て、すぐにジルの妹と判断できる者は少ないだろう。変に早とちりして、失言しなくて良かったと胸を撫で下ろす。
(ミリアちゃんは、はっきりと『ジルお兄ちゃん』と呼んでいるし。かなり歳の差のある兄妹なのは、本当のことみたい)
「初めまして、私ミリアって言います。ティアラさんはお兄ちゃんの怪我を治すために、持ってる魔力を全部使ってくれたんでしょう? 私からもお礼を言わせてね」
「えっ……う、うん。私の最後の魔法でジルを助けられて良かったわ。ミリアちゃん、こちらこそよろしくね」
「うふふ! あれっこのカゴに入っているワンちゃん、ポメラニアンだぁ可愛い~。明日のお祭りは一緒に回ろうね」
ポメを幻獣ではなく本物のポメラニアンだと思っているようだが、疲れてしまい説明する気力が湧かないティアラ。
「んっ? ティアラも長旅で疲れているみたいだし、屋敷に戻る前にバルで食事にするか。あっバルって言うのは、うちの国のカフェみたいなもんだよ」
「そういえば、ジルってカフェのエスプレッソが好きって言ってたものね。この国では、バルって呼ばれているんだ」
元気なミリアに押され気味のティアラを見て、疲れが溜まっていると思ったのか、ジルが家族水入らずで食事を提案。
「わぁい! お兄ちゃんがいない間はバルに連れて行ってもらえなかったから、ミリアも嬉しいな。ティアラさん、ミリアね聖女様にすごく憧れていたの。いろいろお話し聞かせてね」
キラキラと瞳を輝かせて、元・聖女のティアラを見つめるミリアに、思わず心がハッとする。聖女を引退しても、レディとしてジルの隣に恥ずかしくないように立ちたいと思うようになってきた。
それに少しずつだが、異国の文化に馴染まなくてはいけない。ティアラは追放されて、人生そのものを引退したわけではない。むしろこれから、彼女の女としての人生の本番が始まるのだ。
「ミリアちゃん、私ね。御伽噺の聖女様のような暮らしは、していなかったけど。それでもいい?」
「うん! ティアラさんが、どうやって回復魔法を覚えたんだろうとか、そういうことが知りたいのっ」
「はははっ。ミリアに懐かれて大変そうだな、ティアラ。けどまぁ家族になるんだから、仲良くなるのはいいことだ」
とっくの昔に失くしたはずの家族という響きに、ティアラの心がチクリと痛む。ハルトリアでの暮らしは、想像よりも賑やかなものになりそうだ。
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