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正編

04 彼女を見守る謎の影

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「あのっ、その幻獣。捨ててしまうのなら、私に譲ってはもらえないでしょうか?」

 自分と似た境遇の幻獣を前に、ティアラは考えるよりも早く、すぐに動いてしまった。ギルドの従業員に駆け寄り、子犬にしか見えない震える幻獣の引き取り手として申し出たのだ。

「えぇっ? 別に構わないけど、そいつはもう魔力が尽きているから、冒険の役にはさほど立たないぞ。ポメラニアンと大差ない大きさだし、犬みたいなもんだ」

 確かに、幻獣としての魔力の光を帯びていないその小さな生き物は、見た目はほとんどただの犬だった。実際に、魔法を使った攻撃が出来ない以上、ギルドとしては飼うことが出来ないのだろう。

「けれど、もともとは幻獣なのでしょう? 普通の子犬よりもはるかに丈夫なはず、ボディガード役として使いたいの」

 相手を納得させるには、若干苦しいかと思われた理由だが。ギルド従業員は、上から下まで厳しい目つきでティアラの【ワンピース型のローブ】という装備を見て『ジョブにつくなら薬師か、錬金術師ってところか』とポツリと呟く。
 実際には、最近まで聖女という特別な魔法職についていたけれど。一からスキルを覚えて再就職するなら、魔力依存度が低いその辺りのジョブを目指すことになるだろう。

「あんた、戦闘は? それとも、一般枠で旅するだけのか?」
「この国から出ていくことになっただけで、普通の旅よ。今のところ、モンスターと戦う予定はないわ」

 特に冒険者でもなさそうなティアラが、魔力の無い幻獣を飼いたいという願い。果たして、ギルド従業員の結論は?

 幻獣と仲良くなるために、ティアラはそっと手を差し出す。その時だった。

「くうーん」

 幻獣自ら、ティアラが差し出した手にお手をして、尻尾をふりふりと振り始めた。『この人に飼われたい』というアピールなんだろう。

「はぁ……仕方ねえな。戦うわけでもないんなら、いいけどよ」

「本当ですかっ! ふふっよろしくね、幻獣君っ」
「きゅいんっ」

 ティアラが幻獣を持ち上げると、見た目よりも軽くふわふわとしていてまるで綿菓子のようだった。


「へぇ。あれが、この精霊国トップ聖女ティアラね。いや、元・聖女か」

 聖女と小さな幻獣が心を通い合わせたその光景を、一人の男が静かに見守っていた。
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