追放される氷の令嬢に転生しましたが、王太子様からの溺愛が止まりません〜ざまぁされるのって聖女の異母妹なんですか?〜

星里有乃

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第二部 第三章

第09話 冷たい悪魔に魅入られて

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 天使が宿るペタライト鉱石の鉱山へ調査隊が派遣されて、数日が経ったある日。鉱山の奥に隠し部屋が発見され、豪雪集落地域にまつわる古文書が多数見つかった。そこには、天使の異名を持つ鉱石とは相反する集落の伝説が記されていた。


【伝承01:美しい悪魔の鉱石】
『この豪雪集落には、美しく冷たい悪魔が宿るアイスデビルと呼ばれる鉱石が埋まっている。アイスデビルからは清廉なオーラすらが感じられるが、その美しさに魅入られた人々が鉱床を奪い合ったため、デビルという名がついてしまった』


【伝承02:悪魔に取り憑かれた人々】
『人々はどうにかしてアイスデビルをものにしたかった。理由は様々だが、錬金術に長けた地下都市アトランティスの市民に今一歩及ばなかったことも関係ある』
『地上の民は錬金術ではなく波動術でアトランティスの民と戦うつもりでいた。しかし、地上の民同士の戦いの方が熾烈であった。何故なら、アイスデビルにはとても高額な値がついていたからだ』


【伝承03:隕石は神の怒り】
『結局、地上の民は神の怒りに触れたせいで隕石事故に巻き込まれて殆どが滅んでしまった。ペタライト鉱石に宿る天使が豪雪集落の民を守ってくれなければ、きっと豪雪集落都市アイスデビルの民は完全に滅んでいたに違いない』


【伝承04:悪魔と天使の共存】
『罪作りな鉱石だが、人々が悪魔に魅入られぬように結界を作っておいた。そして天使が宿るペタライト鉱石がアイスデビルに寄り添うように佇んでいるのは偶然ではないだろう』
『忘れないでほしい……悪魔の正体は美しい鉱石ではなく、アイスデビルの美しさに我を忘れた人間だということに。そしてこれを読んだ人の心に天使が宿るように、切に祈っている』


 旧メテオライト国における古代都市といえば、地下都市アトランティスが後の世にも伝えられたが、豪雪集落にもかつては古代都市が存在していた。このことは今回の調査ではっきりとしたことであり、歴史上大きな進展をしたと言える。


 ギベオン王太子は、今現在滞在している豪雪集落がアトランティスと同じ古代都市の跡地であることに驚愕した。そしてアイスデビルという名の美しい鉱石が、婚約者であるルクリア嬢と被る気がして。既に自分は、悪魔に魂を売ったのだと確信してしまう。

「僕は婚約者を取り返したくて、隕石を呼ぶ禁呪の魔法を自らの魔力の暴走という形で使ったんだ。きっと、かつて豪雪集落に住んでいたアイスデビルの民となんら変わらない。美しい宝石に魅入られて道を踏み外した者の末路。そうか……これは、僕への教訓なのか」
「ギベオン王太子様、自分を責めてはなりません。隕石事故も、宇宙の法則に基づいていつかは自然と起こるものです。ただ、ギベオン王太子様は他の人よりも隕石と共鳴しやすかった。感情の揺らぎが、隕石と繋がってしまう。いずれ来るその日が、タイミングとして合ってしまった……それだけですよ」

 隕石を呼んだのは確かにギベオン王太子のはずだが、彼が魔力を暴走させなくてもいずれはその日が来たと執事が励ます。確かにそうなのかも知れないが、今更ギベオン王太子は自らの未熟さを痛感する。

「爺や、ありがとう。けれど……やっぱり気が重くてね。しばらく、一人にさせてくれないか」


 執事が部屋をでたのち、ギベオン王太子はロッジの窓から見える雪景色に想いを馳せた。


 * * *


 積雪があまりにも多い日は、派遣部隊の洞窟の調査などは一旦お休みとなる。その代わり、暖炉に使う薪を割る作業など豪雪集落に住む人々の手助けをする。力仕事が不得手な女性陣の場合は、保存食作りや裁縫の手伝いが主な仕事だ。
 食糧保存研究担当の女性が、キッチンで新たな保存方法についての説明会を開く。

「アトランティスでは野菜が少ないから、東方の漬物で長持ちさせるのが流行っているの。ぬか床を貰ってきたから、今日はその作業をしましょう」
「ぬか床って、聞いたことあるわよ。なんでも東方では先祖代々、家庭の味を守るためにぬか床も継承するんですって」
「と、いうことは今回のぬか床が今後子孫にも伝わるってこと?」


 豪雪地帯という立地上、食糧の確保は何よりも重要で保存食のバリエーションを増やすことはとても歓迎された。レンカもぬか床作業に加わり、普段話す機会のない人と交流を深める。
 すると、異世界転生者らしき女性研究者の一人が意外なことを訊ねてきた。

「ねぇ、レンカちゃんだったわよね。貴女ももしかして、異世界転生者? もう同盟には入っているの。もし無所属なら、今後の城レベルのことも考えてうちの同盟に入らない? まだ作りたてで、メンバーが少ないの」
「えっと。異世界転生者かどうかは自分でもよく分からないんですけど。同盟って、なんですか。ごめんなさい……この世界って乙女ゲーム異世界だって噂はあったけど、同盟に加入するシステムなんてあったかしら」
「あっ……そっか。レンカちゃんって、もしかして乙女ゲーム異世界のクロスオーバーキャラなのよね。ごめんね! てっきり、ストテラジーゲーム出身者だとばかり」

 ストテラジーゲームとは、拠点となる城や施設のレベルを上げていく、領土拡大系のゲームである。乙女ゲームも恋愛シミュレーション要素が少なければ、ストテラジーゲームの枠組みに入れても良いだろう。
 それに、消えたはずのレンカアバターが復活出来た理由づけも他のゲームとのクロスオーバーが実現したからと考えれば合致がいく。

(もしかして、今の新しいレンカってアバターはそのストテラジーゲームで作り直したアバターなのかな?)

「その……同盟ってやつ。加入した方が良い仕組みなんですか。加護魔法しか特技はないけど」
「もちろん! 加護魔法はこのゲームの基本だし、きっと重宝されるわよ。早速、加入メール送るわね」

 ピピピッ!

 気がつくとレンカの所持品にスマホが加わっていて、ストテラジーゲーム用のアバターが正式にダウンロードされていた。

『キャラクター名:レンカ。乙女ゲームにおいて消えたはずのヒロインの一人。ストテラジーゲーム異世界で復活し、豪雪集落アイスデビルの加護を任される。彼女がかけた加護魔法が消えると、領土が侵略されやすくなるため注意』

 スマホ画面の説明文を読んで、思わず絶句する。そこには、明らかに敵対者が存在することが示唆されていた。

(領土が侵略……。これから、一体何が始まるというの?)
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